第三十八話 VSポワレ

 ペリペリペリと床を剥がす音が鳴る。ポワレは土魔法を使って地面から鎖のついた棘付き鉄球を引っこ抜いた。太一が斬り落としたものよりも一回り大きい。

 ポワレは鉄球を高く宙に上げると、そのまま勢いをつけて太一の頭上へと落とした。


 それを太一は難なく真っ二つに斬り落とす。

 どうやら太一の魔法剣の制御は完璧なものになったらしい。ジュスティーヌのコーチのおかげで魔族に全く引けを足らなくなるほど太一は成長をしていた。


 すかさず太一はポワレに飛びかかり、大きく剣を振り下ろす。それをポワレは数ステップでスルリとかわしてしまった。


「剣を合わせるのはうまいが、剣を当てに行くのは苦手らしいな。それがお前の弱点か」


 少し戦っただけで太一の苦手とすることを捉えることのできるポワレは、やはり戦いの熟練者と言ったところだろうか。

 ポワレはまた地中に手を這わせるのだが、今度は両手を這わせている。両の手がそれぞれ地面から何かを掴むと、二つの鉄球を引っこ抜いた。


「さあ、右腕と左腕。どちらを残したいか決めな。どっちも残したいのなら、宙をうねる鉄球を斬り落として見せるんだな!」


 ポワレはうねうねと腕を動かし、鉄球を宙で舞わせている。加速が十分につき始めてきた鉄球が次第に轟音を奏で始めた。

 太一は止まっているものを斬る練習ばかり行っており、動き回るものに剣を当てることは実戦以外全くしていない。現に太一はポワレの鉄球を目で追うことができないでいた。


 ポワレの言葉を信じるなら、この勢いのまま鉄球が太一の元へ左右同時に襲い掛かってくるだろう。そうなれば太一には一方向しか対応できず、どちらかの腕がもがれる可能性が高い。

 それならばと、太一はジュスティーヌを抱え部屋の角に位置取る。


 一斉に飛んでくる二つの鉄球。それは空気を引き裂き太一の右腕と左腕を狙って飛んできた。

 しかし太一が位置取っている部屋の角では壁が狭まっている分、鉄球が広範囲をとって襲い掛かりにくい。


 詳しく述べると、普通は左右逆側から攻めると一方向にしか対応できないが、部屋の角だと最大でも九十度分しかバラバラの方向から攻められない。だからよほど注意しておけば一振りで二つの鉄球分を相手に出来るというわけだ。

 そうして太一はポワレの二つの鉄球を撃破した。


「へ~、嫌なこと思いつく――」


 太一は瞬間、ポワレの元へ全力で走っていき剣を振りかざす。ポワレの鉄球は厄介だが勢いをつけるのに時間がかかる点がある。それに鉄球を振り回す際、ポワレ自身が動きを止める必要があることも分かった。


 ということは、鉄球を振り回し始める時を狙えば確実にポワレを斬ることができる。ゆえに、太一にとっての攻撃のチャンスは今しかないと距離を詰めたわけだ。

 ポワレはますます笑顔を浮かべる。とても愉しそうに、とても嬉しそうに。本当に彼女は戦いが楽しいのであった。


「攻撃が鉄球だけだと思うなよ」


 ポワレが魔法を放つと、太一の体に液状となった地面が絡みつこうと伸びてくる。

 太一は必死にそれを振り払おうと剣で斬っていったのだが、とうとう一本の地面に両腕を捕まれてしまった。


 液状化していた地面はすでに固まって岩と同じ硬さを持っている。どれだけ腕を引っ張ろうが抜ける気配はない。


「さあ、お仕置きの時間だ。顔を整形してやるからどの部分が要らないか言え。喰い破ってやるからよお」


 太一の目の前に大きな髑髏どくろ頭が出現した。歯が数百本生えており、どれも鋭利に尖っている。いた目からは太一に向かって土煙が吹いており、まるで動物が餌を舐めまわすかのように太一に巻きついて離さない。

 髑髏の歯がギロチンのようにゆっくりと開いて太一の顔をすっぽりと覆う。


「どこを喰ってほしい? 鼻か? 口か? 耳か? 目か? ほら、言わないと首元から喰っちまうぞお!」


 太一は必死でもがいてみせるが、髑髏から逃げ出すことができない。髑髏の口の中は真っ暗でその先は何も見えずにいる。太一は首筋に冷たい歯の感触を感じたような気がした。


 ボガン。


 ふいに岩の砕ける音がして、太一の体が軽くなる。部屋の角ではジュスティーヌが太一の体を縛っていた岩を風魔法の刃を飛ばして砕き、息を荒くしながらも声援を送ってくれた。


「タイチ君、やっちゃえええ!」


 髑髏の閉じた口から間一髪、顔を引き抜くことに成功した太一は髑髏越しにポワレの体を切り裂いた。

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