第40話:北の竜族と魔神族
―――荷馬車がでこぼこ道に揺られ心地良くも聞こえる音を立てる。
時刻は夕方、昼間のうちに準備を済ませアスベニ騎士団国を後にしたタタラたちは明日の昼頃にアステラ聖騎士団国に着くように少し早いペースで向かっていた。
アステラ聖騎士団国はアステラ地方のどの騎士団国よりも標高の高い場所に位置する。タタラによると標高の高いところに城を置く騎士団長はセクバニアよりも遥か北に存在するとされる竜族との闘いも想定しているらしい。
そんな難しい話をしているためか、アスベニ騎士団国での接客業の疲れからかミレハは荷台の藁の上で気持ちよさそうに眠ってしまった。
「…話は戻るけどローゼン。アルスレッド王国の被害って」
「被害が出たという情報も私が申し訳ないと思ったかのように一晩で町が元通りになったのも全て私の幻術だとも。ま、ユクトワールという騎士に関しては本当に狂化をかけたのは変わらぬがな」
タタラは手綱を持って正面を向いたままローゼンへと苦笑いする。苦笑いしながらアルスレッドに思い入れのあったローゼンを意外とも思った。
「あとさ、僕はセクバニアを建ててから北の竜族と戦いはおろか干渉もしていないけれど、強いの?種族名的に獰猛そうだけど」
「たわけ。竜族は魔法騎士と同等の力を持つともされている。肉体的性能は竜族は遥かに優れている。人間賊10人分くらいはあろうな。その代わり力を過信しすぎて魔術の扱いは少し大雑把な者が多く見える。しかし厄介なのは竜族ではなく、彼らを統べる王族、龍神族だ。やつらの魔法は魔神族に匹敵する。龍神族の王たる龍神王は魔神族が総出でかかっても敵わない。魔神族側はだからこの現世へ攻め入れない。召喚に人間の力がいるようにしたのもまた魔神族たちというわけだ。竜族が自分たちの領域に侵攻しないようにとな」
ローゼンの解説にタタラは一度頭を整理する。
「でもその龍神王はなんで人間の領土を侵攻しないんだい?」
「お前は小さな虫をわざわざ踏みつけるか?」
タタラの問いかけにローゼンは秒で返事をする。その例え方にタタラは鼻で笑うと同時に納得もした。
「強すぎるが故に、下等生物を相手にしないって事…こりゃまた…警戒しているのは僕たちヒトだけってことか」
「いや、警戒していて損はない。何故なら竜神王は基本放任主義だからな。手下の竜神族、竜族の中には蛮族も紛れていないはずがない。だからこそセクバニア騎士団国連合は竜族との戦いにおいて最初で最後の砦ではないかと思っている。これからを考えるならばお前に匹敵する騎士をぞろぞろと揃えなければセクバニアを含む人間界の国全てに甚大な被害が及ぶ事は間違いない」
西からゆったりと暗雲が立ち込めてくる。雨が降りそうな雰囲気を漂わせているその雲を見たタタラは馬車を止めて荷台に雨が入らないようにシートを展張し、荷台にテントを作るように固定した。
「…僕に匹敵するかぁ。それは”どの時点の僕”なんだい?」
「…決まっているだろう。全力のお前だ」
「アルスレッドの時も土下座と一緒に言ったけど、制御出来ない力は力と呼べないよ。君とこうやって再会するまでに密かに修業はしてたけどやっぱり掴めないんだ。もはや制御しないほうが安全という気もしてきた」
タタラはその場で拳を握ると自分の才能の無さにイラつくように歯を食いしばる。
「…制御しないほうが安全なら、制御しないでいいんじゃないか?」
「え?それって―――」
タタラがローゼンに詳しく聞こうとするとローゼンは既に目の前にいて人差し指でタタラの口を押さえた。自分で考えろという無言の圧がタタラへとかかる。
「手厳しいね」
「当然だ。かっこよくいてくれないと私の旦那失格だ」
ったく、とタタラは笑みを零しながら馬車に乗ると同時にローゼンも馬車に乗り、再び走り出す。
「てかローゼンはどうなのさ。龍神王どころか、龍神王にすら勝てそうな気がするって思うけど」
「私には無理に決まっているだろう…。ヒトである私が龍に勝てると思うか、こんなにか弱いのに」
ローゼンを知る人がここにいるならば全員がタタラと同じ考えに至るだろう。
―――か弱いという文字を今一度調べなおしてほしいと。
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