第51話 夏の勉強合宿(前編)

 夏休みをいかがお過ごしだろうか?

 俺は、久しぶりに順調な夏休みを過ごしている気分である。慣れない金持ち旅行生活が何度かあったが、乗り切った。日常的な日々を送ることに重きを置いている俺には、今日ぐらいが本当にちょうど良いのだ。


 さぁて、高校2年生の夏休み後半というのはどうあるべきだろうか。これは永遠の命題であり、答えは存在しないだろう。


 今、俺は書斎に雅を迎えて、零を含めた3人で絶賛追い込み中である。

 普段であれば、零と俺で持て余している机を今日は満席状態である。その上に、まだ使ったことがない移動式ホワイトボードもスタンバイだ。


 「えっと、まず整理すると、零が数学と理科の進み具合5割程度で、雅は?」


 「えーとね、宿題リスト見たら、零ちゃんプラス英語って感じ?」


 「あ、そんなもんか。」


 葉山から事前に「かなり残っている」と前振りされていたのでどんな返答がこようと平静を装うとしていたが、杞憂であったようだ。


 「じゃあ、午前中は数学と理科に時間を使って、午後は英語だな。」


 経験上というか、科学的にも午前の方が頭の働きが良いことは示されている。なので、頭を使う数学や理科は午前中にやるのが吉だ。無論、英語を無碍にしているのではなく、効率面から考えての話である。


 「「 はーーい」」


 女子高校生の元気なお返事を聞いて、勉強開始である。

 そして、俺も自身の勉強に取り掛かる。状況や関係性を知らない者から見れば、何とも甘美な空間に見えるだろう。もちろん、その通りである。零は、普通な表情をして、雅はいかにも嫌そうな眼差しで机に向かっている。



 朝の時間を有意義に過ごしているというのがヒシヒシと伝わってくる。まぁ、俺は終わってしまったので暇を持て余しているに等しいがな。




 お昼が近くなってきた時に、痺れを切らしたのは雅だった。


 「飽きたーー」


 俺や零の耳には十分過ぎるほどの声量であった。


 「お腹空いたー」


 本当に痺れを切らした様子であり、空腹も相まって勉強どころでは無いようだ。


 「まぁ、そろそろ昼だしな。一旦、勉強はやめるか。」


 「そうする、そうする、ねっ!零ちゃん!」


 「は、はい、そうですね。」


 雅の勢いに押され気味になっているのは致し方あるまい。確かに、ずっと嫌々と勉強するというのは大変なものだからな。


 「で、昼はどうするんだ?」


 零の料理を食べに来たであろうことは予想が付いているが、さて本当なのであろうか。


 「では、私が作りますね。」


 「やったー、零ちゃんの料理だーー。」


 零がいつものように料理宣言をした。そして、雅からの感嘆の声がまたしても響き渡った。

 まぁ、美味いのは間違いないので楽しみであることは俺も同意見だ。

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