第二十話 VSドルディーニ

「それで、あの顔に攻撃しないと攻撃が通じないの?」

「そのようなんだ、体は普通なんだけど、触手が硬くて厄介で」

「だったら、体のほうを先にやっつければ? 胴体から真っ二つにすれば、脚の動きを封じられるんじゃない?」


 早速やってみた。斬れた。軟らかかった。バンザイ。


「おお! これで動き回られる心配はなくなったな」

「体はカステラのように斬れたな。軟らかかった」

「それで……この人どうする?」

「……動けないし、他を助けに行ったほうがいいんじゃないか?」

「――ふざけんじゃああねえええ!」


 ドルディーニは九本目の野太い触手を地面に突き刺し、それを軸に宙をひらひらと舞う。


「そう簡単にいかなかったな。きっと無視しようとした太一にキレてるぜ」

「それを言ったら、初めに攻撃をした有人にキレてるだろ」

「私も悪い提案しちゃったかな。ごめんね」


 三人はとりあえず攻撃を愛厘が、太一が有人を守りつつ愛厘のサポートをする形で攻撃に加わる陣形で臨んだ。


「あの顔のところまで、さっきの魔法の糸を伸ばすことはできないのか?」

「できるだろうが、太一にはもう一度こいつと世間話をして時間を稼いでもらうぜ」

「どんな話をすればいいんだ?」

「そりゃあ、趣味の話とか?」


 趣味は何ですか。休日は何をしているんですか。髪はどれほどの期間を空けて切っているんですか。天気がいいですねえ。初恋はいつですか。好きな異性のタイプは何ですか。もう一度、趣味は何ですか。

 それらの答えはすべて剣撃によって返ってきた。


「――よし、次は女はおっぱい派かお尻派か、だ」

「もう無理だよ! 答えてくれるわけないだろ!」


 二人は相変わらず剣撃を避けるのに精いっぱいでいる。愛厘のほうは剣撃を避けながら軸となっている触手に打撃を与えているのだが、その効果は今のところは見えてこない。


 ドルディーニは軸の触手を巧みに操り体を近づけ、上空で構えた剣を淀みなく太一たちに振り下ろし攻撃している。上空から勢いがつく分、剣撃が増しているのだろう。太一が同じく剣で受けていたら力負けするのは目に見えていた。


「どうにか魔法に集中する時間が稼げないのか!?」

「そんなこと言っても、相手は戦闘に慣れているみたいだし。戦闘も魔法も素人の俺なんかじゃあ……」


 そんな弱気を吐き出しつつ、ジュスティーヌのことを思い出す。彼女は剣も魔法も太一よりも達者だ。こんなことなら、彼女にその極意を習っておけばよかった。

 ジュスティーヌは今、ジョゼフの放った氷魔法に貫かれ息も絶え絶えで――。


 太一が見やると、ジュスティーヌはすでに起き上がりポワレに対抗している。他の兵士たちも満身創痍だが、民衆の助けを借りて魔法を放ちながら応戦していた。

 そう言えば、一発くらい平気とジュスティーヌが言っていたような気がする。あながちただの強がりではなかったのかもしれない。


 とはいえ、戦いに参戦してくれた国民たちのおかげで何とか息が持っている。もしかしたらまだ誰も死んでいないかもしれない。

 そう思うと太一の剣を握る手に力が入り、剣が白くまばゆく光を放った。

 魔法は術者の心を強く反映する。それは幽奈の人体蘇生リザレクションからも学んだはずだ。


 カエルのモンスターが斬れたのは愛厘たちが蘇ったことに希望が湧いたため。ジョゼフが斬れなかったのはジュスティーヌのことが心配で、あまり調子が良くなかったのだろう。

 希望は湧いた。誰も死なせない。そんなことを考えていると、宙からドルディーニの剣撃が飛んできた。またよそ見をしていた。


「てえいやあ!」


 愛厘の拳が軸の触手を殴打する。これまで蓄積されたそれがようやく実ったのか、軸はグラつき太一を狙った剣撃が空をかすめる。

 何度、周りに助けられただろうか。後でちゃんとお礼を言わなくてはいけない。


 そんなお礼の気持ちも剣に乗せ、太一は軸となる野太く硬い触手を斬り裂いた。

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