白い謎ー第3話
「小学校の近くに大きなお屋敷があったの、覚えてる?」
「あー、あの豪邸? 白壁で囲われた立派なお屋敷だよね」
と思うが、あまりよく覚えていなかった。
「そのお家、私の同級生のお家なのだけど……どうしても入れない部屋があるらしいの」
「入れない部屋?」
凜子さんはあまり足を組まないし、腕を組む事も無い。
昔から頬に手を当てる癖があるのは知っているが、これは照れを隠そうとしている心理で、
「部屋と言うよりは納屋の様な感じらしいのだけど、戸建てになっていて、扉には鍵の様な物は見当たらないのに、押しても引いても開かないし、窓も無いから入れないらしいの」
「その部屋に入った事のある人に聞けば良いんじゃ……?」
俺の質問に凜子さんは首を横に振った。
「お亡くなりになった方の秘密の部屋だったらしくて、家族の誰もその部屋に入る入り方を知らないのだそうよ」
「秘密の部屋……」
また面倒臭そうな匂いがするフレーズだ。
あからさまに眉根を寄せた俺に気付いた廉太郎が、ニヤリと笑ってこっちを見た。
「面白そうだね? トロ」
「煩い。全然だ。……何故、兄貴はこれを俺に話せと?」
「えっと……その類は
どの類だ、兄貴よ。俺は便利屋家業を始めた覚えはないんだが。
秘密の部屋と言う位だから、何か収集したモノもしくは金目のモノを隠していると考える方が妥当だろうが……他人のソレを明かしても良いもんなんだろうか、なんて一瞬考えて、兄貴経由の凜子さんの頼みを断る方が骨が折れると言う結論に至る。
「現場を見なきゃ分かり兼ねますね……」
「じゃあ、皆の都合の良い日にお宅に伺えるように聞いてみるわ」
「私も行くっ!」
蘭子が俺の腕にしがみ付いて来る。
「じゃあ、次の土曜日とかどうでしょう?」
蘭子にしがみ付かれた俺は、仰け反る様に沢木の方へと追いやられるながらそう打診した。
「土曜日はダメっ! 部活の練習試合があるもん!」
知ってるよ。
あそこのカレンダーに書いてあるからな。だから土曜日なんだ――――。
なんて口に出して言おうものなら、猛攻を受ける事必至だ。
「だが、週末じゃないとみんなの都合が合わん。それに、この件にお前は関係ないだろう?」
ずっと黙っている沢木が、より端の方へとズレる。
膝に置かれた手がまた親指を握り込んで、さも居心地悪そうな顔だ。
面白がって見ている廉太郎と、呆れ果てた顔で俺を眺めている樹里は、俺が沢木に対して何か言うのを心待ちにしている事だろうが、俺にそんな気の利いたスキルは付いてない。
「だって……」
廉太郎と同じ細胞で出来ている蘭子は、あからさまに落ち込んで見せる。
「分かった。じゃあ、俺一人で行く。それで良いだろ? 別に全員で行く必要はないし、お前が行けなくても、誰も行かないなら、それでフェアだ」
「ちょ、待って! トロ。それはダメだよ。僕だってその部屋見てみたい!」
「知るか。お前の妹君がご不満なんだから、お前も協力しろ」
「
「いやっ!」
「蘭子ちゃん、我儘言わないで」
妹には微妙に弱い廉太郎だが、ここのヒエラルキーを俺は熟知している。
「蘭子ちゃん」
凜子さんの一言に、蘭子の肩がビクッと跳ねる。
有無を言わさない凄味を眩しい笑顔で放って来る凜子様が、ここでは一番強い。
間違いなく兄貴は尻に敷かれているだろう。
この人が義理の姉になる可能性があると思うと、それはそれで微妙なのだが。
「……ごめんなさい。お姉ちゃん」
「それじゃ今週の土曜に、訪ねても良いか聞いておくわね」
一言で事態を収拾する。凜子様最強である。
相変わらず沢木は一言も喋らないまま、廉太郎の家を後にした。
俺は近所だが樹里と沢木は駅まで戻るので、面倒だが一応駅まで送る羽目になる。
「入れない部屋かぁ……」
樹里が悶々と考える様な仕草で独り言の様に零した。
もう薄暗くなった駅までの道を、後ろから形ばかりの護衛役の俺は一歩遅れて歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます