第十七話 反撃開始

「ここまでだ!」


 ジュスティーヌが若い、力強い声を上げる。その声は天高く上った。


「おお、お前たちか。遅かったですね。昼寝の邪魔をしたなら申し訳ない。もうすぐ用事が終わるので、帰って寝ていてもらって構わないですよ」

「ふざけるな! お前たちを止めに来たに決まっているだろう!」

「いいねえ、いいねえ、ジュスティーヌ。お前に会いたかった! お前の肉体をえぐり取れなかったのが残念で仕方なかったんだ。今度こそお前の肉片をいただくことにしよう」

「残虐のポワレめ! 趣味で人間を殺しやがって! お前の命もここまでだ。覚悟!」


 人間と魔族の小隊がぶつかる。ジュスティーヌやポワレような者は真っ先に相手に切り込みにかかろうとし、その後ろでは意識を集中し遠距離魔法を放とうと魔法使いが捕まえた人間の手綱を引きながら控える。


 人間二十八人に対し、魔族は十体。しかし十体とも全員強力な魔法を使用してくる。対して、人間は現在五名の人間しか戦闘レベルの魔法を使うことができなかった。

 早くから押され気味の人間軍を脇目で見ながら、太一たちは建物の陰を進む。時折聞こえてくる兵士たちの唸り声に、太一は耳をふさぎたくなった。


「こっちだ。あの二体の毛もくじゃらの魔族のすぐ奥にいる魔族が見えるか? あれがジョゼフだ。あいつは強力な遠距離魔法を使う。表からなら奴を守る防御は堅いが、裏からなら守りが薄い。あいつらはお前たち新たにやって来た魔法使いの存在を知らない。だからきょをつける」


 作戦はこうだ。戦力差から必ず押され気味になる戦いの中、ジョゼフが魔法を放てば必ず人間側は瀕死になる。その油断のタイミングで有人が高等魔法を放ち、魔族の前後の隊を分断する。その上で一気にジョゼフに攻撃を畳みかけるのだ。


「緊張するな。俺の攻撃のタイミングですべてが決まるじゃねえか」

「有人、頼む。できる限り素早く行ってくれ。この作戦はジュスティーヌたちを囮にして成り立っている。一秒でも早くジョゼフを討ち、助けに行かないと、そのまま殺されてしまうかもしれないんだ」


 この作戦の内容を聞いた時、嬉々としてこの作戦を語る兵士を太一は止めようとした。自らの命を捨てることを視野に入れられるせいで、このような安易な作戦となったのだ。


 最終的に時間がないことと、ジュスティーヌ曰く、ジョゼフの魔法は何度もくらっているから一発くらい平気と言う言葉に促されるように太一は了承した。本当なのだろうか。


「地面が光ったぞ! ジョゼフの魔法だ! 準備をしろ!」


 太一たちを連れていた兵士が有人に声をかける。しかしその言葉の語調は強い。その後に続く太一たちに向けても言っていると思われる。

 太一と愛厘は戦闘の構えを見せ、有人はジョゼフに焦点を合わせ、何かを練り合わせるように開いた掌をゆらゆらと動かしていた。


 一気に冷気が太一たちの元に届く。冷や水を急にかけられたような寒さが襲い、太一は背筋を凍らせる。ジュスティーヌ側の土色の地面が瞬間、氷に覆われた銀色に変わり、地面から生えた氷の棘がジュスティーヌたちを襲う。

 彼女たちの鈍い叫び声が響くより少し前に有人の魔法がジョゼフとポワレたちを分断した。有人の魔法は熱く燃え、炎の津波となってジョゼフに襲い掛かる。


「なんだこれは!? 誰の魔法ですか!? これほどの炎、人間どもが出せるわけがない」


 ジョゼフは小規模な水魔法で、体を水で覆う。しかし、すぐに蒸発し肌を焼け焦がす。

 特に毛もくじゃらの魔族には効果てきめんだったようで、飛び散る火の粉が飛び移り今にも炎に包まれようとしている。


 連れている人間が叫び出すのをいさめようとジョゼフは後ろを振り返り、声を出す準備をする。その群衆の隙間から剣を持った少年が真っ先にこちらに向かっているのが分かった。


「なんだ!? 一般兵か!?」


 太一は両手に握りしめた大剣を振り上げるのだが、その動作一つ分の時間は敵に反撃のチャンスを与えたようで毛もくじゃらの魔族が大きく口を開けて太一を頭から胴体にかけて噛み千切ろうとする。太一はそれに全く目もくれない。


 毛もくじゃらの魔族が口を閉じかけた瞬間、その巨体が大砲に飛ばされたかのように横から突き上げられた。白く細い指をした掌が強く拳を作り、突き刺さる。愛厘だ。


 そうして予備動作を獲得した太一は、ジョゼフの体を縦に斬り下ろす。剣の扱いにまだ慣れていないせいか、斬るというよりは叩き潰す形でジョゼフは頭から血を流しそのまま倒れた。

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