第十五話 不安が迫る
ガラガラ、ゴトン。ゴロゴロ、ガタン。
街の通路はそれほど整備されていないようで、木製の荷台が荒い音を立てて突き進む。
太一たちは一人一台分用意された家畜動物――ラウマというらしい――に荷台を引っ張られ、バランスを崩しながらも手を振り返す。
街の家々からは住民が姿を現し、虹色に色づく花びら――この辺りでしか取れない花らしく、名前はポーラエッセンスというらしい――を宙に舞うように投げつけ道を彩ってくれる。
太一にしてもだいぶなんだか恥ずかしいので、愛厘のほうも顔をこわばらせながら手だけは振って応えている。幽奈に至っては、下を向いて人形のように動こうとしない。唯一、有人だけは大手を振って笑顔で応えていた。
「お前たちには期待してるぞー!」
「この国に来てくれてありがとう!」
「俺たちに出来ることがあったら何でも言ってくれ!」
街の人々は思い思いに太一たちに声をかけてくれる。案外とそのような言葉は力になってくるものだ。兵士として戦うことに不安がなかったわけではないが、それでもこの街のために頑張ってみようかという気持ちになる。
だがしかし、次第にこんな言葉も耳にすることになる。
「俺もお前たちについて行かせてくれ! 俺だってお前たちを守る盾くらいにならなるぞ!」
「俺も! 一緒に戦わせてくれ!」
「俺をお前らの不死者の軍団に入れてくれ!」
この国は疲弊している。せっかく人間同士で寄り添って固まっても、魔王たちがやって来て力で散り散りにされてしまう。
そのもどかしさがこの国には蔓延していた。いつかあいつらに目にものを言わせたい。この国の人間、特に男たちは弱いが助けくらいにはなる小さな力を持て余していた。
とはいえ、今の彼らがまともな思考かと言われれば太一は即座に否定するだろう。
◆◆◆
どれほど進んでも歓声が鳴り止むことはない。荷台にはポーラエッセンスの花びらが靴を覆うほど溜まっている。
いつまでも聞こえるこの国の人たちの声は、今まで溜まっていたものを吐き出しきるまで続くと思われた。
瞬間、太一たちから最も離れた場所に位置する石垣が大きな爆発音とともに崩れた音がする。
「なんだ!? どうした!?」
歓声が一変、叫び声に変わる。甲高い叫び声に、兵士たちの野太い声が低く響いた。
「魔王の手下だ! 魔族が襲ってきたぞ!」
壊れた石垣のあたりではその数、十体ほどの影があった。そのうち三体は人に近い形をしていて、他は全身毛もくじゃらの大きな目と口しかない獣や顔がアリクイのように尖ったペンギンのような獣などが暴れている。
その中の一体が地面に手を置くと、ペリペリペリと地面が鎖でつながった鉄球の形にせりあがり、最後にはボコンと地面が割れた。そいつは地面から取り出したであろう大きな
「おらあ、おらあ! 抵抗して見せろよお! じゃなきゃ、てめえら全員ぶっ殺すぞ!」
「それはやめておきなさい。人間の数が顕著に減ると私たちの実験ができなくなってしまいます」
アリクイの顔をした魔族は冷静に、鉄球を持った魔族をたしなめる。
「予定は五十人です。さあ、人間狩りを始めましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます