第53話:建国前
―――時は数年遡る。タタラたちがセクバニア地方へと渡航したばかりの日。
騎士団国同士が争い、領土を奪い合っていた。
「さて、これから僕たちはこの混沌に満ちた土地を纏めなければならないのは何でか分かるかい?」
タタラは連れてきた仲間たち、王下騎士団のメンバーへ問う。
「それは当然、北の竜族に対抗する騎士の育成を目的とした騎士団国連合設立のためです。タタラ様」
片膝をつき、礼儀正しくかつ冷静に模範的回答をするのは白銀の甲冑に白銀の長い髪をたなびかせている、軍神マルス・セクバニアである。
「アルスレッドの南側にはイシュバリア島があるから他の二国はこの土地を迂回して通る他ないとして、空を飛んでもイシュバリアの魔女さんとやらの防壁でアルスレッドは守られているっていうから驚きだおなー」
やる気なく口に出すはタタラ率いる王下騎士団で最高身長の3メートルを誇るトロール族のオーガン。体長2メートルあるグランドウルフという狼の毛皮を自分で加工し、背中全体から頭にかけて被っている。肩に担いでいる金棒はウルツァイトという世界で最も堅い鉱石で出来たもので、金棒の名を
「しかし我らがこの地を治めるまでに敵の侵攻がないとも限らない。ましては道中で聞いて回って仕入れた竜人族の存在も危惧せねばならぬな」
少し遅れて合流してきたマガツは深編笠の中で目を細める。その視線は雲よりも高く聳え立つ巨大な山に向けられていた。
「だがよォ…たかだか竜だろ。何をそんなに危惧する必要あんだ?」
「竜人族だけなら問題ないのよ。問題は竜人族を支配下においている上位種の存在…そうでしょう、マガツ」
鮮やかなマゼンタの巻き髪で一段と目立っている淑女。髪色の明るさとは裏腹に純黒の甲冑で体を包み込んでいる。
彼女の名はアリアベール・ルトアンナ。アステラーナとは姉妹であり、幼くして両親を失い、タタラの元で修行に励んできたため、アステラーナは破壊の魔術を、アリアベールは再生の魔術を得てからというもの、相対する魔術を持つ二人で戦えば敵なしと王下騎士団内でも言われるほど。
アリアベールの言葉にマガツの深編笠が縦に揺れる。
タタラの王下騎士団も全員が全員こちらに来たわけではない。ポリメロス、テテリ、ルミリア、モンバット、そしてタタラたちがアルスレッドから去る直前に突然消えたヴァイゼン・ルヒトを除けばわずか8名。タタラを含め、8名全員の力をフルに活用したとしても建国するにはこの大地は広すぎる。そこでタタラはこの大地を4分割し、それぞれの代表者を取り決め各地方で統治をした後、騎士団国の連合をつくろうという算段となった。各地方を任されたのはハインツエム・ムローヌ、マルス・セクバニア、アリアベール・ルトアンナ、プロメタル・サーロンドの4人。それぞれが一国を統治できるカリスマ性とその領土に匹敵する力を有していたからだ。
特にアルスレッドの直北に位置する地域は戦争による負傷者を運び治療する場として再生魔術を使用出来るアリアベールが担当する事となった。
「それじゃあ話し合いの通りに、それぞれの地方に分かれて統治を頑張ってみて?僕はマルスが治める地方に中央政府の設立のための協力者を募ってみるよ」
土地勘もなければ、民の特性を理解していない7名だけでは国は統治出来ないとタタラは考えている。そのため、地元の人間の協力は不可欠。そこで誠意の塊であるマルスと共に行動する事で捻くれのない人間を探し出す作戦に出たのだ。
「我らはどうすればいい?」
マガツとオーガン、アステラーナはタタラから特に指示は受けていないようでそれを気にしたマガツがタタラに尋ねた。
「マガツはハインツ、オーガンはプロメタル、アステラーナはアリアベールの手伝いをしてくれるかな。いくらなんでも一人じゃ大変だろうからね」
タタラの指示のもと、それぞれの地方へ旅立とうとしていた矢先、遥か北から8名全員が悪寒を感じた。
8名の騎士は屈指の実力を持っている。いくら魔力を抑えているとはいえ、ただの力に臆する事はない。そう、ただの力ならば。
言い換えるなら、死角から急所を殴られたに近い。もはや痛みともいうべき圧力。
「…僕が言うまでもないか」
タタラは失笑をしながら周りを見る。
8人全員が警戒し、武器を構えている。
タタラは魔力の剣と盾
マガツは脇差
ハインツエムはレイピア
プロメタルは戦斧
アリアベールは戦槌
アステラーナは手甲
マルスは両手剣
オーガンは金棒
全員が武器を構えた状態で北を見た瞬間、辺り一面が灼熱の暴風に包まれた。
この地は天候がすぐ変わるような場所ではない。
その天災ともいうべき暴風は8人の目の前に現れた竜人の両翼によって作り出されたもの。ヒトでは引き起こせない圧倒的な肉体の性能差が一瞬で露呈したのだ。
「お前らがヒトか」
竜人から発せられる言葉は酷く抜けていて、知能が低いとタタラたちは思ったのだ。肉体の差はあれど、全員ならば勝ちうる相手だと。
そう誤った判断をした事と、目の前にしている相手が竜人を配下におく龍神たちの王である事を騎士たちはこの時は知らなかったのだ。
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