楽園65   最終勝利

“ヒュルル、ドッカン”

“バン、バン”

轟音が辺りに響き、硝煙の臭いが充満、する。

キングタイガーの咆哮が楽園に響き渡る。まるで七十年以上前の欧州やアフリカでの戦線のようだ。車内は物凄い熱気がする。機械の機動力もそうだが機械油と砲弾の火薬と硝煙は物凄い。

しかも、その音は乗り込んでいる六人の鼓膜を破りそうなくらいの轟音だ。

「このタイガーもそうだが、ドイツ軍の戦車兵たちは釣鐘の中にいるような感じだったと手記に残しているよ」

拓斗が皮肉を言うと、麗子が、

「大晦日の除夜の鐘だと思いましょう。浅草寺がいいかしら?法隆寺か唐招提寺がいい、清水寺、金閣寺、天龍寺、龍安寺、それとも大阪の天王寺がいいかしら?」

麗子がポジティブな事を言うと、

「麗子の晴れ着姿が見えるぜ」

博樹が妻に微笑む。

「はるみさん、綺麗だよ。終わったら、茶店で温かい抹茶と甘酒とお団子にしよう」

拓斗は緑色の着物を着て日本結のはるみに言うが、彼女が天女の様に舞うと

美しいドレスのセレブ美女に早変わりして、拓斗に

「いいわよ。でも、一年か二年したら拓斗たちの今の“18歳”が成人でしょう。夜景の見えるレストランかクルーズ船のディナーに私を連れて行ってね。テーブルには赤ワインがあって欲しいわ。そお、オーストラリアの名産「カベルネソーヴィニョン」を一緒に味わいたいわ」

「こりゃ、初給料を半分以上貯金しないとな…」

「Barやキャバクラだとか、ゲーセンやスロットには行かせないわよ」

肝玉姉様には勝てないなと拓斗はトリガーを弾きながら微笑んだ。

「翔くんのお家のおせち料理や年越しそばの自慢はある?」

「お袋の特製のつゆを使ったそばが美味しいよ」

「私のママは、おせちに伊達巻きとかずのこをいっぱい入れてくれるの…パパはねお餅にね名古屋の小倉トーストの小倉をかけて、きなこをたっぷりまぶしたデザートを食べさせてくれるの」

「カトレアさんの親父さんの美味しいそうだな。このキングタイガーも中学時代の機械工作部先輩が名古屋で車工場で働いているから、快適な環境に整備してもらえないかな…」

全員でそんな事を口にしながら、照準を合わせる拓斗とはるみ、全員で弾を装填し、必死に応戦した。

だが、そんな砲弾の嵐を払い除けてサーベルタイガーにマンモス、ギガノトサウルス、ティラノサウルスは恐れず突進してくる。

無理もない。

彼らの居場所であり、帰るべき場所はこの地上で、この王国だけなのだ。

やがて、空が雲に覆われ、雷鳴が辺りに轟いた。

〜グ〜ゴロゴロゴロゴロ〜

大雨が降り出した。風が強くなり視界は消えた。

「雨だわ」

「スコールか…」

「王国に来た時みたいだな」

「恵みの雨だ。これなら奴らを倒せるかもしれない」

拓斗がこんなことを口にしたのには、ある秘策があったからだ。

五人は彼を見る。

「拓斗くん、何か策があるの…?」

「奴らを追っ払うことができるのか?」

拓斗は、皆に考えをメモした紙を見せた。

それからも、雨風は強くなり、辺りの地面はぬかるんで歩いただけで靴は泥まみれになった。

キングタイガーの入口から、三つの影が出てきた。そして、足早に空堀近くの物見櫓に登り、ギラリと鋭く光る小刀を取り出し、ロープにかけられるようにした。

「いつでも行ける」

「こっちは、怪獣たちがまだ砲撃に耐えているわ」

「もう少しでこっちに来るぞ」

刀を持っているのは拓斗、見張りをするのは、カトレアと博樹だ。

カトレアは手に旗を持っていた。

キングタイガーの中には、麗子、はるみ、翔が弾を装填し、照準を合わせて射撃していた。

「拓斗、しっかりやってよ!!!」

「頼むぜ!!!」

「お願い!!!」

拓斗が刀を振り下ろす。

「行けっ」

“スッパ”と真空を斬る音が周りに聞こえた。

すると、何かの地響きの様な音が地の底から聞こえてくるようだった。

怪獣たちは、それに気付いて辺りを見渡す。やがて、巨大な岩の塊の様なものが彼らの前に現れた。

次の瞬間、小さな光が“カチッ”と音とともにした。やがて、怪獣の視界は眩い光に包まれた。

“キーン、ドッカーン!!!”

大爆発が起こった。

「ギャアアア」

「グアア」

サーベルタイガーやダイアウルフたちが飛び跳ねる。マンモスやギガノトサウルス、ティラノサウルスたちはその爆発で巨大な地響きを立て密林の奥へ逃げ去った。

六人はその様子を見て、はるみたちは、戦車から身体を出し、拓斗たちは櫓からその様子を見て確信した。

「勝った…勝ったんだ」

「私たち、勝ったんだよ」

「勝ったんだ」

拓斗と博樹、カトレアは互いに抱き合って喜んだ。

「はるみ、貴女の旦那様は凄いわ」

「万歳、王国を守ったんだわ」 

はるみと麗子は顔を見合わせて涙を流して抱き合った。翔は「よっしゃ!」とガッツポーズをした。

拓斗と翔は以前から、このような事態に備えて、火薬を集めて巨大な炸裂弾を作っていたのだ。ちなみに大きさはボウリング玉くらいだが、火薬の量を多めにしておいたのだ。(火薬は日本軍の基地や二式大艇、菅野大尉の愛機の機銃弾や魚雷、爆弾の信管を慎重に拝借して作成した)

こうして、戦いは彼らの勝利で終わった。




















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