第三話 四人の魔法使い
「なあ、やっぱりここは異世界ってやつだよな?」
有人がこれで何度目になるか分からない質問をしてくる。
「そうだろうな。じゃなきゃ、こんな不思議なことできるわけないし」
太一は何もない空間に白く光る大剣を出してみせる。鉄でも鋼でもない。不思議な物質でできたものだ。
「おい! むやみやたらと魔法を使うんじゃない。それとも何か? やっぱりお前ら魔王の手下どもなのか?」
「そんなじゃないですって。本当に俺ら何も分からなくて。魔王っていうのも全く知りません」
「本当か? この世界に生きる者は皆、魔王の存在を知っているぞ」
「だから俺たちはこの世界の人間じゃないんですって」
どうやら太一たちは異世界に飛ばされたらしく、今は見つかったのか見つけてもらったのか表現に困るのだが、たまたまもそばにいたこの星の兵士らしき人に連れられこの国の王城へと向かっている。
幸い日本語が通じるあたりがやはり夢なのかと疑ってしまうが、ほっぺをつねっても伸ばしても、有人の頭を蹴飛ばしても覚めないので一応現実として受け入れることにした。ここは現実で異世界なのだろう。
「太一は剣士か。それもかっこいいが、俺は魔法使いだぜ。炎や水や光の魔法が使えるんだ。愛厘はどうだ?」
「私は素手で戦うのがいいみたい。拳闘士ってやつかな。不思議と力が湧いてくるんだ」
この世界に来てなぜだか自分が能力を持ったことが彼らには自然と理解できていた。それはまるでゲームのチュートリアルを一瞬で終えたみたいな、たくさんの情報が一気に頭の中に流れ込んできたのだ。
「ねえ
愛理がこの世界に来て自己紹介をして初めて知った彼女の名前を口に出す。天使は一番後ろを歩きながらもじもじと、か細い声を上げる。
「ヒーラーかな。治癒魔法が使えるみたい。それに――」
「ほう、それはすごいな。嬢ちゃん治癒魔法が使えるのかい」
一番前を歩いている兵士のおじさんが振り向いて感嘆の声を上げた。その声にびっくりして、天使は下を向いてしまっている。
それでもその兵士は昔戦ったモンスターとの武勇伝を語りながら、ついた傷を治せるかいと言って天使にぐいぐいと迫っていた。
「やめろって。嫌がってるだろ」
不憫に思い、太一は思わず二人の間に入り込む。天使は太一に気づくか気づかないか程の声でありがとうとつぶやいた。
「なんだよ。別に悪いことをしようってんじゃないだろ。しかしまあ、お前らが俺らの目の前に急に表れたときにはびっくりしたが、本当に魔王の手下じゃないとすれば大歓迎だ。お前らみたいな魔法の使い手はそうそういないからな。それに治癒術師なんて一人もいやしないんだ。お前たちがこの国の救世主になってくれることを願ってるぜ。まあ、国王様が俺たちの話を信じてくれるかどうかだがな」
こうして太一たちは王城へと連れられている。異世界へ放り出され、あてもない彼らにとっては従うほかないものだった。
五人は目の前にまで差し掛かってきた王城に向かって歩いている。一番後ろでは天使がまだぶつぶつとつぶやいていた。
「ありがとう太一君。やっぱり君は私の王子様だよ……」
その気配と言葉に誰も気づくことはない。
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