第三十九話 毛もくじゃらの化物

「アハハハハハハハハハハハ!」


 魔法で出現された髑髏越しに斬りつけたせいか、髑髏は真っ二つに出来たが肝心のポワレのほうは右腕を切り落とすにとどまった。とはいえ、ポワレは黒い血を流し体をよじらせている。当の本人は笑ってはいるが。


「最っっっ高だ! この痛み! まさか人間と殺し合いができるなんて思いもよらなかった! そういえばお前、今まで見たことがねえ顔だったよな。今までどこに居やがったあ!?」

「地球だ」

「なんだあ、それは。新しくできた王国か?」

「お前が知らなくていいことだ」


 本当にこいつが知らなくてもいいことだ。どうせ知ったところで、太一たちが地球に戻れるとは限らないのだから。きっと太一たちはこのままこの惑星で生きてゆくのだろう。


「いい加減にくたばれ!」


 太一はポワレの胴を狙うのだが、さすがにかわされる。しかし、ダメージは確かに通っている。このままいけば必ずポワレも動きを鈍らせることだろう。太一はそう思っていた。

 次の瞬間、ポワレは背中から翼を生やし、空高く太一の剣の届かない場所へと飛び上がってしまう。これでは絶対に太一からの攻撃は行うことができない。


 ポワレは大きな声で笑い、天井から再び二つの鉄球を引っこ抜くと、振り回し勢いをつけてゆく。

 太一は冷や汗をかきながら、先ほどと同様に部屋の角へと場所を移した。


「その手はもう通用しない。おとなしく降参して降りてこい!」

「アハハハハハハハ! ほざくんじゃねえ、人間ごときが! 私に簡単に敵うと思うなよお!」


 またもや鉄球が空気を引き裂き、太一を狙って左右から飛んでくる。しかし今度は鉄球がだんだんと太一から逸れて、太一を挟む壁にめり込み壊してしまった。

 壁が壊れ、その場所は大きく開けた場所となってしまう。ちょうど壁の向こう側にいたリサが驚き、腰を抜かしてしまっていた。


「もう壁を使うことができねえな? ああん? 誰かと思えば、実験に協力してくれたリサじゃあねえか。ってことは、手元にいるのは……あの化物か」


 自分たちで勝手に作っておいて化物呼ばわりすることに腹を立てたのか、ジュスティーヌが声を荒げる。


「ミカエルだよ! 化物なんかじゃない! あんたたちがミカエルをあんな姿にしたんでしょ!? あんたたちのほうがよっぽど化物だよ!」

「ああん? 何を言っている、私たちから見れば、あれが化物だよ。何を考えているのか分からない。ミカエルのようにおとなしい者もいれば、お前たちの街を襲った者のように凶暴になったもいる」

「――ちょっと、どういうこと!? 私たちの街を襲ったって!?」

「そのままの意味だよ。あそこにいた毛もくじゃらの化物を覚えているか? あれは元々お前たちの国の人間が、魂の再生実験で蘇った姿だ。言うことを聞く奴はああやって利用している」


 先日ダルムスタット国を襲ったポワレたちについてきていた毛もくじゃらの獣。言葉を交わさず指示だけ聞いて動いていたが、あれが元々はダルムスタット国の人間だったなんて。


 確か最期は有人の炎の魔法で焼き消したはずである。

 ジュスティーヌは緊張の糸が切れたかのようにぐったりと体を崩してしまっていた。


「じゃあ、私たちが今まで倒してきた獣の魔族はもしかして全員……?」

「ヘハハッ、そうだ!」

「じゃあ、私のお父さんとお母さんも知らずに私が殺していたかもしれないってこと……?」

「そうかもしれないなあ。誰を実験に使って、誰が成功したかまでは覚えていないが。もしかしたら、毛もくじゃらの化物がお前の両親だったって可能性は十分にあるなあ。なにせ気丈なお前の両親なんだから、さぞかし立派な魂の輝きを持っていたに違いない。絶対に実験は成功する。私が保証してやろう」


 あまりの話に気をとられ、気づくとポワレはすでに二つの鉄球を大きく振り回しており、その勢いは体をミンチにするに足る速さを得ていた。


「大丈夫だ。お前も私が蘇らせてやる。だから安心して死ねばいい」


 左右から勢いよく太一とジュスティーヌのいる場所へ鉄球が飛んでくる。ジュスティーヌが万全の状態ならば二人でそれぞれ対処できたはずなのに、彼女は涙を流しすでに抵抗の意志を持ってはいない。

 太一一人では左右別々から鉄球が迫ると同時に対応することができない。万事休すであった。


 途端、太一の前方に黒い球体が出現する。それは出現すると同時にポワレの二つの鉄球を飲み込み、消し去ってしまった。

 この魔法はローブの男の魔法だ。


 太一が見渡すと廊下を数百名ほどの人間たちがこちらに向かってくるのが分かる。先頭にはローブの男。そして、その隣には幽奈の姿があった。

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