第34話 女子会に男がいるのはナンセンス

 海の家についての報告を爺さんに済ませ、無事帰還し、その翌朝に事は起こった。


 「涼さん、実はですね……ご相談がありまして…。」


 零の作った美味しい料理を堪能しているところに重い、シリアスな展開を予見する雰囲気が漂う。何を言うつもりだ…。


 「うん、何?」


 「今日、お泊り会をしようと思います。」


 「えっ?お泊り会?」


 「はい、未来さんと彩さんと約束してまして……。」


 「あー、そう。あれ、でも未来と彩といつ仲良くなったの?席替えしたときはそうでもなかったのに?」


  疑問としては真っ先にそれが頭に浮かぶ。零が雅以外で仲の良い人がいたとは……。


 「えーと、その……運動会のあたりからよく話すようになって…、それで私と涼さんの事を応援してくれるということでして……。それで段々と仲良くなりまして、夏休みに女子会というかお泊りしたいとの事で……。」


 なるほどね、確かに打ち上げの時に女子は盛り上がってたもんなぁ、話題が俺と零だったとは予想はしていたが、そこまで行くかね?。


 「待てよ、それは良いんだけど。俺はどうすればいいんだ?さすがに男がいる状況でお泊りは無理があるだろ……、あっ、爺さんからの仕事ついでにどこかへ行けばいいのか、そうだな。」


 「いえ、涼さんにはそのまま居てもらいます。」


 「え?」


 おいおい、待ってくれよ。それはまずいだろ、相手方に彼氏とか居たらどうするんだよ……刺されるぞ、俺。その前に、保護者から殴られるか…。


 「えっと~、その、新婚生活を見てみたいと言われまして……。あと、涼さんなら、大丈夫だろうということで…。」


 「あ、さいですか。」


 最近の女子高生は凄いなぁ、いや、俺が男ということ失念しているのか……。


 「あ、でも覗きとかしたら分かってますよね?」


 おっと、どこからそんな空気になった。目が怖いよ…。


 「私のだったら、存分に覗いたりとかしていいですよ。今日は、水色の上下お揃いでーす。見ます?」


 と胸元を見せようとしたり、下に履いているスカートをひらひらさせている。なるほど、だから朝からそんなにおしゃれだったのね……。


 「いや、いいから。」


 「も~う♡」


 「んで、いつ頃来るんだ?」


 「はい、お昼前だそうです。お料理教室的な事もしますので、食べ終わったら買い出しに行きますよ。」


 「あ、そう。まぁ、零は料理部だからなぁ。俺は、食ってるだけってところかな?」


 「いえ、涼さんも一緒にやりますよ!」


 「マジ?」


 「はい!」


 


 そして、買い出しへと向かう。零はきっちりおしゃれコーデだが、俺はいつもながらジャージである。暑い日であるが、手を繋ぎ、腕を絡ませている零はすごい。なんで、そんなに上品なの~、俺はクソ暑いとか連呼してるのに、「そうですね~」って涼し気に返事して、本当に同じ人間なのか……。


 いつものスーパーに着くとクーラーはガンガンで心地よい。それに感動している内に零はテキパキと品物を選別している。あれ、俺いる?。



 「ホント良い奥さんね~、若いのにしっかり目利きできるなんて。」

 (零: ニコッ) (俺:ホント、それな)


 「その辺のモデルよりも綺麗だし、好感持てるわ~。」

 (零:ニコニコ) (俺:それは思う)


 零の独壇場だよ、これはもう。俺らもだんだんと知られるようになってしまった。たまに、零がその辺のおば様方と井戸端会議的な場面を見たことがあるが、立ち振る舞いとか話し方とかホントの奥さん感半端なかったからな……。

 俺がクーラーのある空間、もとい零に感動している内にもう零はレジに進んでいた。待って、俺これ要る?、あ、荷物持ちか!。


 「涼さん、お会計終わりましたー。」


 「オッケー、じゃあ帰るか。ほい、これ家の鍵ね。」


 「はい!。」


 「まぁ、荷物は多いけど、俺一人で十分だな。よし、行こうか。」


 「いえ、私も持ちますよ。」


 「ダメだよ。こういうのは男が持つって決まってるからさ。」


 「じゃ、じゃあ申し訳ないですが……お願いします。(やばっ、カッコいい♡)」


 そんなありがちな会話し、暑い空間を再び戻る。さすがに、時間帯的にも温度はさらに上昇している。零もそこまで涼し気な雰囲気を醸し出すことが出来ないようであり、少し安心をした。家の近くまで来ると、玄関付近に見覚えのある2人組を捉えた。



 「あ、萩原くーん。」


 なんと、すでに家の前でスタンバっているではないか。お昼前という文言は合っているが、10時ですよ。ちっと、早くはないか……。


 「零、この炎天下でヤバいから早く行って、冷房付けて休んでもらえ。」


 「は、はい。」


 すると、零は小走りとなって二人の玄関に向かい、鍵を開け、二人を家に通す。俺は荷物があるので、零たちの姿が完全に視界から消えて、少ししてから家の玄関へと入る。キッチン付近まで行くと、零に声を掛けられる。


 「あ、涼さんお疲れ様です。後は私がやっておきますね。それと、麦茶です。未来さんと彩さんはあちらですので……。」


 「あ、あぁ。じゃあ、よろしく。」


 あちらというのは、キッチンからすぐのテーブルである。俺と零がいつも食事している。まぁ、6人席のサイズだから余裕だろう。そして、企んだような、含みのある視線をこちらに向けられている。


 「萩原君と零ちゃんって結婚するの?」


 零からの麦茶を飲みつつ、二人の逆側に座ろうとした矢先の未来からの質問に俺はやや動揺する。


 「いきなり、その質問か?。前にも言っただろ、結婚するつもりだよ。」


 「「きゃあーーーー。」」


 二人してそんなに黄色い歓声を上げないでいただきたい。昼間と言えど、近所迷惑よ。まず、俺の耳に迷惑だ。


 「二人とも新婚感すごいんだけど、いつもこんな感じ?」


 今度は彩からの質問である。


 「そうだよ。基本、家事は零だからね。というか、家事で零に勝つ人はいないと思う。」


 「「きゃあーーーー。」」


 本日2回目の歓声ありがとうございます。


 「涼さん、お隣よろしいですか?」


 「うん、いいよ。」


 零が、俺の持っていた食材などを冷蔵庫などに片付け終えて、麦茶とそのボトルを持って俺の隣にやってきた。


 「ところでさ、お泊りってマジなの?」


 「「マジだよ。」」


 「えっとな~、一応、俺は男なんだけど…。」


 「別に気にしないよ。それに零ちゃんもいるし。あと、やっぱり二人の普段の生活ぶり見てみたいし。」


 未来からの容赦のない発言が俺の気を重くする。


 「はぁ~、そんな面白いことないと思うんだけどなぁ~。俺が何をするわけでもないし、家の事はほとんど零がやってるし……。」


 「そういうのを見たいんだよ!」


 未来の眼差しに俺は果たして答えることが出来るのだろうか…。


 「では、涼さん、そろそろ時間ですので……お昼の準備をしましょう。」


 「あぁ~、一緒に料理作るんだっけ?」


 「はい、じゃあ未来さん、彩さん、始めましょう。」


 「「はーい。」」


 いよいよ本格的に女子会なるものの序章が始まった。零は自前の可愛らしいエプロンを着て、二人も同じくキャラもののエプロンを身にまとう。そして、キッチンで仲良く3ショットである。零がこの頃、イン〇タを始めたためである。俺も強制的にアカウントを作られた……というか俺の携帯のパスコードは零に全て知られているっていうね。


 「零、ところで何を作るんだ?、和食?」


 「えーと、ミネストローネとボンゴレパスタとサラダです!。」


 「あれ、料理って零が教えるんだよね?和食系じゃないの?」


 「お昼は涼さんから教えてもらうんですよ…その…私が…、それで夜は私が教えて作ります。」


 「マジ?」


 「はい♡」


 「マジか……、じゃあ俺もエプロン付けないと、あれ、この前作ってからどこやったっけな?」


 「涼さんのエプロンでしたら、ここに。」


 零が徐に俺が使っている黒のソムリエエプロンを出した。待って、どこから出した。受け取ると少し暖かい……。


 「では、まずミネストローネ用の野菜を切っていきましょう。」


 「「はい!」」


 おー、なんともやる気にあふれたお返事。マジの料理教室じゃん。


 「では、涼さん、お手本おねがいします。」


 「え、俺?」


 「はい、出来れば早切りを見せて頂きたいです!」


 「んな、早くないんだけどな。」



 心地よいとは言えない小刻みかつ尋常でない速さで野菜が切られていく。そう、一定のサイズ、切り残しのない見事なまでに…。



 「「はやっ!!!」」


 



 涼さん、カッコ良すぎ……♡

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