第9話 ご機嫌を取るのが定石

 少し時間を要したが、なんとか言い合いを鎮めて部屋に行けるようになった。まぁ、お察しの通り部屋は俺と零で一部屋、麻衣さんと仁さんで一部屋であり、俺たちの部屋の世話係は綾香さんであった。部屋はかなり広く、専用の露天風呂もそして豪華………和室がベースでなぜか寝室らしき箇所が二つ。片方には白くかなり大きい布団が真ん中に置かれていて、もう片方にはクイーンだかキングサイズのベットがあった。和室テイストで感動していたが、これは和室テイストが裏目になって凄い予感しかしない。零は、ずっと俺にしがみついているし、綾香さんは怒りマーク出しながらずっと俺に笑顔で部屋の説明してるし、はぁしんどいよ。

 そしてやっと説明が終わるころ、事は起こった。


 「私、夜の9時には仕事が終わりますので。」


 「はぁ~」


 「私と温泉やその後の営みも喜んで承りますよ。」


 この子は何を言っているのだろうか。俺の耳元でかすかに零にも聞こえるように言っている。零もだんだん泣きそうだしね。


 「今日は零と色々するから、明日以降かな。」


 「私は今日からでも!」


 なかなか引いてはくれないか。恥ずかしいけど、イケメン風なことしてみるか。


 「言う事を聞かないと、明日可愛がってあげないよ。」


 綾香さんの耳元で小さめの声で言う。綾香さんは、顔を赤くして「は………い。」とおとなしく部屋を後にした。イケメンに限るという制約のあるのを普通な人間がやるとおかしい感じになるのは自明だが、我ながらこれは黒歴史ものだ。



 部屋でゆっくりというのは俺の理想に過ぎなかった。


 「涼さん、ずいぶんと仲がよろしいのですね。」


 ほら、ご機嫌斜めな方がいらっしゃるからね。


 「仕事の時に、徹夜とか施設でゆっくりもせずデスクワークなりしている所を陰から見て気に入ったんだと。看板娘ってことで施設内で色々やってたらどこかのボンボンが俺と綾香さんが親しげに話しているのがムカついて、病んできて、綾香さんと心中するって事件があったんだよ。それをまぁ少し怪我しながら助けたら、あのような感じになってしまったんです。」


 色々と記憶が戻ってきたな。「綾香ちゃんは僕のだ。さぁ、綾香ちゃん一緒に死んでずっと二人でいようね。」だっけか。今、思い出すだけで吐き気がする。首元にナイフ押し付けながらね。おかげで助けるときに少し切られたけど。


 「今日は私とでしたけど、明日はあの子を可愛がるんですか?」


 「聞こえてたのね~。あれは嘘だよ。ずっと零のことを可愛がるよ、あれくらい言わないと出ていかなそうだったからね。せっかく零と旅行なんだからさ。」


 「へぇ~そうですか。」


 「まだ四時くらいだし、屋内で少し遊ばない?」


 「では、プールにいきましょう!」


 と自分のキャリーバックを開けだした。


 「えっ、水着持ってきたの?」


 「当然です!」


 準備がいいようですね。俺に背を向けて四つん這いになってキャリーバックの中を漁っている。わざとらしく、スカートが上がっていくようにして、水着は俺ですら分かったのに。見えてしまっているよ、可愛い水色の布地が………。絶対これ誘ってるよね~。お尻振ってるしさ。



 「水着は確か~ここのあたりに(そろそろ涼さんが襲って………なんて♡)」


 「零、俺は先にレンタルとか手続きしてるね。ゆっくりでいいからさ」


 「あっ、はい、すぐに。(あれ、効果なし。可愛いの履いてきたのに………)」


 危ない、早くも理性が二度目の崩壊をするところだったよ。まぁ、わざとやってるとは気づいたけど。



 色々と手続きを終えて、プールへ向かった。更衣室の所で零と分かれて、男子更衣室へ入る。色々な年代の人がいた、比較的若めの人もおり、どこの資産家だよと心で思っていた。周りから見れば、俺もか。そして、プールに向かう、零は少し時間がかかるかと思い、女子更衣室の出口から見えやすいところで待っていた。心なしか異様に女性客から見られてる気がする、更衣室からまぁまぁ離れてるから覗き疑惑はかからないと思ったが、甘かったのか?。


 「涼さん、お待たせしました。」


 と俺の左腕を目掛けて、零がぶつかってきた………俺の一歩手前でよろけてしまった。腕の伸ばして、なんとか支える。


 「おっと、危ない、危ない。あんまり走るなよ。こけたらケガするだろ。」


 「ごめんなさい………、あの~それとこの水着どうですか?」


 零は上に来ていた白色の薄いパーカーをゆっくりと脱いでいく。そこには淡いブルーに白や黒がおり混ざったチェックのビキニ姿であった。


 「可愛いね、ナンパされないように注意してね。」


 「ずっとこうしている予定なので、大丈夫です。」


 と俺の左腕に抱き着いてきた。柔らかい零の肌やなにか柔らかいものがほぼ直に俺の腕と接している。


 「そう、なら大丈夫そうだね。」


 「はい!(涼さんの腹筋とかやばい、あ~腕の感じも良い~)」


 「俺の腕、なんか面白いの?」


 「涼さんの筋肉がヤバくて………じゃなくて男の人の腕ってかっこいいなぁと。」


 それはよかったです。あんまり筋肉の付きやすい体質じゃないから仕上げるのに苦労したよ。腹筋なんて全然割れていかないんだよ。おまけに零が栄養管理とかすごい料理作ってくれるけど、おいしいからって食べ過ぎてね、筋トレの意味がないってことを何度繰り返したことか………。

  

 その後はずっと遊んでいた。ウオータースライダーで零を足の間に挟んで座るのはなかなか勇気のいるものだった………。腰に手を回してと係員に言われたとき、わざと俺の手を胸にやって「きゃぁ!」とか言い出した時は参ったよ。



 七時になった。仁さんや麻衣さんと一緒に会食となっており、食事会場へ向かう。なにも俺が不安に思うようなこともなかった。


 「涼さん、これおいしいですよ。」


 「ぁう~ん、そうだね。」


 なんか違う気がした。うまいんだけどさ………。俺の発言が効いたのか、綾香さんは姿を見せていない。


 食事を終えると、麻衣さんが零に何か熱心に伝えていた。うーん、真面目な表情からいつもの下らないものでは無い気がした。部屋に戻るとまた零がバックを漁りだした、麻衣さんもなぜか入ってきて、絶対に見ないでねと俺は閉め出された。


 「涼君、入っていいわよ。ちゃんと零を愛してあげてね!」


 「はい?」


 そして、俺は部屋に投げ出された。そこには、ミニスカートの花魁風のピンクの着物をきた零がいた。見惚れてフリーズした。


 「涼さん、一緒にゆっくりしませんか?」


 「あぁ、うん」


 すると、俺を座椅子に導き、座らせて俺の足の間に零は座ってきた。上からだと、胸が丸見えで目のやり場に困っていた。俺は耐えかねて、持ってきた小説を読んで気を落ち着かせようとした。


 「零、すこしよけて、本取りたいから。」


 「私がいきます~」


 猫撫で声のようにして、そして猫のように体をくねらせながら俺のバックに向かう。かなりのミスカートのせいか思いっきり見えてしまっている。昼間とは違って淡い緑色でかなり際どい布地が見えている。そして、小説を読んでいると、たまに上目遣いで「構って」という視線を送り、襟をだんだんと肩から落としていく。俺は頑張って耐えていた。


 「私って、やっぱり………魅力ないですか?涼さんはあの子の方が………。今日は私を可愛がってくれると言っていたのに………全然構ってくれないですし。」


 いまにも泣きそうな雰囲気を出し、俺に問いかける。すると、俺の理性は失われた。


 「ごめん、俺の我慢の限界みたいだから………。」


 零をお姫様抱っこして広々としたベットへ運び、俺の理性は崩壊した。


 


 「きゃぁ、涼さん、すごいです、もっともっと………。」

 

 事が終わり、専用の露天風呂に汗を流しに行った。零は俺との一戦で疲れ切っていたため、放っておいた。


 「ふうぅ、またヤッてしまった。はっきり言って綾香さんより零の方が断然好きなんだよな~、可愛いし、賢いし、なにより一緒にいてとっても楽しいんだよな~。俺も少しは真面目にならんと。」


 部屋とは反対方向を向いてそんなことを言ってしまった。そこに、ガラガラとガラス製の入り口を開ける音が聞こえた。


 「お背中を流しに来ました。」


 なんとも今度は薄い、今にも湯気で肌にくっついているほどに薄い白い着物を着ている零の姿があった。ほとんど透けているに近い状態であった。背中を流すと言いつつ、背中に抱き着いてくる零にまた俺は耐えることが出来なかった。



 「涼さん、ここだと声が同じフロアの方に、せめてお布団の上で………きゃぁ」



 「そんな恰好してきて、耐えられるわけないだろ。」



 「そんな事言われても………あっ……すごい♡」


 と風呂場でまたしても。また、その和室の布団に寝ることとなったがそこでもまた同じことの繰り返しで俺の体力や色々と尽きたところで意識は遠くなった。時計の針が朝3時を指しているのも忘れて。





 「零ったら、うまくやったわね。ちょっと声が大きいけど。」

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