第35話 女子会と言えば……

 「こんなもんでいいでしょ、これぐらいなら食べやすいし、火も通りやすいし。じゃあ、やってみる?」


 「「はーい」」


 元気のよいお返事だこと……、かなりの広めのキッチンがこんなところで役に立つとは思わなかった。零の身長で計算されて設計されているから俺に少し低いが、まぁ何も言わない。


 「涼さん、終わりましたー、どうです?」


 零が自分の担当する分の野菜を切り終え、笑顔で俺を見る。


 「さすが、完璧だよ。」


 「い…いえ、そんな♡。」


 「というか、料理教室って言っても、みんな、結構うまいじゃん。」


 「そうですね~。皆さん、やはり花嫁修業があるんでしょうか?」


 「俺に聞かれてもなぁ~」


 なぜ、この学校の女子の方々は家庭的なスキルが高いのか、俺はいまだに理解しきれていない。零は、習い事とか日常茶飯だったらしいから知っているが……。ミネストローネの準備はそこそこできたので、肝心に煮込みに入る。トマトプューレ等々を適当に用意し、作り上げていく。


 「じゃあ、次は、えーとボンゴレ……って、待てよ、あさりなんてあったけ?」


すると、零はまた徐にキッチン下にある暗室スペースから、かなり大きめのボウルを取り出す。


 「はい、昨日から砂ぬきをしておきましたー、ですので、すぐに調理可能です。」


 おいおい、俺の嫁さん仕事早過ぎね?……。ほら、周りの方々も凄すぎって視線くれているし……。


 「えっと、じゃあ、零たちはサラダを作ってね。俺がパスタ全部やるから。」


 俺の家のキッチン、もとい零専用に作られたキッチンのガス台は…まさかの4口スタイル。また、火力も十分なので1つでパスタを茹で、その他3つでボンゴレのソース?下準備をする。なぜ、4口もあるかというと、「そんなの決まってるじゃないですか~、私と涼さんの愛の結晶である子供がたくさん出来たときに美味しい料理を一杯作ってあげるためですよ♡」、このコメントに行きつく。

 ったく、パスタ一つ作るのに、この設備はまるで高級店だな。1人前様に1つのフライパンを使うとは……。


 ピピピピ…


 そんなことを考えるうちに、パスタ用のタイマーが鳴り響く。手早く、湯から引き揚げ、均等にフライパンに落とし込む。パスタが具材と汚くならないように注意しながら、ニンニクや鷹の爪にオリーブオイルで作ったソースに絡めていく。程よく絡めていく、決して荒くは扱わない。あさりも上々だな。


 「涼さん、すごくいい匂いがするのですが……。」


 「ホントだ~。」


 サラダを作り終えたのか、零たちが俺のそばに来て手元を見ている。まぁ、そろそろ終わるし、3人分だから俺の分はまた後で作ろうと…。


 「そろそろかな、味見したい人~。」


 「「「はーい!」」」


 みんな興味深々に手をあげる。零が結構な視線をくれているので、ここは零だな……あとで何があるか分からないから。俺は、パスタを1本とり、零の口元へ持っていく。俺は味見に皿を使わないので、俺の指に乗せている。


 「はい、じゃあ零、あーん」


 「あーん。(うわぁ、涼さんからのあーんゲット♡)」


 「どう?」


 「美味しすぎます♡」


 「「いいなぁ~」」


 これはこれで限界なので、皿に盛りつけて、先に3人には食べてもらうようにした。ミネストローネも大体成功と言えるだろう。味見は未来と彩にしてもらった…零からおぞましい視線がくるかと思いきや、微笑んでいた……杞憂か。


 「よし、俺のもできたと。」


 みなさん、先に食べているようで良かった。零とかだと待つって可能性があるからな。


 「涼さん、これ全部美味しいです~。」


 「全部って、サラダは俺関わってないんだけどなぁ。お、うまいな。今日のは成功したな。うん、サラダもいける。」


 「ねぇ、萩原君って料理もできるんだね。」


未来からの指摘に俺はいつものように答える。


 「とは言っても、俺が作れるのは洋食系だけだよ。和食の方はだめだな。」


 「えーホント?」


 彩から疑いの目を向けられているが、これは事実である。零に及ぶわけがないのだからな。


 「あ、そうそう。8月になったらさぁ研修旅行あるよね?その行くクラスの中にC組がいるんだけど、どう思う?」


 「どう思うってなんだよ、運動会頑張った結果だろ。」


 彩からの話題提起に俺はあまりついて行けていないことが周囲の顔色を見て判断ができる。生徒会長と言えど、みんなの顔やクラスの内情を知っているわけではない。だが、零も少し動揺しているというのはどういうことだ?。


 「涼さん、たぶん、彩さんは伊藤楓さんの事を言っているのだと思います。」


 「伊藤楓?、あぁ~、酷評ばかりの風紀委員長さんね。これはまた、研修旅行ですらも風紀を正すとかやる気かな?」


 「萩原君、ちょっとおもしろい……クスックスッ。」


 未来のツボに少しばかり入ったようだが、この暗めの空気にはあまり効果はないようだ。


 「絶対何か言ってくるよね?、女性としてその行いはどうとかさ~、あといちいち服装とか煩いし……。」


 彩は、文句を言いたい放題である。幸いなことに俺はその委員長から注意を食らったことがないので、何とも言えない。


 「そういえば、零も色々言われたことがあったな。雅はいつもだけど…。」


 「「えっ、零ちゃんも」」


 「は…はい、生徒会なのに頭が悪いとか、あなたよりも私が生徒会にいた方が良い、涼さんを支えることができると…。」


 「「ひどっ」」


 あれ、俺のしらないところで女子ってのは苦労してるんだな。にしても、容赦ないな。まぁ、生徒会と言っても学力なりリーダーシップとか言う評価でなく、爺さんの側近まがいの連中の子供というのが根底にあるから、他校との生徒会とはモノが違う。つまり、伊藤楓が生徒会に入ることが出来なかったということはお察しの通り、”そういうこと”である。学力という指標では文句はないのだろうが、家柄に問題があったのだろう。彼女もどこかの令嬢、育ちの良い女性なのだろうが、上には上がいたという話だ……。んなことを言う俺が一番特殊な枠で生徒会に席を置いているのは、トップシークレットだけれども……。


 「へぇ、じゃあ零はあと嫌味、いや指摘を受けることはないんじゃないか……?、この前のテストは上位者入りしているし、現に俺を支えている。ほら、零を追い詰めるようなことを言えるネタが消えた。」


 「「確かに!」」


 「え、しかしまだ私は伊藤さんより順位が下ですし…。」


 「そんなのは簡単に越せるよ、また一緒に勉強すればいい。それに、俺は勉強のできるできないで人を判断はしない。それで人を判断する人間は賢くない、単なる愚か者さ。俺は大嫌いだ。」


 まぁ、こういう発言をすると険悪なムードになるのが一般常識だが、なぜかは知らないが、俺に加担するかのように次から次へと文句の嵐である。なんというか、女子会の核心のような部分を垣間見ることができた。



 「昼も食い終わったところで、これからどうすんだ?、これといってゲームなんてないし。あると言っても、俺の部屋のマンガやラノベ、小説とかの類しかないが……。零の部屋はしらないが…。」


 そう、俺は零の部屋への入室が禁止されている。理由については、「女の子には色々あるんです。」と言われたので、それ以上は触れていない。そこそこ広い部屋のはずだと思うのだが……。


 「じゃあ、涼さんの部屋で遊びましょう。」


 「それ、いいね。私、男の子の部屋入ったことないんだよね~。やっぱり、萩原君もエッチな本とかあるの?」


 「涼さんはそういうの持ってませんよ。」


 「「えっ?」」


未来の質問がもっともなのはわかる、こういう状況におけるテンプレな疑問だから、しかし、その疑問に対して俺でなくて零が即答するのは非日常だろう。まぁ、たまに本屋などで自分のそういった欲に負けそうになるときはあるが、零から問い詰められるという恐怖を考えると踏みとどまってしまう。待てよ、キャラ設定が高校生の嫁とか許嫁だったらイケるか?…。


 「あぁ、まぁそうだな。」


 「「すごーい」」


 「え、すごいの?」


 「だって、同じクラスに彼氏持ちの人結構いるんだけど、みんな持ってるらしいよ。しかも、そのエッチな本と自分の体とか、なんて言うんだろう設定が全然違うんだって。」


 彩の話はまぁまぁ続いた。つまり、同い年のカップルでのそういった設定ではなく、年下系、年上系でのそういった男子の興奮を掻き立てるモノだったらしい。近親〇〇系を持っていた奴に関しては更生させてやった方が良いと思うぞ、同じ男としてな。




 俺の部屋で色々と本を漁っていたが、それも飽きたのか零の部屋で遊ぶこととなった。とか言いつつ、俺は「涼さんは……無理です。」と言われたので大人しく、リビングで暇してます。たまに、笑い声とか聞こえてくるけどな……。


 ピンポーン、ピンポーン


 「なんだ?」


 こんな暑い日に来客か?、いや、宗教勧誘か?。俺は少々重い足取りで玄関へ向かう。


 「はい、どちらさんで?」


 「どうも、新聞部の秦です。いつも、お世話になってます。」


 「あぁ、今日はどうかしました?、これと言って、売れそうなモノはないと思うんだけど……。」


 「いえ、実は今日の夜、この家で乱〇パーティーだというタレコミが入りまして、私の情報が正しければ、用意された女性は3人かと…。」


 あーー、宗教勧誘の方が良かったーーー。誰だよ、んな適当なこと言った奴。


 「待て、待て、それは違う。今日は、零が友達とお泊り会だからだよ。」


 「ちぇ。」


 「おいおい、露骨に嫌な顔しないで。」


 「たまたま、昼前にこの家の前を張ってたら、東雲さん以外に二人の女子生徒がいたから正妻公認の愛人といかがわしいパーティーかと思って期待したのに……。」


 「待てよ、その歪んだ目論見はいつも通りだが、なんでうちを張ってた?」


 「それは夏で、カップル、ましてや結婚確定となれば、18禁のドエロい子孫繫栄の様子が撮れると思いまして……。あ、ちゃんと顔とかにはモザイク入れますよ。」


  だんだんこの人もエスカレートしてきたな。


 「まぁ、この様だと何も起こらなそうなので撤収します。ちっ。」


 そして、秦さんは帰っていった。



 「あ~、ったく、なんて日だ。」







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