第十一話 ダルムスタット国

 太一たちがいる国、ダルムスタット国は人口約五千人の大きな都市である。建物のほとんどが石を積みセメントのようなもので固められたものであり、横に長く連なったそれを一世帯ごとに石垣で覆い区切っている。


 ドアは木製。窓にはガラスなんてものはなく、吹き抜けで造られている。照明は植物からとれた油脂を固めた、いわゆる蝋燭ろうそくがメインで使われているが光魔法を使える者がいればそれで代用する。


 しかし、実用的な魔法を操ることのできる人材は千人といなくて、その中でも戦闘をこなすレベルの魔法となると十人といない。

 そのおかげで魔王の手下によってダルムスタット国から人が連れ去られるということは少なくなく、国の周囲を高い石垣で覆い激しく抵抗して見せても、力任せに押し切られると被害は避けられない。


 加えて魔王や手下の中には空を飛行する者までいるので、この国の文明レベルではどうしようもないのが現実である。

 そんな中、太一たち戦闘レベルの魔法を操る者がこの国にやって来た。それに聞けば、一人は肉体の損傷を元に戻す治癒魔法を操る者までいると言うではないか。


 魔王たちに残虐に殺され、近しい人間が連れ去られるのを膝をついて見ているしかなかった国の兵士たちは多少の無茶を覚悟で戦えるかもしれない。ダルムスタット国バンザイ!

 そんな現状、無事に帰ってきた太一たちは王城の中へ入ることを歓迎された。現在太一たちは、城の中でも特に壁や柱に装飾が施された部屋の中に通されている。


「ねえ、私たちどうなっちゃうのかな?」

「悪いようにはされないと……思う」

「いざとなったらこっちには人体蘇生リザレクションがあるんだ。ガンガン戦おうぜ! なあ、幽奈ちゃん」

「う、うん」


 とはいえ、やはり不安が襲い掛かる。特に太一にとって人体蘇生リザレクションは絶対に頼りたくないもので、戦闘を避けられるものなら是が非でも避けたいと思っていた。

 そんな中、扉がノックされ二人の兵士と、もう二人やけに派手な衣装を着た人物が入って来た。


 一人は赤の目立つ衣装を着た白い顎髭あごひげを携えた恰幅かっぷくのいい老人で、もう一人は白を基調としたひらひらのフリルがついた衣装をまとい、腰ほどある長い金髪をウェーブ状にした太一たちと同い年だと感じられる女の子である。


 太一は目を見開いて驚く。それは、その女の子が愛厘と瓜二つの姿だったからである。目鼻立ち、背丈から体形までそっくりだった。

 太一はまじまじとその女の子のことを見てしまう。

 するとコホンと咳を立てた後、老人のほうが口を開いた。


「さて、まずは長旅ご苦労だった。私はこの国の国王、ロバート・ウォルトンだ。頼んだモンスターは君たちがちゃんと討伐してくれたみたいだね。あそこは武器の生産に使われる鉱石が採れる場所だったから、とても重要な場所だったんだ。これで君たちがこの国の一員となってくれるのであれば、こんなに嬉しいことはない。エリザ、お前からも何か言ってあげなさい」


「はい、お父様。皆様はじめまして、エリザベス・ウォルトンと申します。皆様には試すようなことをしてしまい、大変申し訳ありませんでした。しかしあなた方ほどの力を持った方たちを簡単に通すわけにはいかず、その力と人格を見極めさせていただきました。ここにその非礼の謝罪とこの国の助けになっていただきたくお願い申し上げます。この国を救う、勇者となっていただけませんでしょうか」


 国王とエリザ、後ろでは二人の兵士たちが膝をついて頭を下げている。

 太一たちはあまりのことに全員で目を合わせて、たじろいでいた。

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