第13話:晴れのち曇り。もしくは―――

 ギルバートからタタラのメモ書きを見せられてメローナもクスリと笑う。

「確かにそのまま見たらただの手紙だね」

「わけわかんねぇよ!何が、今日もいい天気だよ!!明後日が曇るなんてタタラ先生分かるのかよ!」

「曇りっていうのはね~必ずしも天気の事じゃないんだよ~?ふふっ、ま、先生からの宿題って事だね。頑張れ、未来の騎士様っ」

 ヒントのようなものを出して一方的に喋るとメローナは影へと潜って消えた。

「わっ!影から消えた…なんだあれ…魔法ってやつか…?!いや今は感心してる場合じゃない、秘密っていうほど重要って事だ…考えろ…何か…」

 食堂の椅子に座りこみ、暫く考え込んでいたところで足音が聞こえた。

ギルバートは足音のほうを向くと歩いてきていたのはオスロットだった。

「何悩んでるんだい? ギルバート」

 即座に紙を折り、ポケットにしまう。

「いや何でもねぇ。カグヤと踊る時の服選びにリリエルを誘ったはいいが…1時間後だっていうから待ってんだよ」

「…それにしてはさっき女の人の声がしたね。シスター以外の」

「聞こえてたのか。なんかタタラ先生の部下なんだってさ」

「部下?タタラ先生は騎士でもなんでもないはずだよね。部下っておかしいよ」

 オスロットの言葉にギルバートも同じ疑念を抱く。

 確かにおかしい。が、自分たちはタタラ先生の事を武術を教える人というイメージでしか認知していない。他の顔を知らないのが実際問題である。

「タタラさんは悪い人じゃありませんし、元王下騎士様なのですよ。今はワケあってその素性を隠して住んでいるんです。だからあなたたちの見てきたタタラ先生が本当の彼なのですよ」

 階段からゆるりと降りてきたのはシスターだった。

 どこかに出かけるのだろうか、とギルバートは思いながら彼女を見る。

「タタラ先生が暫く来られないとの事なので少し買い出しに行ってきますね」

「暫くってどのくらいなんだよシスター!」

 さぁ、分かりません。といつもの柔らかな笑みを浮かべてシスターは丘から降りて市場へと向かっていった。

「タタラ先生が…元王下騎士…かっけぇ…」

「そう聞いちゃうと物知りなのも頷いちゃうね、ギルバート」

 シスターが見えなくなり、オスロットとギルバートは安堵のため息を零すと共に顔を見合わせて頷き合う。

 不意にギルバートは手を引かれ、誰かと思いその手を振り払おうとした瞬間、呆気にとられた。オスロットもギルバートの手を引く者の姿に頬を染める。

「…リリエルがちょっと行けなくなったみたいだから…その…私が代わりに行ったらダメかな…?」

 孤児院内で着ている修道女に見えるような服ではなく、町娘のような服装だった。それに加えて長い髪の一部を括り編み込みハーフアップの髪型になっている。そこらへんにいる町娘とは格が違うとオスロットとギルバートは思った。

「…ギル…?オスロット…?」

「あ、いや何でもないよ!それじゃあ僕は邪魔だと思うから二人で楽しんできてねー!」

「あ、ちょおい!オスロッ…くそ…」

 空気を読んで急いで自分の部屋へと向かうオスロット。去り際にギルバートの肩を軽く叩いていった。

「…行くか」

「…うん」

 輝夜とギルバートの二人は手をつないだまま、互いに顔を逸らした状態で頬を染め、ゆっくりと町へと下って行った。



 ―――町に近づくに連れて祭りの準備で町は最高潮に賑わっている。祭りの資材なども海を渡ってきた行商人によって運び込まれ、大工がそれを加工し、組み立て祭壇を築いていく。町娘たちが協力してその祭壇に飾りつけをしている傍らでパン職人たちが明日に備えて水に溶いた小麦粉をこねている。居酒屋などの食事処は朝から押し寄せる観光客で超満員だ。このアルスレッド収穫祭の前後は他国の民であろうと参加が唯一可能な祭りである。

 輝夜とギルバートは数ある仕立て屋の中でも子ども用の服を専門としている店に入った。

「いらっしゃ~…あらやだ。可愛いカップルねぇ…アルスレッドに半獣狐族の子なんて久しいわぁ」

 入り口のドアが開くとなるようになっている呼び鈴が鳴ると同時に野太い声を出しながら色黒で筋肉質な男性店主―――モンバットが奥から出てきた。

「祭りの中にある踊りに出るんだ、だからその服を仕立ててほしい…けど…あんまりお金がないんだ。だから」

 せめて安価な装飾品でもいい、とギルバートが言おうとしたその時である。

「のん、のん、のん。子どもにお金を払わせるわけないわぁ。それに、貴方たちの先生が既に代金は払ってくれているわよ?タタラちゃんったら粋な事してぇ…ますます狙いたくなっちゃうわね…あの子」

「タタラ先生が!?いつ来たの?!」

 タタラの名前が出た瞬間、ギルバートは前のめりになり口を開く。

「…確か昨日の夕方だったかしらねぇ。珍しくローブを羽織って、旅に出るような恰好だったのは覚えているわ。それと…あの子普段はおっとりしているけど、昨日は凄くピリピリしていたわね。ってそれはそうと代金は気にしなくていいからお茶でも飲みながら待っていて頂戴ね。すぐに貴方たちに良いモノを作って上げるから」

 とモンバットは親指を立てて勇ましく突きだしながらギルバートと輝夜に言う。二人は彼の言葉に甘えて窓際にある椅子に座ると、モンバットはすぐさま紅茶と茶菓子を目の前の丸机の上に出した。そして二人は紅茶をちょっとずつ飲みながら服の仕立て作業に入るモンバットへ期待を寄せるのであった。


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