第68話:砕く力

「モンバット…お前さんその腕…」

 ポリメロスは唖然とした顔をし、モンバットを見つめる。

「いいのよ。仕留めきれていないかもしれないけれど、確実なダメージになるのなら腕の一本くらいくれてやるわ。それに…セクバニア建国に携わった皆は正直情が入っちゃうでしょ?だから関係のない私たちがやるほうがきっと団長たちも本当の意味で吹っ切れるわ」

 タタラはどれだけ敵と見なしても長い間セクバニアを支えてきたソロモンを憎き仇のようにはきっと見れない。モンバットはそれを見越してユグレ・ウロオの強化術を最大限に活かし、右腕を犠牲にするほどの全力をソロモンへとぶつけた。

「くは…くはははははッ!これがローゼン・アルブレヒトの力か。しかし人の身である魔女の力が届きうるのはあくまで魔術の域だということが今ここに証明された!」

 不揃いながらも魔神たちと融合したソロモンが使えるのはローゼンが使った闇魔術の完全上位互換…闇魔法。闇魔術が小さな島国程度に影響を及ぼすとすれば闇魔法はセクバニア全土をも飲み込む強大な力だ。

 ソロモンに残っていた劣等感がローゼンの術によって強化されたモンバットたちの攻撃を耐え切った事で消え失せ、同時に自信が湧き起こってきた。

「イシュバリアの魔女として恐れていた存在通りならば闇魔法の一つや二つと思っていた。だが私は貴様を過剰に評価していた。であれば…私の闇に呑まれて死ぬがいい。お前が消えればそこにいる騎士団なぞ…取りに足らぬ下等生物に過ぎん」

 モンバットに叩きつけられた穴からゆっくりとローゼンと同じ高さまで浮き上がる魔神王ソロモン。手のひらをローゼンに向けて特大の火球を打ち出す。

「お前が避けても実の娘を追い回す!私の力にひれ伏せ!ローゼン・アルブレヒト!」

 ローゼンも同じように手のひらを広げ、相殺しようとしたその時。

「防壁魔術 包容壁ライトヴェール!」「万象魔術 魔力屈折マジックリフレクト!」

 ローゼンの前にテテリとタタラが術を発動し、反射属性を持った防壁で防いでいる。ただそれだけでは闇魔法の火球は止まらない。

「破壊魔術 破砕デストラクト!」

 火球は止まらないが確かに威力は弱まった。そこへ超強化されたアステラーナの破壊魔術が激突し、火球はなんとか消滅した。

「全く余計な真似を…私一人で―――」

「放っておけるわけないじゃないか。今は君だけの命じゃないんだ」

「そうよローゼンちゃん。強いだけじゃダメ。ミレハちゃんが怖がっているのを優しく包んであげるのもあなたしか出来ない事よ」

「私も認めていない。認めるものですか。でも…タタラ様が認めてるのだから…私の英雄が認めているのだから私はあなたを守る義務があります。ですから…とミレハ王女を守る事だけを考えて黙って守られていてください」

 ローゼンが鼻を鳴らして皮肉を言いそうになったところで夫のタタラ、テテリ、かかわりの薄いアステラーナにまで説き伏せられてしまった。ローゼンはすんなり口を閉じ、より強固な防壁を自分とミレハの周りに張るとタタラたちの後ろ姿を見守る事にした。

「有象無象が。魔術の上位互換の魔法を相殺出来たとしても…それがいつまで続くか…。神たるこの私にあなた方の攻撃が到底届くわけがないのです」

加速魔術ブーストマジック 奥義アルティメットウェポン嵐舞奉天らんぶほうてん!」

 3人とローゼンに目がいっている間に近づいたプロメタルが上下左右斜めと不規則に高速回転しながら斧を振るう。

「ふん。噛ませ犬風情が…」

 斧を止められる事は想定内。プロメタルは奥義すらも利用し、斧も捨てソロモンの両腕を掴み、回転を続ける。

「嵐舞ッ!奉天砲!オーガン!ぶっ飛ばせー!!」

 奥義を利用した回転投げ、その投げる速度はユグレウロオを施されている今は音速を超える。投げた瞬間、プロメタルの肩から鈍い音がするが騎士団の誰も見向きはしない。全ては目の前の敵を倒すため。

「無駄にはしないだおなーーーー!」

 オーガンの全力の拳がプロメタルによって吹き飛ばされたソロモンの鳩尾を捉える。ソロモンの体は身動きが取れないままくの字に曲がり天へと昇っていく。オーガンの拳もそこで砕けた。

「神にも届く力ならここにあるぞい。老人じゃと思うて油断しておっただろ…」

 オーガンが吹き飛ばした先に大きく足を振りかぶっているのはポリメロス。彼の脚技に加えてその身に余る力が彼にはある。

 振りかぶる脚にソロモンは一瞬の恐怖を感じ、体中を硬質化する魔法を施し、完全に防御の態勢を取る。

 魔神王を穿つは彼の異名の所以―――

「――崩蹴ほうしゅう神破かみやぶり」

 脚が鳩尾へとクリーンヒットし、胸の目玉からガラスのように砕けていく。アステラーナの奥義アルティメットウェポンより遥かに強力なを纏った蹴り技。

 神を騙る魔術師は体が砕け散るよりも先に遥か地表へと轟音と共に沈んでいったのだった。

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