第13話 日常

 温泉旅行も色々あったが終わってしまった。俺の両親は、まだ少し日本にいるようだ。俺たちに気を遣ってなのか零と住む前にいた実家に滞在するようだ。俺は今まで気にしていなかったが、零がたまに掃除に来ているようできれいすぎると母さんが叫んでいたのを思い出す(まぁ昨日の午後三時なんだけど)。連休最後で明日は、学校があり今日はぼーとしていようと決めていたはずだった………。


 「私、ほんとに涼さんのお嫁さんなんですよね!」


 「そうだよ」


 「結婚ですよね!」


 「あぁうん、まぁ俺がまだ17だから婚約だけどな」


 「涼さんのお嫁さん~、奥さん♡、妻♡」


 俺が起きてからずっとこの無限ループである。昨日は恥ずかしそうにして、親たちからのからかいを受けていたのに(主に麻衣さん)、今はルンルン状態。昨日は二人して早めに寝て、なぜか5時に起きてしまい勉強でもと思っていたら、隣に零の姿はなく朝食を作っていた。シンプルだが、前より品数が増えており手が込んでいると思ったら4時から出張っていた様だ。


 「零、俺また部屋戻るわ。勉強とかしてるから、なんかあったら呼んで」


 「はーい。」


 非常に笑顔である。俺も自分でも不思議だが体や心が軽い、そして満ち足りている。書斎にこもり、勉強と爺さんからの仕事のチェックをする。いつもは、ダラダラとしている時間が掛かるが、なぜか3時間程度で終わった。昼には、少し早いかなと思いながら、下へ降りる。ソファには、疲れてしまったのか零が寝ていた。


 「まぁ、そうなるわな。昼は俺が作ってみるかな。って1年ぶりか」


 なんて一人で突っ込みを入れる。今の今まで零に作ってもらっていたのだから。はて、何を作ろうか。パスタ系、洋食系しかできないけどね。



 1時間経過………


 「んんん、あれ、寝っちゃった、あ~お昼の準備しないと」


零が慌ててこちらへ来る。オープンキッチンな上にリビングともつながっているためその様子が丸見えである。


 「え、なんで涼さんが?」


 「零が寝てたし、勉強も飽きたから」


 「あぁ~すみません、今すぐ代わります。」


 「あぁいいよ、もうできるから、テーブルについてて」



 零は申し訳なさそうに席についた。だが、俺が料理を持っていくとその表情は一変した。


 「うまいか、わかんないけど食べてみて」


 零は、一口食べて驚いていた。


 「美味しすぎます~。」


 「そりゃ、良かった」


 零はずっとパクパクと食べ進めていた。ちょっとした和風のキノコパスタとミネストローネもどきなんだけどね。


 「どうやって、作ったんですか?」


 「えっ、適当」


 「料理もできるとか………」


 「いや、和食系は作れないよ。作ったとしても零には遠く及ばない。」


 「私も洋食はそこまで得意じゃあ………あっ、じゃあ夜ごはん一緒に作りましょ!」


 「いいけど、メニューは?」


 「アクアパッツァとこのパスタとミネストローネとあと………」


 洋食を出されていく。パスタとミネストローネは今、食ってったよ。


 「いや、俺は零の和食の方が……」


 「涼さんと洋食のお料理の勉強がしたいんです♡あと、一緒にお料理、共同作業~」


 だめだ、また自分の世界に入ったよ。そして、昼も終わり、我に返った零とテレビなどを見つつ時は流れ、午後4時半。


 「では、材料もあまりありませんので、買い出しにいきましょう。」


 「そうだな、明日から学校だし。」


 そして、零は自分の部屋に戻り、青色のワンピースに着替えてきた。俺は、このままのスウェットで行こう。


 「涼さん、どうですか?これ?」


 と俺の前でくるりと一回転する。


 「こんな可愛い奥さんと買い物とはね、俺、スウェットなんだけど」


 「可愛い~だなんて」


 この子に結構それ言ってるけど、また顔赤くしたよ。あ、忘れないうちにアレを渡しておこう。


 「はい、そんな可愛い奥さんに男除けの指輪です、はい」


 「えっ」


 俺は驚く零の左手を取り、薬指にはめ込む。ダイヤをあしらった銀色の指輪が零の指と共に輝いて見えた。そして、俺もつける。


 「これでほんとにほんとの………涼さんとずっと一緒」


 零は俺に抱き着いてきた。



 家を出てからずっと何度も指輪を見ては、恍惚とした表情になっていた。いつもと違う少し遠目のスーパーに行くと俺たちはずっと若い夫婦という感じの視線を浴びた。


 「あんまり見ない夫婦ね………」


 「旦那さん、背が高いし、あれはモテそうね」(零;ギロッ)(俺;あざっす)


 「奥さん、なんかのモデルかしら」(零;ニコッ)(俺;それな)


 「奥さんたらずっと旦那さんの事見てて可愛いわね」(零;あっ)(俺:えっ)




 買う物も買い、会計を終える。


 「あっ、俺持つからいいよ。」


 「いえ、何も持たないのは」


 「買い出しは任せっきりだったし、いつも頑張ってたんでしょ。今度からは俺もちゃんと行くからさ」


 「じゃぁ、お言葉に甘えて」


 自宅に戻り、夕食の支度をする。零がほぼ助手のような形で零の希望するものを作っていった。何度も感動しながら食べている様子に俺も嬉しかった。




 そして、日付は変わり、登校日いや授業日スタートである。二人で一緒に寝ていると気づくが零はやはり早起きだ。前はランニングをしていたが、学校が始まりましてや今度から部活にも参加するため、それも今は休止中だ。そのため……。


 「涼さん、起きてください~学校ですよ~」


 「うわぁ、マジか~」


 「早く朝ご飯にしましょ」


 制服にエプロン姿の美少女のお出ましである。男子の制服は無難な紺のブレザーでネクタイ、女子は比較的短めなチェックのスカートに紺のブレザーにネクタイである。俺は着替えるのめんどいから私服登校(ジャージ)をしたいが、女子の制服はなかなか良いと思う。


 「今、着替えていくよ」


 「下で待ってますね。」


 俺は髪を整える、ワックスだなんてことはまずしない。制服も生徒会で人目に立つとき以外は着崩している。


 「「いただきます」」


 零はキッチリと制服を着ている。俺より生徒会長だと思う。朝食も彩りといい、栄養といい最高である。なにも高級なものはない、零の腕が最高ランクなのである。俺が零を見ていると同時に、零も俺を見ている。しかし、視線は俺の手元である。


 「涼さん、あの~指輪は?」


 「あぁ、ここ」


 俺は首にかけているネックレスを出した。高校で装飾ましてや人目に付きやすい手はまずいと思い、ネックレスにしてみた。それを伝えると、「私も」と零にも準備していたネックレスを渡す。わざとらしく、俺に見えるようにネクタイやブラウスを解きネックレスを付ける。


 「見過ぎですよ、あぁ見とれてました?」


 「あぁ、というか零は他みたいに着崩さないんだね、雅とかほぼギャルみたいな時もあるのに」


 「はい、厳しく言われたので………あと涼さん以外にあまり淫らに肌を見せるのはと思って………」



 なに、この可愛い発言、俺死ねるよ。顔が熱い、これはたまらん。朝食も終わり、学校へ。駅などでは俺の恰好に何も言わない零が学校まであと少しの所でぬきうスマホを見て俺を慌てて止めた。


 「どうした?」


 「今日は抜き打ちの整容検査があるそうです。なので」



 零は少し背伸びをしながら俺のネクタイを正す、顔を少し赤くして。風紀委員に知り合いがいるから大丈夫なんて言えない。そいつとあいさつをし、無事に突破した。


 「なんで、検査があるって分かったんだ」


 「雅さんから連絡があって」


 「あぁ、雅ね~あとで礼を言わないと」


 「雅さんだけですか?ネクタイ直してあげたのは誰ですか?」


 不満げな表情になって言う。


 「零、ありがと。」


 「はい!」


 頭を撫でると一気に表情が穏やかになる。ここ、玄関でまぁまぁな人に見られてるけど。教室に入り、席に座る。新学年となり席替えはまだのため番号順でなぜかしらないが零は俺のとなりである。すると、雅が俺に泣きついてきた。


 「萩原君、助けて~。」


 「どうした?」


 「風紀委員に目付けられて、放課後に呼び出し食らった。あの委員長無理~、絶対に嫌味言われるし~」


 「まぁ、その恰好ならな」


 そう、雅の恰好は零とは正反対。スカートはかなり短く折っており、ネクタイは俺いや男子以上に着崩し、ブラウスのボタンも開放気味。まぁ、ブレザーは着ても着なくてもいいんだけど(今の時期はまぁ着ている人が多い)。なんというか、雅の場合は黒髪だし、ピアスなどは全くで清楚な感じだから、清楚系〇ッチ………。お前、お嬢様だろ。


 「ねぇねぇ、助けてよ~」


 「ってもなぁ、あの人は俺も苦手なんだよ。かりとかもないし。」


 「大丈夫だって、あの女、萩原君のいう事なら聞くから。」


 「でもなぁ~」


 そう、風紀委員長である現C組の伊藤 楓(いとう かえで)は俺のいう事はほぼ100パーセント肯定、言う事を聞いてくれる。昨年に同じクラス、もともと成績が良いが勉強会で色々と教えてあげて、厳しい親からの条件(10傑キープ)をクリアするのを手伝ったから。告白もされ断ったが諦めきれないと生徒会入りを希望したが、それは叶わず。そのため、俺には滅法甘いが女性陣には厳しい。零には女として厳しく当たり、雅には生徒会の人間かと嫌味が飛ぶらしい。


 「今日の抜き打ち教えてあげたのはだ~れ⁇零ちゃん。」


 そばで一緒に事態を聞いていた零に話を振る。そして、徐にネクタイやブラウスに手を掛けて少し脱がせる。


 「雅さん、ちょっと、きゃぁ」


 「可愛い声あげてもダメ。な~にこれ?あれ~?なんだろうな~?ネックレスに指輪~。」


 「あっ、それは………」


 雅は楽しそうな、いや悪魔の表情である。そして、スマホと取り出し零に見せた。


 「あと~、なにこれ?萩原君のネクタイ直してあげてさ~顔赤くしちゃって」


 「あぁぁぁ」


 「萩原君が助けてくれないと、このこと委員長についでに言っちゃうかもな~」


 零も風紀委員長はあまり好きではない。成績発表の度に嫌味を言われていて、これが発覚するとそれはよりエスカレートする。クラスが違うと言えど、これから合同の活動等もあり会う機会は幾度となくあるだろう。


 「萩原君はなんもないけど、零ちゃんも何言われるかわからないよ。ほら、零ちゃんの柔肌がどんどんと他の男子に見られて」



 と、雅は零を後ろから押さえつけボタンをはずしにかかっている。零は力なくされるがまま。少し泣きそうで……たまら……ってそんな場合ではない。


 「涼さん、私からもお願いします。」


 零はそのまま深くお辞儀をする。もう~、下着も見えたし、間からピンク色のアレもこんにちはだよ。


 「はぁ。分かったよ」


 「ありがと、零ちゃんもごめんね(胸大きくなったね、シてもらったの)」


 「ひゃぁ♡」


 零のブラウスをもとに戻してやる雅は零の胸を鷲掴み。何してるの。


 「あぁ、ごめん。つい。でも、やっぱり萩原君から揉んでもらった方が良いよね~。」


 俺にわざとらしく言う。風紀委員に行くのやめるぞ。零は終始赤くなり黙っていた。







 「おはようございます。席替えはこのくじで決めるからね~。文句はなしね~。合コンでも席が重要なのよ。もう~連休中連敗しっちゃって、みんなそうならないでね。」


 友恵ちゃん(先生公認の愛称)、ブレないよな~。早く誰かお持ち帰りしてやれよ。俺ならまずお持ち帰りだな。


 ……ギロっ………


 ふと、隣から視線を感じた。



 そして、このくじがまぁまぁありがちな展開を呼ぶ。



 


 

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