——そして。


 街を歩く、その人混みの中で、僕らは一人の少女とすれ違う。


 行き過ぎて、それからお互いに振り返って、視線が合って、そしてお互いに笑みを交わす。

 そうできるように、なっていた。


 視線の先で、もう耳当ても、コートも外した紗千が、楽しげな表情を浮かべていて。そしてその隣には、もう一人、同じくらいの歳の少女が、不思議そうにそんな紗千の様子を眺めていて。


「おはよう、紗千」

「おはようございます、冬哉さん」


 そして僕らは、そんな風に言葉を交わし合った。


(『幸降る街の人魚姫』 終)

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幸降る街の人魚姫 九十九 那月 @997

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