第2話 そんなこんな
目を開けると、そこには白い世界と呼べるであろう清潔感ある白い天井が見えた。頭が少し痛み、肩から下は包帯だらけと自分でも嫌になる姿であった。
「まぁ、こうなるわな。もう少し鍛えておけばよかったのかなぁ~。あの子はどうなったんだろうな、救急車呼んでもらってぶっ倒れるとか我ながらダサすぎるな。」
と過去の行いに反省をしていると、あることに気づいた。病室が個室で少し豪華な印象で広々としていた。しかも、枕元に千羽鶴がずらり………えっ。そんな事をしていると病室のドアが開いた。そして、あの子をまた目にした。
「気が付いたんですね……、良かった、あのまま起きないんじゃないかと………。」
と涙をぼろぼろ流し、駆け寄ってきた。その澄んだ綺麗な瞳は赤くなり、またその下には隈も見られた。
「もしかして、君が看病してくれたのかな?」
「はいぃ、倒れてから病院に運ばれて色々あってから一週間意識が戻らなくて、もうずっと不安でした。」
「ありがとう、我ながら簡単には死なないようだね。もう泣かなくていいから、大丈夫だから。」
「でも、私を庇ったせいで、そんな怪我を………。」
「あぁ、別にいいよ。命懸けるって言ったからさ。自己責任だよ。」
「でも、でも……。」
泣きながら話す彼女をあやすのにかなりの時間を要した。やっと、普通?な感じに戻ると、
「じゃあ、お爺ちゃんに来てもらいますね。」
「お爺ちゃん?、なんでお爺ちゃん?」
「あ、この病院、私のお爺ちゃんがやってるんですよ。」
「えっ、まじで?てか、ここどこの病院?」
「東雲総合病院です。」
この辺りじゃ、一番の規模で国立機関並みの先端医療を誇る病院じゃん!!!
「なるほど、俺が生きてるわけだ。てことは、君はあの東雲五十六氏の孫娘なのね?」
「はい、その通りです!」
いろいろと合点がいった。俺が吹っ飛ぶ前の会話がよみがえる。東雲五十六と言えば知らない者はまずいないほどの有名人である。病院経営から環境工学や教育分野などを手広くやっている東雲グループの会長というのを聞いたな。たまに色々な手を使って反対勢力をつぶすとか言ってたな。気が重くなってきた。すると、またドアが開いた。
「気がついたようだね、萩原涼君。」
と黒を基調とした着物を着た、経営者というよりどこかのヤクザの組長といった方が理解が早いと思える人物が近づいてきた。怖そうだ………。
「はい、なんとか生きていた様です。まぁ、このザマですけど。」
「この度は零を助けてもらい本当に感謝している。どうお礼をしたら良いか………。実はあの日、零に見合いをさせたのだ。大手の建設会社の御曹司で東雲グループのためと思っていたが、相手はかなり自分勝手でそれも零にベタベタとしていたから見ておれず、こちらから見合いを閉じた。零は気分を悪くした様であのカフェに行くと言い出した。それからはお主の方がよく知っているだろう?」
「えぇ、まぁね。てことはその大手の建設会社はもしかして積氷グループですか?」
「なぜ、それを?」
「あのビルは積氷グループがほとんどを作っていますし、そこの社長は女遊びがヤバいことで色々出てます。息子の方は、真面目ぶってますが俺からすると嘘くさい。そして、ここからは憶測ですが、今の話を聞くところ御曹司は、お嬢さんを女遊びと東雲グループの権利をとれるチャンスとしていた。しかし、それを逃した。腹を立てて、自らのビルを爆発した。まぁ、爆発については別の犯人だっていう可能性の方が明らかに高いですが………。」
「驚いたな、まさか、そこまで頭が切れるとは。零はすごい男に助けられたものだな。」
「はい、とってもすごい方です!」
なんか予想外に盛り上がっている。なんで?、後半ほぼ適当なんだけど。
「君の言った通りだった。そのバカ息子は零の事を気に入ったが、儂が引き離して憤怒したことを恨んで事を起こしたそうだ。零を手下に探させて、ちょうどあのビルだからと爆弾テロを装ったらしい。今、そのことでテレビはすごいことになっている。」
なんでもそのバカ息子は俺が零を庇って倒れたのをみて気が狂い、警察に連行。テロの犯行予告のサーバとのアクセス記録などから犯人と断定された。供述だと、彼女をこの爺さんのビルで殺せば、良い見世物になると考えたようだ。まぁ、途中までは、この爺さんを脅して、零を手に入れようともしたようだが。
「ついでに言うと、君に反対して階上に行った者は、我先に逃げようとしたとかで色々なモノにぶつかったりでかなりケガを負っていたな。まぁ、零がこの人らは見たくない。お主と同じ病院に入れたくないと聞かなかったもんで、軽く手当して近くの市立病院に飛ばしておいたぞ。」
「まぁ、それは別に………。」
すごいこと聞いたよ。良かった、この病院で、うんマジで。
「お主を色々調べてみたが、すごいのう。儂の新しく作る高校の一期生になってほしいのじゃが、どうだろうか?もちろん、入試は免除、学費などはいらんし、つまらんかったら授業などをさぼっても構わん。一応、それなりにレベルのある子をすでにスカウトしておるし、総代として色々行事や部活などの統治の役も与える。」
「へぇ、面白そうですね。」
「なんなら、零をやっても良い。この一件でお主に惚れたようで暇があれば、ずーと看病しておる。花嫁修業的なものもさせているから、身の回りの世話をさせる事もできる。美人で気の利く子を独り占めできるぞ。」
だんだん、縁談のようになってきたな。まぁ、後半は置いていおいて自分のやりたいように高校生活を送れるというのはおいしいな。そして、俺の斜め前方で顔を真っ赤にして期待の眼差しを送る人もいる。確かに、美人だよ、可愛いよ、でもね………と悶々としていた。
「私もお嫁に行くなら、涼様のところが良いです。」
「いやいや、気持ちはうれしいけどね………うん、君はいいのか俺みたいな奴と一緒にいて………」
珍しく悩んでいるいると、凄い言葉が飛んできた。
「命懸けて私を守るって仰ったじゃないですか?、可愛いとも言ってくださいましたし、それに………。」
「「それに?」」
「私、初めて男の人に胸を触られました。それ以外にも………。」
「お主、零に何をした?」
うわぁ、なんかすごく怖い顔がある。そして、そこの孫娘さん、顔真っ赤にして自分の体を腕で隠そうとしないでね。爆発の時だからね、仕方ないからね。
「もうお嫁にいけません。責任取って下さいますよね?」
はい、殺し文句来ましたよ涙目で。爺さんの殺人オーラも相まっている。ここで、「いいえ」と言える人間がいたら、俺はずっと尊敬するだろう。
「はい、責任取ります。」
あれ、俺って怪我負ってるのに、なんで責任取りますとか言った?
そして、孫娘さん、超嬉しそう。なによりです。
「よかろう。では、お主の学校には、儂から言っておこう。学校はいいから、零とよろしくやってくれ。」
「はぁ、わかりました。」
そして、五十六氏は病室を後にした。
「あの~、俺そんなに君の体触ったけ?」
「そんなに私も覚えてないんですけど、涼様のお嫁に行けるたらなぁと思ってましたので。テヘッ。」
すごい、女の子ってすごい。
そして、俺の入院生活となった。零は暇があれば、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた。料理を持ってきたり、リハビリに付き合ってくれたりとしている内に俺も好きになっていった。それを伝えると、俺の世話に拍車が掛かり、今まで我慢していたのか異様に体を近づけたり、女の武器という武器を使ってきた。また、看護師や見舞いに来た同級生(女性)には敵意を放っていた。その人らがいる間は、経営者の孫娘、育ちの良いお嬢様というのを崩さないが、いなくなった途端にやれ「看護師に人気があるから気を付けて」、「今来た人、絶対俺に気がある、誘惑しに来てる」など凄かった。
そして、入院生活も終わった。爺さんから用意された家に零と同棲となり、高校生活が始まった。色々なところから結構レベルの高い人が集まっており、意外にも授業をさぼる機会はあまりなかった。ちなみに、俺のサボるときは決まって零も一緒であった。爺さんの配慮か悪戯か知らないが、俺と零は違うクラスとなっていた。一応、婚約している事は隠しているが、爺さんに近い立場にいる親を持つ生徒には知られているらしく暗黙の了解的なものもあった。それをしらぬ者(まぁ男子)は零に告白をしては振られていた。
その頃に気づいたこととしては、零は基本的に敬語でたまにそうでないときがある。また、その風貌から人気も高い。だが、本人は俺が女子生徒と話しているのを見ると不安になるらしく、たまにヤバい時がある。そんなこんながあるうちに、高校一年が終わろうとしていた。
春休み前に、爺さんが全校集会を開き、次年度は生徒会を発足すると宣言した(最初の一年は様子見をしていたらしい)。生徒会長は俺(約束通り)で副会長は学年2位で爺さんの側近を親に持ち、クラスや爺さん繋がりで仲良くなった葉山勇人(はやま ゆうと)。書記が東雲零、爺さん曰く俺の専属マネージャーとか意味不明なことを俺に耳打ちしたが………。会計は、これまた俺と零の知り合いで小山内雅(おさない みやび)。葉山の許嫁らしく、まぁ美人である。なんとも、大企業の思惑渦巻く生徒会となったが異議あるものはいなかった。社会の性質を知ったような気がした。
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