第46話 お見合いの意義

 お見合いというのは、文字面だけを見ると昔のことのように思うのが大半であろう。しかし、古き良き慣習として形式的にでもやりたい人はいるのだとか……。もう既に婚約というかプロポーズしているのにお見合いをする意義が俺には全く見当たらないのだが、零に言われ、この場に来てしまったのだから仕方ない。


 そう、お見合いの意義を考えても遅いのだ。



 「お主、見合いは初めてか?」


 部屋に通され、テーブルを挟んで零と爺さんの正面に正座すると、そう聞かれた。


 「当たり前でしょう~。こんな大層な旅館も初めてですがね。」


 「そうか、まぁ良い。では、零とまたゆっくりとして行くと良い。」


 「はっ?」


 お見合いだと聞いて、この有り様である。これまでの、黒塗りの車やスーツ屋は何だったのだろうか。


 「お爺ちゃん、ちゃんと涼さんに説明しないと」


 「そうじゃな、後から零から説明されるじゃろうが、わしからも軽く説明しておこ

  う。」


 零のアシストにより、何とか説明が聞けそうで安心した。俺はそんなに察しが良くないんだから、言葉足らずはダメだっての。


 「うむ、まずお主に聞きたいことがある。」


 いきなり風格あるような雰囲気醸し出してきたので、こちらも少し気を引き締めてしまった。


 「何ですか?、答えれる範囲でお答えしますが。」


 「お主は、多分大学への進学を考えていると思うのじゃが、どの学部を専攻したいと思っているのじゃ?」


 何かと思えば、進学相談かよ。高2の夏休みに聞くとか教師かよ。まぁな、一流大学と呼ばれるところに行く奴らってのは、ごく一部の天才以外は高2の冬いや高1ぐらいから勉強ガチってるからな。


 「そうですね~。正直に申し上げて、大学には行きたいとしか思っていないんですよね。どこの大学だとか、何学部で何を専攻とまでは何も。まぁ、手始めにオープンキャンパスにでも参加しようぐらいは考えてますが。」


 「いや、実は一応うちも大学を持っていての~。どうじゃろうか?」


 「あぁ、まぁ大学を持っているのは知っていますが……。親からは一応国立を出た方が良いって言われてまして。」


 「この世の中は、学歴は関係ない」と言う輩が相当な数いる。だが、現実としてどうだろうか。必ずと言って良いほど、どこの学校を出ているのかというのが話題にあがる。特に最終学歴と呼ばれるものがそれに付き纏う。端的に言うと、どこの大学を出ているのかという前提で話が進むのだ。そして、世間的な序列により人間がランク付けされていく。「学歴フィルター」とでも言ったかな……。

 私立と国立と並べてしまえば、やはり国立だと俺は感じてしまう。まぁ、学費も安いというのも大きい。


 「親御さんとしては当然の意見じゃな。」


 珍しく弱い反応を爺さんは見せた。


 「わしとしては、お主をもう幹部として会社に入れたいのじゃ。だが、大卒というのも取っていてほしいくての~。わしの大学ならば、色々と優遇できるし、何より時間があれば会社に出向いてほしいのじゃ。」


 おっと、軽く就活内定貰ったも同然のことを口にしたぞ。まぁな、零と婚約している手前、そうなるよな。人生における分岐点を一つ難なくクリアできそうで本当に良かった。


 「うれしいお話ですが、この世は表で堂々とは言いませんが学歴社会です。あなたも人事から聞いたりすることがあると思いますが、やはり最終学歴は見られてしまいます。」


 「まぁ、確かに新卒の子らを見ると、みな良い大学を出ておるな。」


 「たしかに、高学歴だから仕事ができるとは言い切れませんが、やはり評価のプロセスにおいては重要なファクターになり得ます。ましてや、東雲のご令嬢が名前も知られていないような大学などどなってしまっては、それはそれでまずいでしょ。」


 俺の心配しているのは、それで零の品位に傷を付かせたくないということだ。


 「た、たしかに。」


 「まぁ、それに国立大学であればそんなことはあまり心配ないでしょう。それに大学の最初の頃は暇な時間もあるでしょうから。今まで、いやそれ以上に時間は作れるかと思いますが。」


 「ほ、ほう」


 「これでも、あなたの大学に行った方が良いでしょうか?」


 個人的に私立はあまり良くないので、適当に国立大学に行きたいのでなんとか耐えてくれ。


 「わ、分かった。そこまで言うのなら、分かった。」


 「ありがとうございます。」


 「で、具体的にはどこにいくのじゃ?」


 「黎明高校から少し距離のある、あの国立大学の工学部あたりにでも行こうかなと思っています。国立大学としては中堅どころ且つ工学部は倍率が例年2倍前後でおいしいですからね。」


 本格的な模試をまだ受けたわけではないのでイマイチ自分の成績を掴めていないが、まぁまぁ大丈夫であろうと考えている。


 「おぁ、そうかそうか、ならば在学中も会社に出てもらうことができそうじゃ」


 なんとか、丸く収まってくれたようだ。高校2年生の夏にして、教師よりも先に婚約者の祖父相手に進路相談とは、また貴重な体験をしたようだ。

 まてよ、よくよく考えると俺はその中堅国立大学へ行く予定をしているが、零はどうするのだろうか。高校こそ一緒に爺さんの学校に通っているが……。あれ、中学校はどうだったんだ…?。そういや、それ関係の話をこれまでしたことなかったなぁ。いや、どこかで俺が聞き逃していたのか?。


 「あれ、零はどうするんだ?」


 平然を装い、軽くジャブを入れてみる。爺さんも意外と気にしているように見受けられるが、零はどう出る?


 「は、はい。できるのであれば涼さんと同じ大学に行きたいなと……。」


 うん、だいたいこうなると思っていた。


 「零は、どこの学部にするんだ?幸い、学校では全員数学Ⅲまでカリキュラムに組まれているから文理どちらにも対応が効くと思うが……。」


 「は、はい。私は将来涼さんを家庭的なところから支えていきたいので、栄養学部に入学して、栄養士になろうかなと思っています。」


 なんとも零らしい動機だ。まぁ、今の時点でも栄養とか料理本読んでるくらいだから特段問題ないように思うがな。


 「そうか、お主たちの将来を聞くことができて良かった。では、そろそろワシは引き上げるとしよう。会社に用があるのでな。


 何気に爺さんも色々と気を回しているのを感じた瞬間であった。


 「言い忘れておったが、一応ここの宿を2泊3日取っておるから零とお主で使うと良い。お主が社会人などなったら頻繁に来るようになるだろうから、ここに来る人間をよく見ておくと良い。では、またな」


 そう言って、爺さんは俺と零のいる空間から帰っていった。こんな高級宿を取ってもらっているのは嬉しいことであるが、やたらと夏休みを満喫しているように思えてならない。うん、良いことなのだがな。


 「涼さん、この後はお時間ありますか?」


 可愛いらしい顔を覗かせて、零が尋ねてきた。


 「あぁ、予定も何もないけど。」


 「では、この宿をぐるりと見て回りませんか?、私もここに来るのは初めてで。」


 「マジで?」


 驚きを隠すことはできなかったようで、この頃で一番のマジで発言をしてしまった。大方、零が気に入ったところでの見合いかと思っていたが、その予想は大きく外れていたようだ。


 「あと、一応私たちの泊まる予定のお部屋には貸し切りの露天風呂があるようですので……、今夜は久しぶりに…その…。」


 「うん、いいよ。久しぶりにね。」


 こういう流れになるのは、分かっていたことであるが零は恥ずかしがりながら言うから推せるんだよな。なんというか、男のくすぐり方を分かっている。



 とは言っても、まだ午後2時過ぎなんだよなぁ~。


 





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