白い謎ー第1話
期末も終わって後は夏休みを待つだけの七月後半。
茹だる様な暑さに窓の外を見て、外に出る覚悟が決まるまで机に伏して外を見る。
入道雲の眩しさが、憎たらしい。絶対溶ける……。
あの「制裁」の効果で、俺と
当事者達の与り知らぬ所で、俺と沢木の恋愛遍歴は確実に紡がれていた。
「上条が沢木にプロポーズしたらしい」等と言う連載ドラマのシナリオの様な話だ。
二ヶ月前に付き合った(事になった)ばかりだと言うのに。
特別な事などしてはいないが、火曜日に音楽室にいる沢木の帰りが遅くなるので送って帰る様に樹里に命じられ、別に用事も無いので安請け合いしたのが事の始まりだ。
樹里は火曜日、生徒会室へ顔を出さねばならないし、樹里と言う彼女がいる
まぁ、家に帰ってもする事無いし、待ってるのは教授だけ。
火曜日、音楽室でピアノの練習をする沢木に付き合い、そのまま駅まで送って帰る。
安請け合いした火曜日の放課後の護衛役は、本当に並んで歩いて駅まで帰る、と言うだけの事なのにとある災難により噂に拍車を掛けた。
先週の火曜日、いつもの様に駅までの道を他愛ない会話をしながら歩いていると、沢木が見慣れた黄色いリュックを見付ける。
「あれって……
駅近くのスーパーの駐車場の陰から見えたその後ろ姿は、紛れもなく廉太郎だった。
少し距離があったけれど、トレードマークの黄色いリュックの膨らみ具合と言い、跳ねた短い茶髪と言い、廉太郎にしか見えない。
「何やってんだ、あいつ……」
いつもだったら一緒に帰る所だが、俺が沢木の護衛役を引き受けてから火曜日だけは別行動になっている。
樹里は生徒会があるし、あいつは一人でとうの昔に家に帰りついていると思っていたのに、そこには理解し難い光景があった。
「あの制服……芹沢女学園の制服だよね……?」
廉太郎に向き合う様にして立っている女は、二駅向こうの女子高の制服を着ていた。
「……何、してんだ?」
廉太郎に限って、樹里を裏切ってやましい事をするとは考えにくいが、どう見ても廉太郎の方が彼女に向かって何かを頼み込んでいる様に見えた。
大通りを挟んだ向かい側にいる俺達にも分かるくらい、必死に。
「何か、手紙? みたいなの渡してる?」
目を凝らす様にジッとその様を見ている沢木は、独り言のようにそう呟いた。
言われてみれば、廉太郎の手元には手紙らしきものが握られている。
「人違い、だろ……」
我ながら苦しい言い訳だ。どう見ても廉太郎じゃないか。
でも、視覚情報だけだと樹里が傷つき、同様に感受性の強い沢木も傷つく様な現場に違いなかった。
「あ……やべっ」
踵を返した廉太郎がこっちに向かって歩いて来る。
俺は慌てて沢木を掴んで路地へと隠れたが、勢い余って肩を抱いた様になってしまった所を、何処から見ていたのか、同じクラスの宣伝部長とあだ名される相沢に見られてしまったのだ。
翌日水曜日には、路上で抱き合っていた、と言う噂が広まっていて、それをいけしゃあしゃあと冷やかして来たのは、その噂の原因とも言える廉太郎だった。
相沢率いる宣伝部は、聞こえない様に喋っているつもりなのか、ワザと聞こえよがしに言っているのか、いつも姦しい。
「ちょっと!
「うっそ! なーんか、覇気のない暗い感じなのに、言う時は言うのね!」
「でもさー、上条君みたいな慣れてなさそうなタイプって騙されてそうじゃない?」
「あー、ありえるぅ!」
……。机に伏して寝たふりを決め込んでいたが、えらい言われ様だ。
「俺は何と言ってプロポーズしたんだか……」
このペースだと夏休み明けたら結婚してるな。有りえねぇけど。
窓の外に溜息を吐き出して、その独り言を流した。
沢木には樹里から「この噂を否定しない様に」ときつく命が下っているらしく、それは川端の一件への防御として俺を利用する為の苦肉の策で、樹里からすれば、「本来ならあんたみたいな陰気な男にエニィは相応しくない」と言うのが本音らしい。
俺は一度だってそうしてくれと頼んだ覚えはないのだが。
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