第四十話 ジュスティーヌとポワレ

「どうして、幽奈がここに……?」

「太一君が心配だったからだよ。だから助けに来たの。迷惑だった?」


 幽奈は恥ずかし気に太一に声をかける。こんな危ないところに来るなんて、横にいるローブの男に止められそうなものだが。


「ユウナがどうしても助けに行きたいっていうものだからね。彼女のタイチを想う気持ちを無下にできないと思ったまでさ」


 ローブの男は当然といった感じで説明をする。その瞳の色は真っ暗だ。

 太一が後ろを確認すると人が増えているのが見て取れた。明らかに兵士といった身なりでない者も混ざっている。


「この人数は?」

「寒い部屋に死んだ人たちがいたから人体蘇生リザレクションをしたの。まだここにいる以外にも仲間がいるよ。中には戦闘レベルの魔法を使える人もいたから、今は外の魔族を倒しに行ってもらってる。これできっとここにいる全魔族を倒すことができるよ」

「……いや、まだだ。この部屋に強力な魔族がまだいる」


 太一がそう言うや否や、ポワレの鉄球が再び飛んできた。


「――くそっ!」

「大丈夫だよ、太一君」


 すかさず十人の人たちが太一を身を使って守る。太一の代わりに肉壁となった人たちはボロボロの肉塊となってその場に崩れ落ちていった。


 そして幽奈がその死体に治癒術をかける。幽奈から放たれた青白い光がみるみるうちに肉体の再生を成功し、その体に魂を戻す。

 それを見たポワレは初めて笑顔を失い、顔を引きつらせていた。


「なんだあ、それはぁぁああ!? 何が起こったぁぁああ!? 人間が……再生しやがったぞお!?」


 ポワレと幽奈が目を合わせる。ポワレは幽奈の輝きのない瞳に背筋を凍らせていた。


「とにかく、お前をふんじばって魔王様の元へ送り届けてやる。そうすればようやく、あの方が生き返る!」


 ポワレが勢いよく翼をはためかせ、幽奈に一直線に飛んでくる。そして途中、土魔法で体を覆い、硬い鱗で覆われたカラスのような姿になった。手には太い槍を構えている。

 太一がその槍に剣を合わせる。すると合わさった場所から甲高い金属音が鳴り響き、チリチリと火花が放たれた。どちらも引けをとってはいない。


 あと少し。あと少し力があれば、ポワレを砕くことができるはずなのに。

 太一はすでに全力を出し尽くしていた。


 そこにふわりと優しい風が吹き、ポワレの体に剣が斬り込まれる。ジュスティーヌだ。

 彼女は左腕だけではあるが、しっかりと剣を握りそこに風魔法を宿し、いつもの調子以上の魔法剣を放つ。その顔にもう涙は見えなかった。


「ジュスティーヌ、大丈夫なのか!?」

「うん! ユウナのおかげだ。あの中に私のお父さんとお母さんがいたんだ。生き返ってくれたんだよ!」


 両親が獣になり、それを自分が殺してしまったかもしれないと感じていたジュスティーヌは、幽奈が人体蘇生リザレクションした人の中に両親の姿を見て力が湧いたのだろう。

 魔法は気持ちに応えてくれる。彼女の喜びは希望となり、太一の魔法さえも強くなっていった。


「タイチ君、ごめんね。でもこれからは頑張れるから。剣士として、もう一度頑張れるから。だからタイチ君の隣に居させてもらって……いいかな?」

「もちろんだ!」


 太一とジュスティーヌの剣が僅かにポワレの力を上回る。そしてポワレは体を砕かれ、はじけ飛ぶのであった。



◆◆◆



「ウゥ、アアゴゴゴ……」


 ポワレはまだ息が残っていた。しかし下半身はちぎれ、右腕もすでに失っており、もうすでに太一たちの勝利は当然のものとなっていた。

 その場から動くことができないポワレの元へジュスティーヌが剣を揺らしながら近づいてゆく。


「……これで終わりだ」


 ポワレが最後の力を振り絞って手を伸ばすも、立ち上がっているジュスティーヌには届かない。しかし最後まで戦く姿勢を見せるポワレは敵ながら芯の通ったものだと感じさせた。


 そこに二人の男女が駆けつける。二人ともピンク色の綺麗な髪をした者たちであった。

 彼らはジュスティーヌの元へ着くと、彼女の肩にポンと手を置いた。


「……お父さん、お母さん」


 ジュスティーヌの魔族への敵討ちはこれでいったん終わりだ。これからは家族と一緒に幸せに過ごすことになるかもしれない。

 太一は家族三人再びまた出会えたのを見て、とても微笑ましく思う。今までは幽奈の人体蘇生リザレクションをあまりよくは思わなかったが、こういうことなら素直に喜ぶことができる。


 ジュスティーヌがこれから、たくさん幸せになりますように――。

 太一がそう願った瞬間、ジュスティーヌの両親の口から思ってもみない言葉が飛び出してきた。


「タイチ君の隣に居るべきはあなたじゃないわ。ユウナちゃんがふさわしい」

「そうだ。タイチ君と同じ剣士だからって調子に乗るんじゃない。お前みたいな奴にタイチ君の隣に居る資格はない」


 その二人はジュスティーヌに足を引っかけ倒すと、顔をポワレの元へと差し出した。二人の瞳には光が宿っていない。

 ポワレは意識半分で最後の力を振り絞りジュスティーヌの顔に手をかけると、掌から岩石のドリルを繰り出し、たちまち彼女の顔をミンチにしてしまった。


 ポワレの目は満足そうに閉じてゆく。ジュスティーヌの顔はすでにバラバラに飛び散ってそこにはない。

 二人は同じ場所で同じ時に死んでいったのだった。

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