第十三話 この国の在り方

 しばらく廊下を闊歩していた太一は、王城の四隅にある物見やぐらの一角にロバート国王と幽奈がいるのを開いた窓越しに発見する。

 ロバート国王は大きく身振り手振りをして幽奈をまくし立てているように感じた。幽奈のほうは人見知りが発動したのかうつむき加減でもじもじとしている。


 太一は自然とそこへ助けに向かおうと思ったところで足を止める。

 確か幽奈は同じような状況に陥った彼女を助けに入った太一を見て好意的に見てくれるようになったと言っていた。今また間に入ると幽奈は太一にどのような感情を抱くだろうか。


 太一は幽奈に複雑な感情を抱いていた。彼女が人を、とりわけ太一に関わる女性を歪んだ眼で見る危険な奴だとは認識している。

 だがその実、彼女が何かをしたというわけではない。実際には何かをしたのかもしれないが、有人と愛厘に関してだけ言えば彼女は歪んだ感情を持って人体蘇生リザレクションをしたということだけだ。そこに意図的なものはない。


 意図的に何かを侵入させたのであれば、愛厘をあそこまで自由にはさせないだろう。記憶を消し、女性らしさを消し、人間として大切なものまで上書きするかもしれない。きっと幽奈は悪意を持って誠実に治癒をしてくれただけなのだ。

 太一は多少頭の中で指さし確認を行いながら、やはり幽奈の元へ助けに行くことを決意する。


 無意識的に助けに入った過去とは違い、今では計算してから行動するようになってしまった。もしかしたら、いつの間にか自分も人体蘇生リザレクションを受けたのかもしれないなと太一は苦笑した。



◆◆◆



「何をやっているんだ?」


 物見櫓にたどり着くために螺旋らせん状に広がった階段を上りきった太一はきわめて冷静に、距離をとって言葉を出した。

 幽奈は急いで太一の元へと駆け寄る。


「タイチ君じゃあないか。なに、人体蘇生リザレクションについてユウナ君に聞いていただけだ。素晴らしい魔法じゃあないか。死んだ人間が復活する。それも一欠片の肉体の損傷もなく、完全に」

「それほど素晴らしい魔法ではないと思います。あの魔法は人格を変えてしまう。完全な人間の再生なんてできないんです」

「そうなのかい?」


 ロバート国王は初耳だというように幽奈を見やる。幽奈は首を小さく横に振っている。

 そのことに太一は言葉を出そうかとも思ったが、ロバート国王の手前長くなることが予想される言い争いをする気もなかった。


「タイチ君。もし君の言っていることが本当だとしても、我々は止まることができないんだよ。この国は魔王の手下に襲われ、兵士が命を失うことや人さらいがたびたび起こっている。魔法力で劣る我々には玉砕覚悟の方法をとることしかできない。それしか自分たちには国民を守ることができないんだ」


 ロバート国王はこうも続ける。


「私の妻。マリアは五年前、魔王の手下に連れ去られ今は人間牧場というところへ攫われてしまった。エリザが十一歳の時だ。ユウナ君の魔法のことを聞いて真っ先に浮かんだのがマリアの顔だ。遺体がこの場所にあったなら、もしかしたら蘇らせてもらえるかもと思った。他にもこの国には親しい者がいなくなって悲しむ者がたくさんいる。タイチ君。やはりね、どんなことになったとしても生きて笑顔を見られるだけでいいと思うことがあるんだよ。人体蘇生リザレクションは救いの魔法だ。魔王を仇討ち、国民の笑顔を守る、私たちに一番必要な魔法だったんだ。理解してくれ。頼む」


 ロバート国王は、またもや膝をついて頭を深く下げた。

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