第34話:虚偽の影
目の前の炎熱の輝きは太陽のそれにも近しい。
だが感動にひたっている心とは裏腹に、赤の騎士は友に牙を剥いた。
地を這う火炎がタタラへ迫る。
火炎は火炎によって相殺され、牙を剥いてきた友は行動を以てタタラは疑問視する。
「ダンタリウスもカステリーゼも下がれ。私がやる」
アスベニウスの命令に慌てて下がる二人の騎士、これから起こる事を予想し、民衆に被害が及ばないように避難を促すが、じゃじゃ馬と化した民衆は騎士たちの誘導に従わず、危険と隣り合わせの会場で大いに盛り上がっている。
アスベニウスの言葉に【氷結】メリオロス・ジェリオスは彼の肩を掴み、王に逆らってはなりません、と目で訴える。
「身分を隠されているはずの王が自分から名乗りを上げるなどありえない。つまり偽物の可能性、王を語り国家転覆を狙う反逆者かもしれない。我が友の顔に泥を塗るような人間を私は断じて許さない」
アスベニウス本人の頭の中では目の前の人間がタタラだという確信があった。
けれど、ここで王だと認めてしまえばこの騎士団国から情報が漏れ、友の身に何か起きるかもしれない。それを危惧し、あえて勝負を続ける行動をとったのだ。
「やだなぁベニー・・・僕は僕さ」
「黙れ蛮族。本当に我が友であるならば・・・それを証明して見せろ!」
その瞬間、二つの焔がぶつかり合い、会場全体を肌が焼けるような高温に包み込む。
メリオロスは観客が火傷をしないように避難誘導をしながら氷の壁を張り、あくまで二人が戦いやすい環境作りに徹している。
「「爆炎弾!」」
タタラとアスベニウスが互いに強く足踏みした箇所から地面が熱を帯び、場の火力が更に上がるとそれぞれの右手から放たれた火の球同士がぶつかり衝撃波が氷の壁を砕く。
離れた場所に移動した観客に砕かれた氷が衝突しないよう、メリオロスは氷の礫たち空気中の水分を使って氷の杭を作り出し、砕け散った礫全てを地面へと突き刺し民衆の被害を未然に防いだ。
「ポリメロスさん・・・お父様の魔術ってどんなのー?」
観客の中にいるミレハがポリメロスにタタラの強さについて聞く。
「儂でも心底”アレ”には驚かされる。通常、一人が持てる魔術のジャンルってのは一つ、相手のアスベニウスでいえば【炎】じゃな。二つ以上を持とうとした愚か者もおるが、そいつらは元々持つ魔術と新たに取り入れようとした魔術が体の中で喧嘩を押っ始めて・・・一生魔術を使えない体になっちまったのさ」
「でもお父様はさっき跳ね返す魔術も使ってて・・・今は炎だよ・・・?」
ポリメロスはミレハを抱きかかえて、会場近くの建物の屋根へと登る。
それにテテリもついてきて3人でタタラの戦いを見守る。
「よーく見ておるんじゃ・・・。これからがヤツの凄いとこじゃぜ」
ミレハはポリメロスの言葉に目を光らせ、二人の戦いを凝視し始める。
「炎熱爆裂球!」
「・・・危ない・・・!」
空中へ飛び上がったアスベニウスは両手で作り出した半径5メートルはあろうかと言う巨大な爆炎の球をタタラへと放つ。
メリオロスは慌てて、観客を守るべく氷壁を張ろうとしたその時。
「無用だよ。メリオロスくん」
タタラははにかむと爆炎球に対して逆手を前に翳し、爆炎球に手が触れる瞬間、爆炎球が影で包まれる。
「影包み」
影の中で球は爆発し、影が取れると煙が上がる。
「
空中から降りてくる途中、アスベニウスは槍状に変化させた全長2メートルの炎を投擲する。
タタラは既に手に魔力でグラディウスを作り出していた。
それだけではない、タタラの全身は雷の鎧を纏っている。
「あれは・・・!」
気を失っている【雷光】ベリメロス以外のアスベニ騎士団員と観客が息を呑む。
「
タタラが雷を纏ったグラディウスを振るうと同時に、空中にいるアスベニウスはすぐさま炎熱の鎧を纏い、体を丸めて防御態勢を整える。
部下の
しかし目の前で振るわれた剣から放たれるものはまるで威力が違う。
タタラの実力もあるが、彼の力だけではない。
アスベニウスが投擲した炎を雷が纏い・・・否、雷が反射属性を持ち、炎を弾き返し、まるで雷炎の如く襲いかかる。
「
雷炎撃の直撃によってアスベニウスは防御態勢のまま地面へ墜落した。
地面へと墜落しても炎と雷による追い打ちは終わらない。
アスベニウスの纏った炎の鎧では炎は防げども雷は防げない。
鎧の中で苦悶の表情で激痛に耐えられているのは自尊心のためか、それとも。
「・・・お父様・・・凄い・・・でも・・・騎士団長さん苦しんでる・・・」
ミレハはタタラの強さを実感して目を開かせるもすぐに苦悶の表情を浮かべ、地に落ちたアスベニウスへ心配の目を向ける。
「加減はしておるじゃろ。そして・・・あれこそがタタラの・・・この世の全ての魔術で起こりうる事象を一度見ただけで体現出来る夢のような魔術・・・名を『
アスベニウスの体に未だに電撃が走っているが、彼はゆったりと立ち上がり、剣を鞘から抜き放ち構える。
「・・・全く・・・何年ぶりかだと言うのに・・・その反則っぷりは健在か・・・くそったれ」
「お。いいね。やっと化けの皮が剥がれた。その口の悪さこそ、友達のベニーだね」
アスベニウスは先ほどまでの澄まし顔とは打って変わり、口端を釣り合げ、八重歯まで見せるほどに笑みを浮かべる。
十年来に見た友の魔術。その才能には心底驚かされると共に、力に頼り切らない彼自身の卓越した技術も身にしみて実感する。
―――だからこそ超えたい。
「今のお前を超えるために―――俺は今まで鍛えてきた・・・!
アスベニウスの全身が炎に包まれるとタタラに受けた傷が修復していく。
限界融解によって体の全器官が活性化、治癒能力はもちろんの事、身体能力や体に蓄積出来る魔力許容量を大幅に増強したのだ。
「やるね。ベニー・・・。地方を纏める騎士団長くんたちに並んだんじゃない?」
「その割に汗一つかいてねぇじゃねぇか、法螺吹きが!」
やだなーと苦笑するタタラは炎の化身とも言えるアスベニウスの力に何も構えをとっていない。
「ぜってー次は見返してやる・・・くそがッ!
アスベニウスの体から吹き出る炎が剣の先へ集まれば、太陽をそのまま小さくしたような超高熱の球体を作り出す。
「
「凄い力だ。さすがはベニーだよ・・・君は将来、今の地方をまとめる騎士団長を超える。王である僕が保証するよ。だからそれまでは・・・僕は君の見本にならなきゃね」
今の会場を中心に白い光柱が他4カ所に上がる。
「くそが・・・。この場を選んだのも全部・・・!」
「うん。僕の術中にハメるためさ。僕はずる賢いからね」
4点の光が地面を伝い、中心に光を収束させる。
「勝負あったなこりゃ」
ポリメロスとテテリか、どこか安堵したかのような笑みを浮かべる。
「え、なんで?この光は?」
「これがタタラの最強の魔術・・・魔法騎士に対しては反則の中の反則技じゃよ」
その光は魔だけを滅し、決して傷つけない。
タタラ・ディエネ・ロアクリフの代名詞。
「ちっ。絶対追いついてやる・・・クソタタラ」
アスベニウスは舌打ちをしながらも作り出した太陽を振るおうとはしなかった。
「ああ、待ってるよ。ブラザー。
―――此処に、
暖かな光が会場全体を包み込み、ポリメロスやアスベニウスたちは懐かしさにくしゃりを笑みを浮かべ、ミレハはその神々しい魔術に感涙し始める。
民衆はただ呆然とその光景を見ていた。
そしてこの会場にいるうち、唯一、その光を受けた途端、地面に倒れもがき苦しむ者がいたのだ。
―――そして目覚める。
―――そして民衆は目にするのだ。
―――全ての元凶たる異形を
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