第3話:親として

 ―――贄の祝祭は終わりを迎える。

死装束を着た輝夜を祭壇とされる崖から奈落へと突き落せばそれで。

「さぁ、これにて贄の祝祭は幕引きです。我々はまた向こう千年は生きながらえる事でしょう…!」

美麗葉ノ神 神羅かんらの手が輝夜を奈落へと突き落したその瞬間、巨大な影が落ちゆく輝夜を抱えて地上へと舞い戻った。

「…アナタは…」

「…お母さん!」

神羅は目を細め、輝夜は目を見開きその瞳を輝かせた。

「やはり私たちには我が子を見殺しになんて出来ません。こんな事で英雄になるなんて事、あってはなりません。神羅様、どうかお考え直しください」

「…今更何を。何回も行われてきたこの世界の祭りを台無しに…ましてや贄の祝祭を私情で丸潰しにするなんて以ての外。貴女をもう我が美麗葉ノ神家の者とは認めません」

純白の尻尾をヒラヒラとさせる神羅と対峙する輝夜の母”神侑かんゆう

両者は一定の距離を保ったまま動かない。

「輝夜、大丈夫よ。そして今朝はごめんなさいね。お母さんと一緒に暮らしましょう…。」

輝夜は瞳に涙をため、黙って母親にすがりつき、母の服の袖を握った手は微かに震えている。

「神侑…貴女の行動を謀反と見なして罰を受けてもらい―――!?」

突如、祭りの祭壇会場の入り口から爆発音が聞こえ、悲鳴まで聞こえる。何事かと神羅が驚いた瞬間、それは見えてきた。

「…謀反で結構。親として子を守れるのなら…私も彼も本望ッ!」

「輝夜ァァアー!」

「おとう…さん…!」

祭壇を守る神官たちを次々と鞘に入ったままの刀でなぎ倒していく輝夜の父、卯月うづき。家族三人が揃うのは時間の問題だった。

「なんとしても贄を取り返し、祝祭を行うのです!」

 神羅の号令に武装した美麗葉ノ神家の狐の男たちが卯月と神侑に向かっていく。

されど、卯月の気迫と目まぐるしい刀の振りに、神侑の華麗な足捌きに美麗葉ノ神一族の男たちは翻弄され、倒されていく。

「穢れている…穢れています…やはりアナタ方のような混血は断ち切らねばなりません!」

卯月も神侑も神羅のその言葉を聞き取りながらも物ともせず、美麗葉ノ神一族の男たちを全員倒し終え、輝夜と卯月は抱擁を交わした。

「すまなかった…!輝夜、すまない。お前を一人犠牲にしようとした父を許しておくれ…。これからは一緒だ。どんな事があろうと一緒だからな、輝夜…!」

「おとうさん…!おとうさん!嫌いなんて言ってごめんなさい…本当はおとうさんの事大好きだもん…輝夜はお父さんが一番大好きなんだもん」

抱き合っている最中、祭壇入口から神羅と同じ白い毛並みをした武装した妖狐が10人立ち入ってきた。神羅選りすぐりの召使いであり、一人一人が男の狐100人分の強さを誇り、神羅と同じくして神通力を使えるつわものたち。

卯月はカグヤを今一度強く抱きしめると頭を優しく撫でその場を離れ、祭壇の入り口側へと踵を返す。

「…神侑。必ず帰ってくる。それまで輝夜の事を頼んだぞ。困ったら我が師―――を頼ると良い」

「―――はい。貴方…御武運を…」

神侑が泣きわめく輝夜を抱きかかえ、その場から立ち去った。

卯月は拳に力を込めていくと大地が震える。手足の爪や牙は更に鋭くなり、全身から紅い妖力が湧き出始め、男妖狐特有の栗色の毛までもが燃え上がるように揺らめき始める。

「…それは…神仙術式しんせんじゅつしき 修羅道しゅらどう

「如何にも…。我が魂燃え尽きようと親としての責務を果たせるのなら我が人生に悔いはない…!」

卯月は音も出遅れるほどの速さで10人の兵に飛び掛かった―――。


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