第六話 人体蘇生
王城を出て三回太陽が入れ替わった三日目。ようやく山脈にたどり着いた一同は監視役の兵士に案内されてある洞窟のところまで来ていた。
この中にどうやら討伐を頼まれた強力なモンスターが住みついているらしく、太一たち四人は中へ入る。出入口は今入ってきた場所にしかないらしく、洞窟を辿ってゆけば必ず落ち合うだろうとのことだった。
兵士たちはあくまで監視役だということで入口で待っている。
子供だけでこんな危なそうな場所に行かせるとはどういうことなんだとPTAが怒ってきそうだが、今年で十七歳である太一たちの年齢が果たしてこの国において子ども扱いなのかは分からない。きっと立派な大人扱いをしてくれていると思うことにしよう。
そうしてしばらく進んだ後に、あのカエルのモンスターに出会うことになる。
それも有人と愛厘の二人を無残に殺されて。
◆◆◆
「富良野君! 今、倉門君と座部さんの体が治ったよ。息も吹き返してる!」
今もカエルのモンスターと対峙している太一にとって、その言葉はどんな魔法よりも力を与えた。太一の体に生きた血が洪水のような速さで駆け巡ってゆく。
――有人と愛厘が蘇った――
そして迷いなく放たれた大剣の一撃はそのカエルを覆う岩のような皮膚を斬り裂き、その肉体の中から真っ赤な液体が飛び散るように噴き出した。
カエルも負けじと口から紫色をした舌を伸ばし太一に巻き付け、絞め殺そうとしてくる。
しかし太一は勝利を確信していた。治癒術師の
腕が引き千切れてもいいという気持ちで振り下ろした大剣がカエルのちょうど眉間のところにぶち当たる。
カエルは目を大きく見開いて、舌を伸ばしきったまま巨体を地につけた。
「死んでも大丈夫な俺たちが、お前なんかに負けるかよ!」
この
何度死んでも命が蘇る。なんと素晴らしい魔法なのだろうか。
さっそく太一は甦った二人の姿を確認するために魔法で作った剣を消し、あがった息を整える間もなく三人の元へと駆け寄った。
影と光の境界線にいる三人は暗がりでちょっと離れていると表情がうまく読み取れない。
仰向けになっているのは有人と愛厘で、へたり込んで座っているのは
今はとにかく、よくやってくれたと天使に声をかけてやるべきだ。太一は天使の肩に手を置いて心の底から感謝を述べる。
「ありがとう。天使がいなかったら、どうなっていたか分からない。本当にありがとう」
「そんなことないよ。私の役目だもん。なんてことないよ。それより座部さんに声をかけてあげて。きっと太一君が一番心配してるでしょう?」
「う、うん。悪いな」
愛厘は今も横になって目を
貫かれたところは服だけが破れているが肌は元に戻っており、愛厘の十分に発達した胸の谷間が伺える。
太一は思わず目を逸らして別のことを考える。確かにあの場所をモンスターに貫かれはずだ。心臓の鼓動が一番よく聞こえる場所。それを爪が貫通したということは間違いなく愛厘は一度死んだはずだ。それが生き返った。何たる奇跡だろうか。
奇跡と言えば男女の体の構造の違いも奇跡と言えば奇跡だよな。特に女性の右心房と左心房にたわわに実ったあの小玉スイカ……などと太一は淫らに考えを移していった。
するとそんなふしだらだが強い思いに応えてくれたのだろうか、愛厘が目を覚まし太一のほうに目を向ける。
「愛厘!」
体は治ってはいるが、それだけでは分からないこともある。声はちゃんと出るだろうか。記憶を失ってなどいないだろうか。体はちゃんと意識的に動かすことができるだろうか。他にも何かしら悪くなったところはありはしないだろうか。
太一は愛厘に出来る限り負担にならない程度に呼び掛け、しかし力強く聞き続けた。
愛厘は一つ一つにきちんと応えてくれる。最後に太一のおじいさんの名前は、と聞いて分からないという回答を得たところで太一は満足した。
それ以外の質問や要望にはきっちりと応えてくれている。腕も足も動くし、目もばっちり見えている。愛厘自身の名前も太一の名前も、有人の名前も分かる。太一のおじいさんの名前は愛厘に言ったことがないので分からなくて当然だ。
「良かった……本当に良かった」
思わず太一は泣きそうになる。親友と思い人が一度に命を失い、それが蘇ったのだ。当然と言えば当然のことだろう。
すると太一の体を暖かな熱を帯びた体が優しく包み込む。太一の顔がちょうど愛厘の胸のところに納められた。
「ちょっ……何やって!」
「太一にまた会えて良かった。私もう二度とこんなことできないんじゃないかって思って」
そうして愛厘は太一の顔を優しく持って、キスをした。とても柔らかで甘いキス。これは太一もいつかはと思っていたもので嬉しくないものではない。しかしだ。
「……っどうしたんだよ! こんなところで急に何なんだよ!」
もしかしたら今まで抑えていた感情が、一度死んだことによって溢れたのかもしれない。彼女の気持ちは太一には推し量れるものではないのかもしれない。
それでもやはり、以前の愛厘だったら絶対にしないようなことを行ってきた。それに思わず太一はのけ反ってしまったのだ。
「私のこと嫌い? 私は太一のことが好きだよ」
そうして彼女は太一の手を取り、上目遣いで迫ってくる。終いにはあまりの圧に仰向けに倒れこんだ太一に対して馬乗りになってきた。
「ねえ、私たち付き合おう?」
愛厘の白く細い指が太一の体を這う。
こんなことは絶対にしない。太一の中の疑惑が確信に変わった。この愛厘は何かが違う、どこかが変なのだ。
こいつはいったい誰だ?
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