第32話:聖魔VS雷光

 山風が吹き降りてくる平野。

 惑わしのダズルによる変装でただの旅人に見えるタタラはアスベニ騎士団団長を含む直轄部隊5名と対峙している。

「さぁ、誰からやる?それとも全員まとめてかかってくるかい?」

「フッ…我らも随分と舐められたものだ。まずは挨拶をさせてもらいましょうか」

 中央に立つ赤い騎士が軽くお辞儀をする。赤い騎士に続くように青、黄色、黒、緑のプレートアーマーに身を包んだ騎士達が一斉に頭を下げる。

「アスベニ騎士団団長、【炎熱】アスベニウス・クロロマリウスと言う」

「アスベニ騎士団 団長直属部隊 【氷結】メリオロス・ジェリオスです」

「同じく 【雷光】ベリメロス・ホーテッド!」

「同じく【漆黒】ダンタリウス・マローズと言います」

「同じくッ!【新緑】カステリーゼ・トネルコフであります!」

 5人が続けて挨拶をするとタタラはその迫力に思わず拍手し、アスベニ騎士団を支持している国民は大歓声をあげる。その民の誰もが金銀の装飾品を身につけている富裕層だ。

 恐らくは自分たちに投資をしてくれる富裕層には恩を返し、そうでない民や旅人、冒険者に対しては冷めた扱いをしているのだろう、とタタラは推測する。

「僕は…そうだなぁ…タタネンタ・リネーフ。しがない行商人さ」

「…行商人であの動き、なるほど。貴様何かを隠しているな?我らアスベニ騎士団に隠し事は罪である。ならばこれは決闘ではなく制裁としよう!だが、袋だたきにしては騎士の名が泣く。なればアスベニ騎士団で最も勇敢なベリメロスに先陣を切ってもらう」

 アスベニウスの横にいる【雷光】ベリメロス・ホーテッドがアスベニウスの前に片膝をついて座る。

「僭越ながら申し上げますが…私が最初でよろしいのでしょうか!一瞬で片がついてしまいますが!」

 鎧に響く大声は表すなら勇猛果敢そのもの。

 アスベニウスは鞘に収めたまま、ベリメロスの両肩を二回ずつ叩く。

「良い。たかが行商人程度、我らが出るほどではないが…一般騎士20名がやられているのだ。…貴殿が一瞬で片をつけよ」

「畏まりました!では一瞬で片をつけさせていただきます!!」

ベリメロスが立ち上がりながらタタラのほうを向く。

 その一瞬で決闘場の空気が張り詰める。

 誰もが口を固く閉ざし、決闘開始の合図を待つ。

「確かにそうだね。君なら一瞬で片がついてしまうよ。

 タタラはこの空気の中でも平気でヘラヘラをしている。

 名前を言い間違えたのではない。

 これはベリメロスに対する挑発そのものだ。

 ベリメロスは安い挑発に乗り、開始の合図を待たずしてタタラへと飛び込む。

その速さは雷そのものだ。

 背後をとり、雷を帯電させた幅広なグラディウスをタタラへ叩きつけると柱となってタタラを飲み込んでいく。

「これぞ我が力…雷光サンダーボルトだ!どうだ!一溜まりも…!?」

雷が消えると同時に焼け焦げた平野の中に、未だ草花が健在の大地があった。

「ああ。一溜まりもないよ。草花も、虫たちにも。君の剣は力を行使するためだけにあるのかい」

 大地の上に立つ影から聞こえるのはタタラの声。

 そして煙が晴れてくると何故か、タタラは正面を向いて剣を左腕に魔力を編み込んで生成した盾で軽々しく受け止めている。

「うそだろ…おい…」

国民たちがざわめき始める。

「これは驚きました。雷光の剣はベリメロスの最強の技。あれを受け止めるなんて…ただの行商人ではなさそうですよ。団長」

「ああ。やつの力…いえ、彼に挑戦した騎士たちの力を過小評価していたようだ。騎士たちが弱かったのではなく、彼が強かった。まさしく彼は騎士団の精鋭…いや、騎士団国の団長に及ぶ力を持っている」

 団長アスベニウスは一度見た人間の動きを瞬時に記憶する事が出来る。

 剣の太刀筋、動きの癖などを覚える事で一度受けた技は彼には通じない。

 つまりタタラから挑んだ決闘はもはや出来レース。時間をかければかけるほど、アスベニウスに自分の癖を看破され、敗北の確率が上がる。

 しかし、アスベニウスはどこか違和感を感じ始めていた。

「あの癖…どこかで…いや…まさか。こんな国にあの方が来るはずもないな」

「どうしたのですか。アスベニウス様」

 アスベニウスに【漆黒】のダンタリウスが問いかける。

「いや…私の憧れのお方に近い動きをしているから少し驚いただけだ」

 ベリメロスは一旦距離をとるとタタラを警戒してか自分から動く気配がない。

「自分の奥義アルティメットウェポンを簡単に止められたら、そりゃ警戒もするよね~」

「何故、雷光の剣が私の奥義アルティメットウェポンだと知っているのだ!それを知っているのは騎士団の幹部と団長そして―――っ」

 ベリメロスはハッと息を呑む。

「そして…王。って言おうとしたかい?」

 タタラがニヤリと笑い、観客の中で見ていたポリメロスとテテリはやれやれと言わんばかりに苦笑していた。

「そんな…ロアクリフ王…」

 惑わしの幻は術者が術を解くか、自分から名前をバラさない限り元の姿には戻らない。

 加えてベリメロスの驚きはアスベニウスには聞こえておらず、民衆にざわつきと笑いが起きるだけだった。

 タタラはそれを逆手にとり、自分の名前を言わずに相手に悟らせた。

「まさか。僕はただの行商人、タタネンタだよ。だから全力でかかってこい。ベリメロス・ホーテッドくん」

「…くっ…雷魔術ライトニングマジック雷電アーレス雷魔術ライトニングマジック奥義アルティメットウェポン

 蒼い雷に身を包ませ、自身の速さを最大限に上げ、剣には先ほどの比ではない雷の魔力が集結している。

「―――雷光サンダーボルトォオオオオオオ!」

 電光石火の雷光の剣がタタラへ迫る。頭蓋に剣が直撃する直前にベリメロスははにかむタタラを見て、剣の勢いを殺すどころか力を増して振り下ろす。

 その場の人間全ては蒼天にまで昇る雷に釘付けになっていた―――。









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