第二十三話 やり直し
人よりはるかに強力な存在、魔族を退けたダルムスタット国の人々は歓声を上げ、その喜びを日が暮れるまで分かち合った。
王城へ着いた太一たち一同は王城で喜びをかみしめながらせっせと準備をされた食事を振舞われ、夜だというのに騒がしい。有人の放った光魔法が王城を
ふっくらと焼かれ、香ばしい小麦のような香り漂う食物。体中に染み渡る温かなスープ。食用に育てられた
それはきっと、もうこの国の味付けに慣れてしまったんだなあと感じる瞬間でもある。
食卓に着く者、場を共有したくて地面に置いてでもここで食事をとる者、皆の笑顔がここにあった。
◆◆◆
その日の夜。
お風呂を浴び、さっぱりした太一はとある部屋の扉をノックする。扉がわずかに開かれ、中からのそっと覗き込む形で顔を表したのは幽奈であった。
教室にいた太一たちを覗いているときもこんな感じだったのかとその手つきの良さに呆れてしまう。
「あ、あれ? た、太一君……どうしたの?」
「どうしたの、じゃない。お前はいつもそうやって訪ねてくる人を出迎えているのか?」
「何のこと?」
どうやら幽奈は自分の行いを客観的に見れていないらしい。その変質的な行動は当たり前のこととして行われているのだろう。
「愛厘と話をしたくてここに来た。愛厘はいるか?」
「座部さんだったら、今はいないよ」
「……そうか、いないのか」
せっかくお礼も兼ねて二人きりで話そうと思ったのに。衝撃と驚きで混乱し、変わってしまったと拒絶してしまった愛厘ともう一度話をして新しく関係をやり直すことができればと、そう思ったのに。
また中庭にいるだろうか、そう考えていた太一はふとあることに思い至る。
「お前、まだ愛厘のことを座部さん呼びしているんだな。せっかく向こうから下の名前で呼び合おうとしてくれているのに」
「あいつとなんて親しくならなくていい。どうせ私を利用して、弱い者にも優しい愛厘ちゃんを演じたいだけなんだ。……あのアバズレが!」
幽奈は愛厘のことをとことんまで嫌っているらしい。それは嫌いなところがあるから嫌っているのではなくて、嫌いな存在だからやること全て悪意を持って見てしまうというものだろう。
幽奈はある種、太一と同じかもしれない。自分の頭の中にその人のイメージを勝手に作り上げ、そのイメージに沿う形で相手の行動を受け入れる。
そしてそこからはみ出たものは拒絶するか、目を瞑る。幽奈にとっては優しい愛厘を、太一にとっては性に積極的な愛厘を、だ。
変わらないものなどない。幽奈を見ていると、変わらないでいようとすることが少し愚かであるように感じてしまう。
自らも変わろうとしなければ。大切なものはすぐそこにあるというのに。
「愛厘がいないんだったらいいんだ」
太一は扉を離れ、中庭を探そうと
幽奈たちのいる女性の二人部屋は特別他の部屋と変わりがあるわけではなく、洋服ダンスが少し大きいことと小物入れが部屋の角を占めていること以外大差ない。
吹き抜けた窓からやってくる
目は大きく見開き、首には刺し傷が何か所もあり血が流れ出ている。
扉に向かうように中腰で立っている幽奈の後ろ手には赤い血で染まったカッターナイフが握られていた。
さらに風が強く吹く。炎は風と共に飛ばされ、部屋を黒く沈めた。
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