第54話:破壊魔術たるその力、人に敵う術なし。
戦いは突如――もはや必然的に始まった。
タタラは最大限のプレッシャーを魔力に乗せて威圧として放つ。
その瞬間、竜人の動きが鈍くなったのを機にオーガンが竜人の頭を、アリアベールが腹を、プロメタルが両脚を狙ってそれぞれの武器をそれぞれ違う方向に向けて横向きに振るった。人間相手ならばそれで体が散る。
しかしほんの僅かな力の差、オーガンが金棒を振った方向へ竜人は飛んでいく。その先に待ち受けるのはアステラーナだ。
「
彼女の右腕が黒い球体に包まれ、球体の中はガラスのように割れ始める。
飛んでくる竜人へ、触れたものを無慈悲に破壊する魔術を纏った拳が顔を地面に叩きつける角度でヒットするとアステラーナ周りの地盤諸共ガラスのように砕け散っていく。――――それで終わり。
彼女の魔術は熱の如く拳から竜人へ、竜人から地面へと伝導したという事なのだから。
「あんな小さな体にドエライ魔術が棲み着いたもんだわ・・・だが見事としか言いようがねぇよな、あんなもん」
プロメタルは両肩に戦斧を担ぐとはにかんでアステラーナを横目にアリアベールを見る。
「えぇ。自慢の妹よ――――待って・・・アステラーナ早くそこから逃げて!」
アステラーナにアリアベールの声は届いたがそれも遅い、竜の鱗のついた人間の腕がアステラーナの首を締め上げる。
アステラーナは破壊の魔術のこもった拳がその腕の根元に打ち付けられる度に微弱の衝撃波が走るがその腕は力を弱めるどころかますます強まり、アステラーナの体は宙ぶらりの状態になった。
「アステラーナさん・・・!」
ハインツエムが疾走し、その腕にレイピアの連撃を加える。しかしビクともしない。ハインツエムの後退と同時にマガツが抜刀の構えで差し迫る。
そこにもう片方の腕が掴みにかかるがマガツはそれを紙一重で避け、一刀の間合いに入った。
「・・・牙」
マガツの抜刀術はまるで腕を食いちぎる魔獣の牙の如き鋭さで、アステラーナの首を握り潰さんとする指を切り落とした。
すかさずマルスがアステラーナを救出し、マガツも警戒を怠らず共に後退する。
アステラーナの攻撃によって生じた砂埃がやっとの事晴れ、竜人がゆっくりと体を起こす。
それまで二足歩行型の竜であったはずなのにまるで人間に鱗をつけたような姿となっていた。
「
プロメタルが余裕ぶっている竜人に向かって自分を軸に戦斧を回転させて迫る。それはまるで暴風であった。
人間の暴風も竜人にとってはそよ風。プロメタルの斧はたった指二本で止められてしまった。精一杯に斧を引っ張ろうともビクともしないその力にプロメタルは心臓を鷲掴みにされたような恐怖を覚え、斧から手を離し、腰が抜けその場に尻餅をついた。
「何をしているのですか!プロメタル!」
マルスが声をかけるとオーガンがプロメタルを担ぎ後退しようとするが、オーガンに竜人の腕が迫る。その腕をアリアベールの戦槌が弾き飛ばしたが、もう片方の腕でアリアベールの体がくの字に曲がり、鎧が粉々に砕け散りながら宙へ飛んでいく。
「マルス!」
タタラは眉間に皺を寄せ、マルスへと号令をかける。
マルスは号令に瞬時に反応し、タタラと共に竜人の胸に向かってそれぞれの剣を振り下ろす。しかしその剣は竜人の肌で止まり、マルスへと拳が迫っていた。
タタラはマルスを手持ちの盾で押し出し、マルスの代わりに飛ばされた。
「タタラ様ァ!!・・・くっ・・・!オーガン行くぞ!」
「了解だおな!」
マルスがオーガンの持つ金棒の上に乗ると、金棒を全力で振りマルスはその勢いのまま剣の切っ先を竜人へ向けて飛んでいく。
剣に魔力を纏わせ、更に強度を高めたものが竜人の右肩を抉り、そこから青い血が流れ始める。
オーガンが巨体を揺らし、竜人へと金棒を振り下ろす。辺りに地響きが鳴り、地面を砕く。
「増殖魔術・・・
オーガンに続くようにハインツエムがオーガンが金棒をどけた瞬間、魔術により増やした自分の腕とレイピアで神速にも近しい連続の突きを放つと竜人の体は血まみれになっていく。
「まだくたばっていないでしょうね・・・!アリアベールさん、アステラーナさん!」
「「無論!」」
ハインツエムが素早いレイピア捌きで竜人ごと地面をくり抜き上げると、飛ぶようにやってきたアリアベールの戦槌によってアステラーナのほうへと吹っ飛ばされていく。
その間、飛ばされている竜人と同じ速度で駆けるマルス、タタラ、マガツによって何度も竜人は切りつけられハインツエムから受けた傷が更に広がり裂傷となる。
「「「アステラーナ!」」」
3人の声に応えるようにアステラーナの拳に巨大な球体が広がり――――
「破壊魔術・・・
アステラーナを除いて、全員がその場から下がる。被害の規模を知っているためだ。
アステラーナの右拳が纏っている破壊の力が拳に向かって圧縮されていく。
「
竜人の背骨にアステラーナの渾身の一撃が当たった瞬間、竜人の体が背中側にくの字に曲がり、その場の空間が割れる。
竜人の体は破壊され続けながら空高く突き飛ばされていく。
アステラーナはほぼ全ての魔力を使い果たし、その場に膝をつく。
タタラたちはアステラーナに向けて称賛の声を上げ、勝利を確信したのだった。
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