第36話 お泊りにお約束はつきもの

 リビングで一人ソファに寝転がって、黄昏れているのも、平穏を愛する人間としては甘美な時間である。二階からは何やら笑い声やドタバタと物音を感じるが、当然のことであると耳は反応しない。かれこれ、色々な事があったな。とりあえず、三途の川が見えるか否かというところまでに血だらけ、傷だらけの状態になる。そうまでして守った女の子に好意を抱かれ、強引ではあるが、付き合い、プロポーズをし、まるで御伽噺のような展開である。これといった文句はないし、最高の時間をただひたすらに消費している至極幸福な人間だと自負している。



 「………さん、涼さん…、涼さん!」


 「えっ、え?」


 今、俺は目を覚ましたようだ。寝転がっていたソファ、俺の頭上には文句のつけようがない程、可愛い彼女の顔があった。


 「ここで寝てたんですか?、体を痛めてしまいますよ。」


 「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてたら寝たみたいだね。ちなみに、今は何時だい?」


 「今度から気を付けてくださいね。今は、夕方の5時ですよ。」


 「ありゃ、結構寝てたんだなぁ。そっちは、女子トークは一段落したの?」


 「結構しちゃいました~。私はそろそろ夕食の準備をしますので……。」


 「あ、そうだ。俺、ちょっと髪切りに行ってくるから夕食に遅れると思う。」


 「今からですか?」


 「あぁ、ずっと通ってるところなんだけど、忙しいらしくてね。今の時間帯しか取れなくてさ。8月とかなると今度は研修旅行とか俺たちが忙しいからさ。」


 そんなわけで俺は零たちを家に置いて、小さい頃から通っている理容・美容室に向かう。まぁ、長期休みだから、髪色でもいじってみるかな……。






 およそ2時間半ほどで髪を切る、染めるというのが終了した。髪色は赤色にしてもらい、サイドは刈り上げに……、我ながらよくやったものだと思う。帰り道で、やたら頭とか見られた気がする……自意識過剰か?。


 家に着き、玄関を入らずとも聞こえてくる黄色い歓声ならぬ黄色い騒音、はて近所迷惑にならない程度にしてほしい。家に入ると、いつもならば零が飛んでくるはずだが、珍しくそうではないようだ。少々薄暗い、玄関を通り、キッチンへ向かう。料理の準備と言っていたからである。だが、キッチンにはいない。まあ、そこそこに料理はあったが……。

 さて、人がいないので仕方ないと来た廊下を少し歩くと、真横からいきなり湯気を纏った人が現れた。


 「えっ?」


 「あっ!」


 「「きゃあー」」



 近所迷惑という域ではない……。



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