第26話 運動会 2日目
前日は、俺の出た種目において全て優勝を取ることができたために上位3クラス入りはほぼ確実と言っても良いほどのポイントを勝ち取った。まぁ、総合ポイント制のために雅や葉山、その他の選手の力のおかげでもある。優勝したのは良かったが、疲れは本当にヤバいのである。いくら家に帰ってから零の料理やマッサージを受けても疲れは抜けない。そして、今、また競技場に入ろうとしている。
「涼さん、今日はどうされるんですか?昨日のでほぼ上位クラス入りは確定だと思いますが……。」
「まぁ、たぶんそうだろうけど、他のクラスにも俺みたいな事をする奴がいないとも言えないし。それに、葉山が基本優勝するから良いけど、欠場者の補欠に雅のせいで入れられたからなぁ……。かぁ~、頼むからみんなケガしないでくれ……。」
「葉山君でしたら問題ないですね。では、涼さんは、ずっとテントにいらっしゃるんですよね?」
「うん、その予定だよ。だから、零、またマッサージしてくれない?まだ体痛いんだよ。」
「はい♡、喜んで」
そして、今日も今日とて運動会である。応援がメインなので精神的にはかなり楽であり、昨日の活躍もあってか俺が何をしていようと文句を言う者はいない。たとえ、応援せずに零とイチャイチャしていようと、昼寝をしていようとね。
「あぁ~、零、葉山とかはどう?勝ってる?」
「はい、予選タイム一位で通過してます。順調ですね。」
「よし、これで安心だな。研修旅行とやらに行ける~。」
「はい♡」
なんとも平和な時間である。
そこへ、クラスメイトである神崎が近寄ってきた。
「ねぇねぇ、前から気になってたんだけど、萩原君と東雲さんって付き合ってるの?なんかすごい雰囲気良いから……。」
「はい、そうですよ。高校に入る前からですよね~、涼さん?」
「あ、そうだな。もう2年くらいか?」
「えーー、すごいーー。どっちもモテそうなのに彼氏・彼女いないのが不思議だったけど、そうだったんだーー。」
なんということでしょう。カミングアウトに対してテンションがかなり高めで俺はもうついていけない。
「萩原君的には、東雲さんのどこが一番好き?」
そんな期待に満ちた目でこちらを見ないでほしい。
「えっ、どこがっていうか全部好きだけど。だって、まず可愛いし、気が利くし、優しいし、料理上手いし、掃除・洗濯、家事も完璧。文句なしだよ。」
「もう涼さんたら♡」
「い、今料理とか家事とか言った?」
「あぁ、それがどうした。」
「え、もしかして一緒に暮らしてるの?」
「はい、ずっと涼さんと一緒に暮らしてますよ。ついでに言うと、結婚のお約束もしていただきました♡」
「えええええーーーーー」
神崎からこんな悲鳴が生まれるとは思わなかった。神崎は、女子グループ(集団でいた)に戻り、今の話を流したのだろう。なんというか楽し気な視線を持った女子連中が零を持っていった。零を囲むようにして、キャーキャーとやっている。楽しいのはわかるが、他のクラスが熾烈な争いしてピリピリしてるのでお静かに頼むよ。
午前の競技は終了して、この運動会には珍しいが一般的なお遊び種目が始まった。パン食い競争に借り物競争とあった。選手は基本的に出ないために、いい休憩時間である。零が借り物競争に出るらしく、なぜか俺もフィールドの方で見てくれと言われた。これらには女子が多く出るために、あの人の写真部としての利益が生まれることは間違いない。
「では、そろそろですので、行ってまいります。」
「おー、頑張ってな」
そして、トラック脇の日陰で零を含めた参加者の動向を見守る。女子ばかりのせいかピンクや黄色などのなんとも色彩豊かなウエアが目につく。そして、競技が始まった。借り物の書かれた紙の置いてある机の前には網の障害のみと簡素なコースである。まぁ、みんなすいすいとくぐっていく。そして、紙を手に入れて、やれ先生だ、眼鏡の人だ、部活の先輩だとまぁありきたりである。零はどうなのかとしていると、嬉しそうな顔をして俺の方へとやってくる……まさかな……。
「涼さん、一緒に行きましょ!」
「何て書いてあったんだ?」
「好きな人とありました。」
またしても嬉しそうに紙を見せてくる。まぁ、定番といえば定番だな、普通は恥ずかしいから同性の仲の良い人に協力してもらうのに……ホント強いよな……。
「本部より連絡です。借り物の人とは手を繋いでゴールしてください。また、特定の紙には異なるゴール条件がありますので注意してください。」
本部よりお達しである。なんか……すごい予感が……。
「涼さん、あの~これなんですけど……。」
「ん……」
紙をよく見ると小さい字で、ゴール条件については異性の場合はお姫様抱っことすると書かれていた。
「仕方ないね、じゃあちょっとごめんね。」
「あっ、きゃあ」
俺は零をお姫様抱っこする、なんで女の子って身長ある子でもこんなに軽いのと思う。それに、周りを見ると俺以外にもいるようだ。
「んで、零、ゴールまでどれくらいあるの?」
俺はこの種目のルールをまったく知らないので、ゴールがどこに設定されているのかも分からない。
「えっと……このままトラック1周です……」
「マジかよ。俺はいいけど、たぶん体力続かない人がいると思うよ。
」
「えっ、そんな人いますか?」
「いるはずだよ。」
お姫様抱っこはまぁまぁ筋力のいる姿勢であり、それもトラック1周となればなおさらである。
「まぁ、見てれば分るよ。じゃあ、行こうか。」
「はい♡」
そして、零はご機嫌に俺の首付近に腕を回してきた。零が軽いというのもあるせいか非常に楽である。まぁ、晒しもの状態だけど……。まだ100mだというのにこんなペアがいた。
「え、ちょっと休憩させて、もう腕がしんどいって」(男)
「え、私が重いって言いたいの?」(女)
「いや、そういうのじゃなくてこれであと300は無理だって……。」(男)
「は~、東雲さんと生徒会長のところなんて余裕そうじゃん。昨日も優勝ばっかりでさ……あぁ~良いなぁ。」(女)
なんというか、すみません……としか言えない自分がいる。零も苦笑いである。
「涼さん、腕とか大丈夫ですか?お辛かったら、降ろして頂いても……。」
「あ、今の気にしちゃった?、大丈夫だよ、零は軽いから。」
「ご無理をなさらないでくださいね。」
心配そうに見つめてくるその顔を見るだけで頑張れるだよね、それにマジで疲れない、昨日に比べたらなんのことはない。そのまま、そのペアを横目に200m付近にいるとまたしもお姫様抱っこのペアがいた。
「ねぇねぇ、このまま私たち付き合わない?」 (女)
「え、でも俺なんかと……」 (男)
「私、前から好きだったんだけどなぁ……じゃあ、えい」 (女)
「え、危ないって、え……。」(男)
女子の方が無理やり落ちそうにして、わざと男子の手の位置をかえさせて、しかもその手は背中の腰付近を持つはずが、胸を触っていた。
「ねぇ、どこ触ってるの?」 (女)
「え、ごめん、でもこれは……」 (男)
「あぁあ~、付き合ってもない人に胸触られちゃった~、しかも男の人に触られたの初めてだし~、親に言わなきゃ……。」(女)
「え、ちょっとそれは……」 (男)
「じゃあ、付き合う?」 (女)
「うぅ、分かったよ。」 (男)
「じゃあ、これ終わったらデートしよ。」 (女)
「え、そんなすぐに……」 (男)
「うん!」 (女)
うわぁ~、青春してるなぁ。なんか、見ててこっちが恥ずかしいやつだな。
「ああいうのってちょっと良いですよね……。」
「いや、どうなんだろうな。男の方は流れに押されてる感じだったけど。」
「恋する女の子は強いんですよ。」
「さいですか。」
そんなこんなで、俺と零は黄色い歓声に包まれながら、無事にゴールした。なお、俺たち以外に一回も休憩せずにゴールした組はないらしい。
葉山も予想通りの優勝であり、Aクラスは危なげなく総合優勝に輝いた。その夜はクラス一同で焼き肉パーティとなり、また親睦を深めた。まぁ、零はずっと女子グループから囲まれて、なかば取り調べのようなものを受けていたのは至極当然であろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます