楽園7 アゲハの楽園
何かの小さな物音が耳元でした。
「うん?」
博樹は、小さく動く黒い何かに気付き、それを追いかける。
「なんだろう?」
皆を起こさないようにそっと足音をたてないように歩き、月明かりの下まで探してみた。
潮の匂いがする夜風、椰子の葉が揺れる。
黒い正体は、「アゲハ蝶だ」
昔流行った歌のように、不思議な気持ちにさせてくれる。
博樹は歌…を口ずさむ。
すると、甘い匂いを感じた。
「南国の熱帯夜に、その歌はよく合うわね」
「麗子さん」
栗色の長い髪をフワーとなびかせながら麗子が暗闇から月明かりに照らされながら現れた。
博樹は一瞬だけ彼女に心を奪われた。まるで、夜の女神が光の世界より舞い降りたのかと思ったからだ。
「私もその歌が好きでよく歌うのよ」
「そうなんすか、いや、俺もこの歌大好きなんすよ」
「ふふ、気が合うわね」
笑みを交わす博樹と麗子。
その後、満天の星空を眺めながらしばし心を奪われた。二人とも都内の大都会の摩天楼の中で生活しているので、人工の灯りではない自然の明かりは巨大な魅力を感じる。
アゲハ蝶がもう一羽現れ、二人の前で眼前に広がる大海原の波のように踊りだした。
どこかの部屋、舞台上で漆黒の衣装を身に纏った男女のダンサーが情熱な音楽に併せて激しく踊る。ダンスが終わり、互いの顔を隠している黒い仮面を取る。
その瞬間、宵闇は消え失せて月明の世界となった。
「貴方、踊れるのね」
背が高く、色の白い肌をし華奢な人形のような腕をした年上の彼女は、博樹からして、アゲハ蝶がこの夜に現せてくれた女神のようだった。
「南国の夜はこれからだよ」
「楽園と言ったほうが正しいかも、では、私をリードしてね。王子様」
「はい」
二人の身体中に流れる熱い血が、思いが夜風に乗り砂浜の上で、夜の終わりが来るまで踊り続けた。
このアゲハの楽園で…。
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