第47話 超高級宿のお手並み拝見

 高級宿など聞いて真っ先に思い浮かべるのはどこかであろう?

まず、それはホテルなのか、旅館なのか?

そして、その宿にはどんな人がいたのか?

「たまに」の奮発してきた旅行客なのか、常々宿泊しているのか、はたまた

いつもの宿より見劣りするが「ここしか空いていない」というのか。


 なんて普通なら考えるだろう、この俺でさえこの旅館は浮世離れしている。

 俺がプロジェクトリーダーで色々施した星宮リゾートとは格段に違うのは言うまでもない。外観としては、星宮の上位互換くらいにしか思っていなかったし、すぐに案内の人から見合い会場まで通されたから注目していなかったが、内部に入るとすごいものだな。



 俺と零は形式的な見合い、いや後半は将来設計とでも言えばそれっぽいことをしてつい今しがた見合い会場を後にして、この宿の散策へと歩を進める。


「私も、この宿に泊まるのは初めてなんですよね~。」


「あ、それさっきも言っていたな。意外で驚いたよ。」


「中に入ったことはあるんですけど、やっぱりすごいんですよね。」


「具体的に教えてもらえる?」


 零の話によると、この宿は前評判通り、ごくごく限定された人間しかいない。各業界のトップ連中ばかりが来るそうだ。とはいえ、年の近い芸能人やモデルのような人間もいるので、俺らが浮いている空気もあまり帯びてはいない。


 おやつ時ということもあり、零からお茶をしようということで5階のス〇バへと向かった。この旅館は全10階建てで俺らが今回泊まるのは最上階の部屋である。まぁ、ペントハウスのようなものだな。

 この施設がすごいのは、宿泊客は館内の飲食店やサービスはいくら利用しても無料であることだ。まぁ、宿泊料がアレだからと言われてしまえば仕方ないが…。


 「あー、ス〇バはそのまんまなんだな。」


 「そうみたいですね、違うところと言えば全部な無料なことくらいですかね?」


 ス〇バには、何ら変化ないためどうしてかはイマイチ分からないが、妙に安心してしまった。

 だが、ス〇バにいた客はその辺の人間とは違うようだ。

 零は休日とかに雅と結構ス〇バに通っているらしく、注文なりおすすめなりを知っているので、注文は零に任せて俺は適当に席を探す。

 二人掛けのソファ席があったので、そこに腰かけて零を待つとしよう。

 

 ここで感じたのは、周囲にいる人間はまぁまず間違いなく芸能人やモデルであろうということだ。それに分かりやすいくらいに若い女性と成金なのかどこぞの企業の上役なのやらが話している。その中には、爺さんと参加した会食にいた人物も混じっていたが、見なかったことにしよう。


 「涼さん、お待たせしました。こちらが涼さんのです。」


 「お、ありがとう。」


 人間観察をしていると零が両手に飲み物を持ってやってきた。


 「じゃあ、お隣失礼しますね。」


 「あぁ」


 そして、これでもかというぐらい俺にくっついて席に座る。俺の座っているソファ席は最も壁側で、俺は右の壁に乗っかかるように座っているので左側に零が座って左腕は零の胸に吸収されてしまった。

 まあ、すんごい柔らかい感覚なので文句は無いが……。


 「それにしても、モデルの人がやっぱり多いですね。」


 「ん?どういうこと?」


 「いえ、先ほどから雑誌で見かけるモデルやグラビア系の人が多くいるなと思ってしまいまして。」


 まぁ、確かに俺が変に詮索したところで、モデルなり誰なのかすらも知らない俺にとっては意味がない。しかし、普段からそういった雑誌や情報を得ている零であれば見ればわかるという訳だな。


 「例えば、どんな人がいる?」


 「あまり大きい声では言えないのですが……」


 もうすでにかなり近い距離で話しているのに、より近づき俺の耳元で零は囁くように教えてくれた。


 「今、私たちの横にいるのが×××の専属モデルで、正面にいるのが○○のモデル、その奥にいるのが今のドラマの女優ですね。あ、あと○○のモデルと一緒にいる男性の方は東雲銀行の取締役、×××のところは先ほどお話が聞こえてきたのですが、コンサル会社の上役かなと思います。」


 俺の予想も捨てたものではなかったようだなと少し安心した。


 「お、それはすごいなぁ。芸能人とかが金持ち企業の上役と結婚なり、熱愛報道とかされる理由が分かったわ。」


 そう言うと、零は少し笑ったがそこから少し意味深な笑みを浮かべて囁いた。


 「ですが、この場にいる中だと涼さんが一番上の役職についていますよ。」


 「えっ、嘘だろ。」


 「本当ですよ、まず涼さんは東雲グループの最高峰である東雲商事の戦略部門の部門長の扱いになっています。そして、その配下である東雲コンサルティングの投資戦略部門の部門長でもあります。」


 「え、初耳なんだけど?」


 「お爺ちゃんから今日教えてもらいました。ですので、涼さんが大学を出る頃にはもうお爺ちゃんの側近ですね。」


 「マジかよ?」


 俺の聞きたい本題はそこではないのだが、そんな大層な役職をどこの馬の骨か分からない高校生に与えるかね。ご令嬢の婚約者とはいえ、用意するポスト間違えてはいませんかねと問いたいよ。


 「ですので、東雲グループの序列上は涼さんが一番偉いことになります。多分、東雲銀行ですと涼さんを知っているのは頭取ぐらいかと思いますし、コンサル会社には日系や外資系ともに相当額をグループ全体で使っています。」


 「ほうほう。てか、俺って平社員的な感じじゃなかったのに一番驚いた。」


 東雲グループが日本支えている感あるのは当然ながら分かっていたが、そこまで悦明されると恐ろしいな。


 「それは涼さんがあまりに優秀だからですよ。モデルの方々の攻め込んでいく相手としては合っていると思いますが、遊ばれるだけ遊ばれて後でポイっとされる可能性もありますね。」


 「さらっと、怖いことを言うなぁ。まぁ、そんな雰囲気あるのは分かるけど。」


 確かに零の言っていることに間違いらしい間違いはない。ネットニュースやゴシップ系でよくありがちな例である。しっかりと玉の輿に乗って悠々と人生を謳歌して誰もが羨むであろう生活をする芸能人やモデルもいれば、ただただ男の都合よく扱われて、いつしか誰だっけとなってしまう人間もいる。

 まったく、最初は世界が違うと感じてきたが、この頃は自分が知らない所、そう所謂、世界の裏側を見ることができて楽しいと感じるようになってきた。


 「涼さんは、どうです?あんな感じでモデルとかアイドルとかに囲まれたら?」


 「どうだろうな、囲まれたことないからな。零よりも可愛いくていい感じの人だったらいい気分になるだろうけど、まぁまず有り得ないからね。」


 「そ、そうですか。それは良かったですぅ。」


 それからは、適当にティータイムを楽しみ、零の将来設計を聞きとやっていると時は夕刻に迫っていた。


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