第二話 黒い渦
緑香る優しい風が草花を撫でるように揺らしている。そこに五人の足が踏み進んでゆく。
一人は動物の皮でできたレザーの鎧を身に
一方、残りの四人は紺色の学生服に、靴は真っ白に先っぽが赤く塗られた上履きを履いている。
この世界に来たとき太一たちは高校の教室にいて、そのままの姿でここに来たのだ。その時のことはあまりのことに鮮明に思い出される。
始め、太一と有人、愛厘の三人は高校の授業が終わった放課後、他に誰もいない教室で喋っていた。
なんてことないいつものことだったのだが、突然地震が起きたかと思うと辺りを黒い渦が包み、気づくと辺り一面壁もない地面もない
周りを見渡すと同じような状態でいる三人の姿。さっきまで喋っていた有人と愛厘と、そして少し離れた所に女の子の姿があった。
同じ学生服を着ているから、きっとこの高校の生徒だろうと太一は思いつつ謎の空間に視線を戻す。
目の端に有人が口をパクパクさせながら何かを訴えているような動作が映った。声は聞こえない。しかし目線の先から訴えているであろうことは予想できた。
すぐ手の届く所で愛厘が不安そうに周りを見渡している。愛厘が首の向きを変えるたびに茶色に可愛らしいピンクが混ざった色をしたポニーテールが宙をふわりと舞っていた。
「愛厘、大丈夫か!」
太一はきっと届いていないであろう声を発し、懸命に手を伸ばした。やっとのことで愛厘の左腕を
すると先ほどまで不安そうだった表情が和らいでいるのが分かった。今は笑みさえもこぼれている。
これで声が届くならすぐにでも告白してしまいたい。そんな思いに駆られながら太一は彼女の手をギュッと握った。愛厘のほうもより一層笑顔を強くして優しく握り返してくれる。太一の思いが通じ合ったような気がした。
するとそんな二人を一気に包むように有人の両腕が二人にしがみつく。三人は顔を見合わせながら大きく笑った。
三人になってさらに心強くなったのか、自分たちが黒い渦の中にいることさえ忘れてしまいそうになる。
この三人の絆の強さは本物だ。これからどんなことがあってもそれは変わってしまうことはないだろう。
そうしているうちに黒い渦の中に白い光が差し込んでくる。
太一たちはあまりの眩しさに目を閉じてしまうほどだった。その一方で、もう一人の女の子――
肩まで伸びたセミロングの黒髪がうねうねとくねっている。そうして彼女はじっと太一たちを見続けていた。その瞳の色は黒い渦と同じほど黒く、光が全く灯っていない。
そうしている間に次第に光が強くなってゆく。辺りが白一色になり、気づくと四人は地面の感触を感じるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます