第十六話 くよくよなんてしていられない
太一たちは凹凸の激しい地面を自転車ほどの速さで行くラウマに荷台を引っ張られ爆発音のするほうへと向かっていた。
連なる建物、横切る水路を避けながら二キロほど進んだ頃だろうか、太一たちのほうへと逃げるように走ってくる人の数が盛んになる。
太一のラウマの手綱を引っ張る兵士が声をかけた。
「きっとこの先、魔王の手下がいるだろう。魔族ともいう。数は分からないが、凶悪な奴らだ。人間を連れ去り、餌にしているのか何なのか。頼む、俺たちを助けてくれ」
太一は安易には返事できずに、口をつむぐ。そんな心とは裏腹にラウマは進み続けていた。
◆◆◆
若い女性、子供、
その数ざっと二十人ほどだろうか。彼らは皆へたり込むように座り、抵抗の意志を見せる気配はない。
それはきっと目の前で声を上げて鉄球をぶん回す女の魔族が、建物を容易に破壊するのを見ているからかもしれない。
その横ではアリクイの顔をした魔族がペンギンのヒレのような両手を
太一たちは建物の陰からその様子を覗いていた。
「なんだよ、あの女みたいな奴。どうして建物を破壊しているんだ!? それに宙に浮いている毛もくじゃらの奴。あれも魔族って奴なのか!?」
「ここから見える数はざっと七、八体ってところだな。もう少しいる可能性はあるが」
太一と有人は初めて見る魔族と呼ばれる者に目を奪われていた。人と同じ形をした者や全く異なる形をした者。そしてそのどれもが知性を持って行動しているように見える。
特にやばそうなのが女の魔族とアリクイの魔族だ。女はその凶暴性が、アリクイのほうはその高そうな知性が危険だと感じる。
「あんなの、私たちに倒せるのかな?」
愛厘は青色の修道服をパタパタとさせながら、整った眉を少し歪めて呟くように述べる。
その声に反応した兵士は、何ら問題がないというようにハキハキとした語調で言葉を出した。
「大丈夫です。あなた達であればあんな奴ら退けることなど容易いでしょう。それに、じきに応援に駆け付ける魔法の達者な兵士も来ます。その者たちと力を合わせればきっと倒せるはずです。それに必要とあらば、私たちも盾となりましょう」
その他、この場にいる兵士たちも同じように
これが容易に想像できたゆえに太一はこの戦いにあまり乗り気ではなかったのだ。この者たちは自らの死に、高すぎる価値を置いている。後から蘇るであろうと楽観視しているがゆえに。
それについて講釈を垂れるというようなことは、太一はすでに諦めてしまっていた。
そんな自信に溢れた兵士の態度を見て、愛厘が上目遣いで手を取ってすがる。
「ありがとう、兵士さん。私、不安で……不安で。胸が張り裂けそう」
その兵士だけでなく周りの者も、愛厘の張り出した胸を見ずにはいられなかった。
太一は胸こそ張り出していないが、同じように張り裂けそうになる。
「遅くなった、ごめんね!」
大きな二頭のラウマの引っ張る荷台に乗って、五名の上等そうな装備を付けた兵士がやって来た。先頭にはジュスティーヌの姿がある。
「相手の数は九体……いや、十体か?」
「鉄球の女がいるぞ。俺はあいつに苦い思いをさせられた。今度こそ……!」
「待て! ジョゼフがいる。あいつは相当厄介な陣形を作ってくる。俺たちもきちんと準備をしないといけない」
兵士たちは来るなり作戦会議を開く。かなり戦い慣れているようだ。
ジュスティーヌが太一の元へやって来て、にっこりと笑う。
「タイチ君。早速一緒に戦う機会ができたようだね。嬉しいような悲しいような。とにかく、君たちの力見せてもらうよ!」
「……死ぬ気で戦うなんて言わないでくれよ?」
「うん! 太一の言うとおり命は大切にする。そのうえで、あいつらもやっつける!」
ジュスティーヌのまっすぐな正義は太一の心をわずかに癒してくれた。
太一もくよくよなんてしていられない。太一は宙に手をかざし、光の中から剣を手に取る。視線の先では魔族が人間を探し、進軍を続けていた。
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