第四十一話 改竄

 ジュスティーヌはポワレに殺された。ジュスティーヌの両親にめられて。

 その両親は今、ジュスティーヌの亡骸を抱えて泣いている。訳が分からない。


 周りの兵士たちはすでに勝利のムードに浸っている。目の前でジュスティーヌが殺されたことなど気にもしていないという風に。

 太一は頭に上った血を落ち着けて、幽奈のほうに向きなおる。幽奈は太一の顔を見ると子供のような笑顔を見せた。


「……なあ、幽奈。お前があの二人を人体蘇生リザレクションしたんだよな?」

「うん。私以外に出来る人なんていないよ」

「……なあ、幽奈。あの二人がジュスティーヌに向かって変なことを言ってたけど、お前はどう思った?」

「……私が考えていることと同じだなって思ったよ」


 太一は頭が沸騰してしまいそうだった。幽奈のせいでジュスティーヌが死に、両親はジュスティーヌの死をはかったのだ。


 幽奈がジュスティーヌを嫌っていたせいで。太一の隣に居るべきは自分なんだと強く願っていたせいで。

 太一は一度大きく地面を叩くと、悔しくてポロポロと涙がこぼれた。


「どうしてお前はそんなことしか願えないんだ」

「……変なことかな? 大切な人の一番近くに自分が居たいって思うことは」

「だけど、殺してまで隣を奪うことないじゃないか!」

「別にあの人は死んでなんかいないよ? 私がいれば生き返るんだから」

「それとこれとは話が別だ!」

「どう別なの!? 今回のことで分かったでしょ? 太一君を最終的に守ったのは私のおかげなんだから。あの女が傍にいても太一君を危険なまま放っておくだけ。でも私は蘇らせて太一君を守る盾を作ることができる。太一君は私と一緒にいたほうが安全なんだよ!?」


 どうしてこんな思考ができるのだろうか。人を再利用可能な盾だと考えている。しかもそれができる自分は大きな力を持っていると思っている。人の命を馬鹿にしているのだ。


 それは例えば、ゲームのラスボスで敵が一番強力な魔法を放ってきたときに死にかけの仲間に当ててくれて、どうせ後で生き返らせればいいと思っていた奴だったからラッキーと喜びさえするようなものだ。


 しかも今はゲームではない。現実だ。にもかかわらず同じように命を軽く扱われることが起きるなんて、非常に胸が苦しくなる。

 何とか思考を落ち着けた太一は、幽奈にあるお願いをしてみることにした。


「ジュスティーヌを蘇らせるときに記憶を取り除くことってできるか? もしできるなら、今さっき両親に嵌められた出来事を記憶から消してやってほしい」

「できるよ。太一君のためならなんだってやってあげる。一つ条件があるけど……」



◆◆◆



 ジュスティーヌの命は蘇った。整った顔にピンクのストレートの髪の生え、元のジュスティーヌの体が復元される。


「ジュスティーヌ、元気か?」

「……あれ、タイチ君? 私、え~っと……何してたんだっけ?」


 とりあえず、太一のことは覚えているらしい。ジュスティーヌが生き返って両親は大喜びをしている。

 それならばと太一はすぐにジュスティーヌから離れることにした。また隣に彼女がいれば両親に殺されてしまうかもしれない。


「タイチ君、どこ行くの?」

「外の魔族の様子を見てくる。まだ全員倒せていないかもしれない」

「それなら私も一緒に行くよ。私もタイチ君の隣に居て、守って見せる」

「ジュスティーヌにそんな力はないだろ……?」


 太一はできる限り優しく、諭すように言葉を出した。


「そんなことはない! 確かに私はそこまで強くはないけれど、でも他の人よりは魔法が使えるから。だから助けくらいならなれる!」

「……魔法? 使えるのか?」

「何言って……って、あれ? 風魔法が……あれ?」


 ジュスティーヌは今まで使えていた魔法が使えなくなっているのに気づく。これが幽奈が求めた条件だ。体を元に戻して都合の悪い記憶を改竄かいざんする代わりに、魔法を二度と使えない体にする。

 そうすることで剣士として、頼れる仲間として太一の傍に立つ資格を持たなくなるからということらしい。


 太一は訓練によって魔法の制御がどんどんと上手くなっていった。それは幽奈も同じだ。

 今までは知らず知らずのうちに対象者の人格を変えていった人体蘇生リザレクションだったが、多くの犠牲を治すことで彼女もまた人体蘇生リザレクションを思いのまま操れるようになったらしい。


 ジュスティーヌの記憶操作と体質改造。

 天使あまつか幽奈は悪意を持って人を作り直すことができるということを太一ははっきりと認識した。

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