第47話:圧倒

「はっ!その程度か、この国の二番手はァ!それすなわち!トップの腕など知れたものということ!」

「我が国の民だけでなく、我が主まで愚弄するかこの外道ッ!」

 ガデニアは剣に魔力を纏わせ力の限り振るっている。ただ振るっているだけではない。腕の力に腰の回転を加えて振るっているため、生半可な防御では防御もろとも砕かれてしまう威力。

 その威力を腕を弾かれながらもしっかりと受け流すミカエルの技量は口先だけではない。

 キリエル大司教国において大天使を冠する聖名を与えられし戦士は国中の主戦力の一角、七聖天使ロイヤルガーディアンと呼ばれる。ミカエルもその一人にして七聖天使のリーダー。ガデニアが苦戦するのも至極当たり前と言えるし、逆にガデニアが善戦しているのが奇跡とも言えるかもしれない。

 しかしガデニアの剣の振りが遅くなっていく。ガデニアの体力が切れたわけではない。同時に地面に光の陣が描かれ輝き始める。

「何故こんなにも…!」

「説明致しますと。私、ガブリエルの【聖域】の中では魔力消費が倍増し、体の重量もまた倍増する。通常通りに動けるとは思わない事ですね。」

ガデニアの振りが遅くなるのはともかく、更に振るおうとした瞬間、体が全く動かなくなる。

「傍から見て。お前は俺、ラファエルの【癒しの手】によって無理を禁じられたんだ。これ以上動くとお前の体が将来的に危ないってな」

 そしてガデニアの体は宙に浮き、光の棘の輪に体が空中に固定される。

「神は言っています。貴方は天からの裁きを受けるべきだと。ウリエルもそう思いますので【天命の輪】で部下全員諸共、空間固定させていただきました」

「バカな…精鋭の中の精鋭を集めた我ら聖騎士団がこうも容易く…」

アステラ聖騎士団の目前で雷鳴轟くは双手による聖属性の光。

「そしてそしてそしてえぇ!このカマエル様とォ!」

「ぶっ飛び可愛いアリエルちゃんが繰り出す【大天使の雷撃】を受け止めてー!」

射線の軌道は広場に向けて。正確には広場に置かれた純白の巨大棺に向かって。

「前略。そうして最後に我、アズラーイールの【聖なる棺】よって魂は浄化され、我らが大司教様のために天使に使える戦士として目覚めるのです」

大天使の雷撃によって聖騎士団は飲み込まれそのまま聖なる棺に入った。








――――――はずだった。




 大天使の雷撃はたった一人に受け止められ、巨大な棺もいとも簡単に破壊される。純白に程なく近しく思えるほどきめ細やかな薄い桃色の髪がその衝撃に波打つ。

 その背中はガデニアが感じる情けなさとは無関係に見惚れてしまう勇ましくも絢爛たる鎧姿。シンボルの宝石であるブルートパーズが散りばめられ、その宝石に負けないほどに綺麗な光沢を持つ深紅の鎧。

「アステラーナ様…!!」

「出てきたな。それすなわち!我々に完全敗北する覚悟が出来たという事!」

 大天使の雷撃は強さを増し、ガブリエルの聖域においてアステラーナの重量は増え、現段階で飛び上がっていようとも落ちる。

 大天使の雷撃を受け続ければアステラーナと言えど体の限界が来る。そうすればラファエルの癒しの手の効力により体の動きを止められる。

 それよりも先に天命の輪がアステラーナを捕えようと迫り、アズライールの聖なる棺は再び再構築され、大天使の雷撃の射線上とアステラーナの落下点の二つに出現している。


 しかしガデニアたち団員の表情に一片の曇りはない。

 

 天命の輪はアステラーナのもう片方の手によって掴まれる。


 それとほぼ同時に大天使の雷撃、団員を含める天命の輪、アズライールの聖なる棺、ガブリエルの展開する聖域、それら全てが一斉にガラスの如く砕け散った。

 ミカエルを含める七聖天使ガーディアンたちはその光景に戸惑いの顔を隠せない。

「ありえない、我らの聖なる力が…」

「今のうちに民たちを守りながらお前たちも退避しなさい。私に責任を取らせて」

 聖騎士団員と共に地面へ降り立ち、団員に冷静な指示を出すアステラーナ。それと裏腹に焦りの顔を露わにし始めるミカエルたち七聖天使。

「なんだというのだ…たかだかセクバニアの4つの柱の一つの癖に生意気な…それすなわち!死罪である!!」

 虚勢。

 ミカエルたちは自分たちの力と完璧な連携を過信しすぎていたために…いや、事実彼らの連携は破られた事がなかったのだ。自国の防衛戦では。彼らの言う通り、彼らの連携に嵌った騎士たちはたちまち大司教こそが神という精神支配の元、大司教国の傀儡兵となった。

 進軍してきたセクバニア軍の中にはガデニアや他の聖騎士団国のナンバー2を担う人材と同等の力を持つ騎士もいたのだろう。

 しかし彼らは見誤っていた。セクバニア騎士団国連合の領土減少が起きていない理由を。

 地の利を生かして防衛戦を成功させていたから?

 ――――違う。

 腕利きの軍師が防衛隊一つに一人在籍しているから?

 ――――それもまた違う。


ミカエルが辿り着こうとした結論を先読みするかのようにタタラが目を伏せて得意げに口を開く。

「優れた軍師や地の利を生かした戦術を上手くやろうとも犠牲者は出る。だから僕は命じた。防衛戦で一時でも不利になれば各地域の分割統治をしている”王”を呼べと…それすなわち?」

 タタラはまるでミカエルを真似るかのように人差し指を彼に向ける。

「たった一人で…侵攻の軍を…退かせたというのか…」

タタラとの会話で一瞬でも気を緩めたミカエルの目の前に暴威が迫る。

「それが我らがタタラ様から仰せつかった役目であり、セクバニアを支える4つの柱の所以だ…クソ正義野郎」

 口調が荒々しくなったアステラーナに睨まれ、ミカエルは顔を強張らせる。

「何と言う事だ…それすなわち…我々を殺せばお前たちセクバニアは我々大司教国の大軍勢の前に敗北を期する事になるだろう!」

「それは…密偵にその事実を流し、団長の首を狙う、という事であっているな。大司教国の」

 物陰から現れたマガツとその対角線上に現れたローゼンが気絶した黒法衣の密偵をそれぞれ捕まえていた。

 ミカエルたちの顔が引きつる。

 これで終わりかと思えた時、この場にいる全員が背後にゾッとするような悍ましい力を感じ取り一斉に振り向いたのだった。


 


















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