第二章 これは神の所業か悪魔の業か 人間牧場編
第二十四話 未熟者の足掻き
「ほうら、お前らよく見ておけよ!」
しばらく有人がその筋肉質な手を
「……よし! ガラスの出来上がりだ! これで窓から雨風が入ってくる心配がなくなるぞ!」
「お兄ちゃん、すごーい!」
有人はキャッキャ言っている子供たちに遊んでもらいながら、街の復興を手伝う。
つい先日魔族に襲われ、街は半壊していた。街を囲む石垣の堤防を始めとし、建物の修理、
建物の修理などは魔法を扱える者がやると効率がいい。セメントを作り出したり、鉱山から採れた鉱石を加工したりして建物の修復に使う。
有人は先輩の魔法使いに魔法を習いながらグングンと上達し、この国には今までなかった新たな素材を作り出してしまった。
一方、
「これくらいでいいか?」
「うん。むしろ、持ちきれないから置いて帰らないといけないね」
「う~ん、まだ魔法で具現化した剣を常に制御しながら扱うってのが慣れないんだ」
「タイチ君の魔法は制御型だからね。私の場合は実物の剣に風魔法を付与するから一度魔法を出してしまえば気にせずに戦えるけど、制御型は魔法で出したものを常にコントロールしないといけないからね。戦いの最中、相当集中しないといけないんだ」
太一はうまくいかない自分の魔法に
制御型ということは一段と自分の精神状態に影響されてしまうではないか。そんなムラのある戦いをしていて、果たして皆を守れるのだろうか。
魔族との一戦の後、王城に兵士志願者として国民が殺到した。中には女性の姿も見られたのが太一にとって印象的だった。
力はないが盾にならなれる。そう言っているような気がした。
魔族に遠く及ばない非力な国民はただ泣き叫ぶか、従い連れ去られるのを待つだけであった。
しかし命を張ることができるのであれば。時間さえ稼げば他の強力な魔法を持った者たちが逆襲の一手を放ってくれるのなら。
自分は足手まといにはならないはずだと進んで兵士になろうとする。勇者を守る英雄になら、なることができると期待できる。
だが太一は知っている。その術の使い手、
蘇った人格の異なる人物は、果たして同じ人物だと言えるだろうか。それは以前の人物は死んでしまっているのと同じではないだろうか。
だから太一は全力で否定した。兵士になんてなるものじゃない。簡単に命なんて捨てるものじゃない。
誰もその話に賛同してはくれなかった。
親友の有人も
◆◆◆
「結局、兵士の数が増えちゃったね」
「しょうがないよ。命を張れる兵士が増えれば増えるほど、この国は魔族の襲来から守りやすくなる。兵士の志願を断りたくないのはいたって普通の判断だ。あれは俺のわがままなんだ。だからこれからは俺が皆を守れるくらい強くならなくちゃいけないんだ」
命を簡単に捨てられると思っている人たちを守る。これが太一の当面の目標だった。
現在、太一とジュスティーヌは数十人の兵士を連れて一メートル程の長さに斬り落とした木をそれぞれ肩に抱え、国のあるほうへと持ち帰っている。
ジュスティーヌに剣と魔法の訓練をお願いしたせいか、太一はここ数日ジュスティーヌとばかりいた。
代わりに愛厘との会話は減ってしまっている。
「そんなに気を張ってると疲れちゃうよ?」
「でも、早く魔法剣士の戦いをうまくならないと。……そういえば、愛厘がどこに行っているか知ってるか? あいつだってジュスティーヌに稽古をお願いしていただろう?」
思えば最近、太一は愛厘に会ってすらいない。朝ご飯の時に見かけたかと思えばすぐにどこかへ行ってしまうし、なんだか人が変わったようになってしまった。……なんてね。
「アイリだったら、別の人に稽古を頼んだって言ってきたよ。だから、私との稽古はいらないって。ウォルストンって奴が同じ拳闘士だから、その人に教わっているんだよ。確か今は、鉱山のほうに行っているんじゃなかったかな」
愛厘は愛厘でちゃんとやっているのか。それを聞けただけでよかった。
太一が木を抱えながら石垣でできた門をくぐろうとすると、そこで待っていた兵士に呼び止められる。
「太一さん。ジュスティーヌさん。至急、玉座の間へと向かってください。いよいよ本格的に魔族と戦うそうです」
「魔族と戦う? ってことはもしかして……」
ジュスティーヌの顔が険しくなる。その顔は以前やり損ねた魔族、ポワレに見せていたのと同じだ。
「はい。人間牧場へ乗り込もうということです」
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