楽園24  懐恋(かいこう)

〜一年前〜

拓斗は、大阪の地に足を降ろした。

「へへ、やっぱ、都会はすごいな」

家の手伝いやお年玉、誕生日に貰ったお小遣いや、漫画や小説、ゲームを売って作った貯金で、こっそりと大阪に遊びに来ていた。

学校のテストが終わり、お昼から休みだったので、こっそりと遊びに来ていた。

「啓二の奴がこの前、家族で行ったスパワールドやら天王寺動物園、ハルカスに行ってみるか、その前に美味いもの」

普段住んでいる町にない、スイーツやグルメに拓斗の心は踊っていた。

修学旅行や社会科見学ではなく、個人で、友達や親にも内緒で来るなんて、家出とは違ったスリル感があった。

バスで二時間近く高速を走り、難波駅のバスターミナルを降りて、地下街を抜けた。途中で見つけたカフェに入り、腹ごしらえをした。英国風カフェ「エリザベス」でこ洒落たスイーツにした。

「美味い、これがアールグレイの紅茶か、ガトーショコラケーキも美味いな」

七百円ほどのセットだったので、すっごく美味しいかった。ちなみに、茶葉はイギリスから輸入されたものを使っていると店長のお姉さんが教えてくれた。

「食べたし、次は天王寺をぶらつくか」

地下街を抜けて、道頓堀を歩く拓斗。

お姉さんに教えてもらった観光地をブラブラする。流行りのお店や老舗のお店が軒を連ねている難波の繁華街は良かった。

「地元の繁華街はほとんどいい店なんて無いからな。シャッター商店も多いが、人が多いから祭りみたいだな。お、グリコのシンボル」

ナンパ橋で有名なえびす橋に来た。

旅行者や大阪在住の人もそうだが、町より美人な人がたくさん歩いていた。しかし、ナンパしているのは、イケメンや体格の強うそうな男性か、ブランドの服を着たお金持ちそうな男性しか成功していない。

自分みたいな高校生では、太刀打ち出来そうもないなと悟った。とりあえず、道頓堀を歩いて散策した後、ハルカスや通天閣のある天王寺の町に向かった。

四月の終わりだが、初夏の様に暑い。

拓斗は休憩がてら、スパワールドにやって来た。

「啓二も家族と来て楽しかったと言っていたな」

啓二も家族とこないだ遊びに行ったと聞いていた。プールも温泉も、マッサージも何でも楽しめる巨大温泉施設で最高だと。親友の率直な感想に彼は心を踊らせた。

まずは、テレビのCMでよく目にするスライダーを体験しようと考えた。

フロントで料金を確認し、水着をレンタルしてスライダーのあるプールに向かう。

夏以外にもプールを楽しめるなんて、夢のようだと拓斗は考えていた。エレベーターのドアが開くとたくさんのお客さんたちが楽しんでいる。

家族連れ、カップル、友達同士などでわいわい賑わっている。スライダーは今一番の目玉だからか、長蛇の列だった。

しかも、かなりの絶叫系だ。

拓斗は、遊園地のジェットコースターとかがかなり苦手な方だ。

「やっぱ、ちょっと遊んだら、温泉入って帰るか」

流れるプールで泳ぎ、奥のジャグジーでくつろいだ後、拓斗は温泉に行こうとエレベーターに向かった。

その時、彼の前に一人の美女が現れた。

(外国人の女の子?)

「Sorry」

彼女は、拓斗にいきなり現れたので、驚かせてしまったと思ったのか、にこりと笑い立ち去った。

黄金色の長い髪をポニーテールにし、色白の雪のような肌にお洒落な丸い眼鏡をした女性。

見た所、一人のようだが、拓斗は英語で話しかけた。

「Don't worry」

彼女は、それを聞くと英語がわかるのと返してくれた。

「A little」と伝えると、彼女は少し安心した。

「Your from Country?」

「あ、私、少し日本語わかるよ。貴方、英語で返してくれて嬉しいわ」

彼女の名前は、マヤ。

ドイツから日本に旅行しに来たと話してくれた。

拓斗も簡単な自己紹介をし、スライダーに進んだ。

「ドイツか、マヤさんは、どこの町に住んでいるの?」

「ドレスデンよ」

「有名な古都だ。エルベ川が有名な」

「拓斗、詳しいのね」

「うん、いつか、行きたい国だよ。隣国のフランスやチェコ、イギリスにも行きたいんだ」

ちなみに、マヤは拓斗の年齢を聞いてびっくりしていた。

「高校生なんて、びっくり、私より年上かと思ったわ」

「僕も、マヤさん、同い年かと思ったら、二十三歳に見えないよ」

拓斗より六歳も年上だと言うが、同い年ぐらいに見えたので、驚いた。

身長も同じぐらいだが、ふくよかな胸をし、レンタルの格安のスクール水着だが、グラビアアイドルみたいにかわいいらしかった。

彼女も周りの女性たちみたく、ビキニやかわいいらしいのを着てみたいと言っていたが、費用があまりないので、レンタルで我慢していたのだ。

「マヤさん、かわいいらしいから水着、似合っていますよ」

拓斗のセリフを聞いて、マヤはぱぁと明るくなった。

やがて、二人の番が来た。

「二名様ですか?こちらのタグボートがありますよ」

最初、拓斗は照れて、別の浮環を伝えようとしたが、マヤが係員に、

「二人で乗ります」

後ろがつかえていたので、ボートに乗り出発した。

「うわ」

「キャハ」

前側だったので、拓斗は衝撃をもろに受け、第絶叫した。

その後、プールから上がり、拓斗とマヤはスパワールド周辺の観光地を遊んだ。

拓斗は、普段履いている濃紺のジーンズと白のポロシャツと白のスニーカーのコーデだ。マヤは、真紅のワンピースと白のハイヒールだ。

天王寺動物園、阿倍野の商店街、天王寺の古刹。

「阿倍野は、陰陽師の安倍晴明様の出身地だからと言う逸話があるんだ」

「妖術の使い手ね」

「マヤさんの国なら、ファウスト博士が有名ですね。悪魔のメフィストと契約した」

「ファウスト博士は、悪魔と契約して地獄に連れさらわれたのではなく、錬金術の失敗で爆発に巻き込まれた事故死よ」

日本ではよく、悪魔のメフィストと契約し地獄へ連れ去られたと漫画や映画ではお決まりだが、事実は普通なものだと教えてくれた。

ちなみに、拓斗が話していた安倍晴明も陰陽師だが、平将門の息子で滝夜叉姫の弟だった説がある。

ちなみに、マヤは茶臼山で真田幸村の大ファンだと言った。赤い服を好んでいたのも納得出来る。

ゲームやアニメ、ドラマのキャラは大好きだと

大阪城も行きたいが、時間とお金を考えたら、あまり遠くまで行けない。

拓斗は、あることを閃いた。

「アベノハルカスに登ろう」

二人は、茶臼山から歩いて、すぐのところにある通天閣より高い大阪中を見渡せる展望台に案内した。

宇宙船のようなエレベーターに乗り込むと違う世界に入り込んだようだった。

ドアの先には、360度が見渡せるガラスの世界があった。

「わぁーお」

マヤは、まるで、子供のような瞳をして声を出した。

「あれが、貴女の大好きな真田幸村様が大活躍した世界を一望出来ますよ」

自分たちの眼下に、四百年前、天下をかけた巨大な戦場、数多の人々が未来や正義を信じて散った「大阪の陣」

今、ドイツと日本と言う二つの国の男女が足下にそれを見ることが出来る。

楽しい時間は、あっと言う間に終わる。

拓斗とマヤは、バスターミナルで別れた。マヤはこれから、関空からドイツに戻る飛行機に乗る。

拓斗も地元に戻るバスに乗り込む。

「拓斗、本当に、ありがとう」

「こちらこそ、マヤさんと一緒に大阪の町を楽しめて嬉しかったです。本当にありがとうございました」

「貴方が家に帰宅した時、私は空の上ね。拓斗、また、日本に来た時は会ってくれる?」

マヤは、少し頬を紅く染めて言った。

拓斗も同じように照れながら応えた。

「もちろん、僕も大阪から離れた町に暮らしています。海に近い町で海水浴場や釣りの穴場がたくさんあります。マヤさん、是非、お待ちしております」

ぱぁと明るく、ハルカスの展望台で見たような笑顔になったマヤを見て、別れの寂しさは無くなり、再会への期待は大きくなった。

バスに乗り込む、直前。

「拓斗!!!」

マヤが呼んだ。

振り向き様に、彼の唇を甘い、優しい香りが包み込んだ。

バスが遠ざかるまで、彼女は白い華奢な腕を力いっぱい振って、見送ってくれた。

〜マヤさん〜

拓斗は、一年前の恋を瞼に浮かべていたが、今は、さらに幸せな時間と場所にいる。

ただ、その事実だけは変わらないと思った。

「拓斗」

「拓斗くん」

はるみや博樹たちが自身を呼ぶ。

過ぎった恋心を胸に新たな帰るべき場所に、「今、行くよ」と仲間たちに応えた。

秘めた優しい恋を心にしまって…





















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