後日譚―瑞希

 今日、通り道で、梅の花がひとつ、咲いているのを見つけた。

 もうすぐ春が来るんだな、と思うと、月日の流れが早いのにびっくりしてしまう。




 クリスマスが過ぎて、それからちょっと色々あったりして、だけどそれも片付いた後であたしは、冬哉と晃生に、あることを話した。

 それは、あの日、あたしが三人での関係を終わらせようとしていた、ということ。


 今なら、わかる。

 あたしが、いつも通り空回りして、余計なことをした。素直にそれを認められる程度には整理もついていたし、何がいけなかったのか、というのも、薄々理解はしていた。


 だけどそれでも、やったことがなくなるわけじゃない。


 紗千のことがあって、それでうやむやになってはいたけれど、それでもよくよく考えてみれば、あたしは自分で勝手に思い悩んで、そのせいで大事な演奏を失敗させてしまった。


 結局最後は、街でちゃんと演奏できたからいいじゃないか、とも思った。

 だけど、それじゃ気が済まない感じがしたし――それに、多分、そうやって話すことも重要なのだ。

 あたしが黙って何かしようとすると、きっとまた空回ってしまうから。


 あたしの話に、晃生はとにかく戸惑いっぱなしだった。冬哉はそれほど慌てた素振りは見せなかったけど、それでも流石に、ちょっと驚いた、という顔をしていたりして。


 ごめん、と、あたしは改めて謝った。勝手にあたしたちの関係を終わりにしようとしていたことも、本番で演奏をダメにしてしまったことも含めて。


 許してもらえるかな、というのは少し不安だったど、二人は少し顔を見合わせて、それからお互い苦笑して。


「まぁ、僕も似たようなことで悩んではいたから」

「ってか、そもそもこれだって俺の勝手で言い出したことだしな」


 と、そんな風に言ってくれて。


 その結果、ありがたくも、あたしたちの友人としての関係は、まだまだ続いている。




 ……のだけれど。


 あたしは、そのままの関係でいちゃいけない、なんて思いで、あんなことをした。

 けれど、そんなあたしの思惑とはまた違う形で、ちょっとした変化が、今、起こり始めていたりする。


 あの夜、声が戻った後で、あたしは、晃生に告白された。


 持って回った言葉はなくて、ただただ単純に、好きだ、付き合ってほしい、の二言だけ。


 あたしはそれを聞いて、――正直なところ、ちょっと笑いそうになってしまった。別に晃生をバカにするつもりはなかったけれど、それがあまりにも唐突で、何かの冗談かな、なんて思ってしまったから。


 だけど、その時の晃生の目が、凄く真剣で。

 それでわかってしまった。本気だ、って。


 だけど、それでもあたしは、やっぱり戸惑ってしまった。


 晃生と、付き合う。恋人になる。そんなこと、考えたこともなくて、想像できなくて。

 結局、その場で答えを出すことはできなくて、その時は「考えさせて」と、そう言うので精一杯だった。


 いっそ、好き、と言ってしまえれば楽なのだろう。

 だけどやっぱり、付き合うための文脈みたいなものは、あたしと晃生の間には、十分に築かれていない気がして、そんな状態で告白を受けるのも誠実じゃない気がして。


 だけど、いつかちゃんと答えなきゃいけない、そのことには気づいていて。だからこそ、本気で悩んで。


 その末に、あたしは――

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