第二十六話 狂宴

「えっ俺と幽奈、二人だけで行くんですか?」

「二人だけとは言っていない。ただユウト君にはこの国を守ってもらいたいんだ。魔族の襲来が絶対にないとは限らないからね。同じくアイリ君にも戻り次第この国をユウト君と一緒に守ってもらうつもりだ」

「それじゃあ、俺たちには誰が……?」


 玉座の間に集まった兵士たちが一斉に立候補の声を上げる。魔法の力を持たない一般人たちだ。

 その誰もが決意を胸に、目に炎を宿している。必ず身を盾にして守ってみせると。


「私にも行かせてください。タイチ君は私との稽古中の身です。まだまだ教えたいことがたくさんあります」


 ジュスティーヌが凛として言葉を出す。

 結局、国の護衛にも力を割かないといけないということで、人間牧場に向かうのは太一と幽奈、ジュスティーヌ、その他もう一人の魔法使いと残りは百人ほどの一般兵となった。


「ごめんね。本当はタイチ君のほうがとっくに強いはずなのに。でもどうしてもこの作戦について行きたかったんだ」

「どうして?」

「私の両親は、私が小さい頃に魔族に連れていかれてしまったんだ。きっと今から向かう人間牧場にいるはず」


 ジュスティーヌの外見から推測するに、彼女の小さい頃というのは地球の尺度で言うと十年ほど前のことだろうか。それならばきっと、彼女の両親はもう……。

 ジュスティーヌと経験を同じにすると思われる兵士たちとともに、これから行く人間牧場に続く門を抜け太一たちは北のヴェリバル地方へと向かう。



◆◆◆



「施設の中まではどうなっているのかは分からない」


 太一たちはまだ日は落ちてはいないが、一度落ち着いて距離をとり、日をまたいでから突入することにした。暗闇では大勢が動くことは難しい。

 それまでの時間を使って作戦を立てることにする。とはいえ、人間牧場の場所と外観以外特に情報を持ち合わせてはいない。中に入った者は、生きて帰っては来ないのだ。


「う~ん、中に入るまではどうなるのか分からないのか。やっぱり一番の目標は人質の解放か?」

「そうすれば仲間の数も増えるしね。どこにあるのか分からないけど」


 仲間……か。人間のほとんどは戦闘レベルの魔法を扱える者は少ない。そんな人間を解放して仲間と呼べる戦力になるのだろうか。まあ、太一以外にとっては役に立つと言えるのだろう。


「まずは魔族の掃討をしたほうがいいんじゃないか? 敵を減らした上でじっくりと人質を解放すればいい。じゃないと足手まといになるだけだ」

「それじゃあ、どの建物から探索する?」


 数棟ある建物の中で一際立派で、上等そうな造りの建物がある。青い瓦の屋根の建物だ。壁はよく焼かれた赤土色の煉瓦れんがが敷き詰められ、魔族と人との建築技術の違いが伺える。

 周囲は木の柵で覆われ、黄色や紫の綺麗な花の咲いた庭園が作られている。他の建物からは距離をとって建てられており、何やら特別な建物であると推測される。


 そして太一たちが驚いたのは、その庭園に清潔な身なりをした人間が数名、魔族の監視があるものの自由に過ごしていたことだ。所謂、放牧というやつかもしれない。

 他にも人型の魔族の多くがその建物に出入りしていたように見えた。


「あの青い建物。あそこが一番魔族の出入りが激しいような気がした。もしかしたら、あそこを寝床にしているのかもしれない」


 実験動物として飼っている人間と一緒の場所に住むとは考えにくいが、他に上等そうな建物も見当たらない。とはいえ、その上等そうというのも人間の価値観なのであてにはならないが、判断材料がない以上それに従うほかはないように思える。


 早朝、日が昇るとともに青い屋根の建物へ忍び込み、一気に魔族を討伐する。

 そうして全員の意思を統一したところで、一同は夜に備えた。



◆◆◆



 一度眠りについた太一はふと聞こえてくる声に目を覚ます。


 空には月は昇っていない。だというのに、崖下からまばゆいばかりの光を放って周囲を照らしている。

 太一はおぼつかない足元に注意をしながら、同じように起きてきたらしい人の集まる場所へと向かう。その中にはジュスティーヌの姿もあった。


「どうしたんだ?」

「見てみなよ、あれ」


 ジュスティーヌのわずかばかり照らされた表情が強張こわばっているのが分かる。

 その視線の先には光の粒が照明のように四角に並べられ、その外側では様々な形をした魔族が声を上げて喜んでいた。


 内側では最低限の布で身を隠した二人の人間の男たちが、武器を手に持ちお互いを死に物狂いで傷つけ、戦っている。

 そうしてどちらか一方が息絶えると、入れ替わるように次の二人が入って来てまた殺し合いを行うのだ。


 ポワレと同じだ。あいつらは実験なんてしていない。ただ人間が苦しむのを見て愉しんでいるのだ。

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