楽園25   遠くの空を越して

大草原をどこまでも歩く六人、島にまさか、こんなに壮大な場所があるなんて思いもよらなかった。

「綺麗だな」

「まるで、サバンナみたいだな」

「オーストリアのウルルの近くみたいだわ」

「ウルル?」

はるみに、拓斗がウルルと言うワードを聞いて、オーストリアの名所かなと伺う。

「エアーズロックとは違うの?オリンピックがあったシドニーのオペラハウスとカンガール、コアラはオーストリアの代名詞でしょう」

「拓斗くん、ウルルはエアーズロックの現地に住む原住民の人たちの言い方よ」

「聖地なんだね」

アボリジニを始め、オーストラリアの広大な大陸にはたくさんの原住民が住んでいる。

エアーズロックは聖地として崇めれていた。ちなみに、かつて、世間を感動させた男女の儚く美しい恋を描いた物語でも、一番泣けるのは残された男性が彼女の遺灰をエアーズロックから風に舞わすシーンには、当時日本中が涙した。

「私たちも泣いたわ」

「この場所も、聖地にしてもおかしくないよな」

草原を歩く六人、明るい太陽の下を風に身を委ねて彼らだけの聖地を歩く。

それは、楽園に入り込んだら彼らの新しいスタートだったのかもしれない。

東の方へ進んで行くと、小さな川があり、それに沿って歩いていく。水は鏡のように透明で、手を水に入れると冷水のように冷たく、飲んでも大丈夫だった。

「美味しい」

「環境が綺麗で汚されていないから、味が美味しいだな」

六人は、喉の乾きを潤して、さらに足を進めた。すると、翔が何かに気付いた。

「なあ、あれなんだ?」

目の前に何かが横たわっていた。かなり巨大な何があった。

恐る恐る近づくと、そこにあったのは、

「飛行機だ。かなり、大きいぞ」

そこにあったのは、四発のプロペラを装備した飛行機だった。

蔦や草に覆われ、ボロボロになっているが、立派な翼を備えたその飛行機はかつての勇姿をまだかろうじて残していた。

「二式大艇、二式大艇だ」

拓斗が、機体を見て驚き、大声を出す。

「拓斗、しっているの?」

「現在の海上自衛隊のUSー2救難飛行艇の先祖とも言える日本海軍の飛行艇だよ。雷撃や攻撃、輸送からなんでも来いの海軍の戦力機体だよ。まさか、こんな所で実物が見られるなんて」

興奮気味に言う。

麗子やはるみたちは、都内にある船の科学館で展示されていたのを観たことがあるのを思い出した。

「昔、お台場近くで見た記憶があると思ったら、あのでっかい飛行機なのね」

二式大艇は、飛行艇だが、その巨体ゆえに爆弾やら魚雷搭載なども出来た上に、米軍機を撃墜する戦果を多数挙げた。一式陸攻の主力爆撃機より実は活躍した機体なのだ。

「例えるなら、零戦や紫電改、一式陸攻が華奢なアイドルやモデルなら、二式大艇は彼女たちの姐さん的なマネジャーさんみたいなものかな」

「なるほどな」

「わかりやすいぜ」

博樹と翔が納得すると、女性陣が、

「やっぱり、男の子って、同い年の子や年下の子がいいの?」

「そうだよね…年離れていたら」

はるみ、麗子、カトレアが遠い目をして言った。やはり、自分たちみたく六歳も離れていたら、ジェネレーションギャップを感じてしまう。

「麗子さん、俺、麗子さんの事魅力的だと思うよ」

博樹が言うと、翔もカトレアに近づき、

「俺、先生している女性とつくづく縁があるんだな。カトレアさんが小学校の先生をしているって聞いて、かつての、大好きだった人がそうだったから…」

「はるみさんみたいなパワフルなお姉様は、これまで好きになった同い年の子より百倍魅力があるよ」

しかし、彼ら三人は、美女たちを誰よりも誉め称えた。今までに辛い思いをしたり、もしくは現在進行形でして心が鍛えられているからだ。

だが、彼女たちは大人で、経験も知識も豊富、男性なら欲しがる母性が溢れているからだ。

美女たちは、優しく微笑む。

なぜなら、彼女たちも恋愛では痛い思いをたくさんしてきたからだ。だからこそ、彼女たちに若い少年たちの言葉が心に響いた。

夜、大草原で今夜だけキャンプすることにした六人は、飛行艇の脇にテントを張り、星空と夜風に身を任せて楽しんだ。甲板から眺めるのもここから見るのも輝きは一緒だが、海からくる潮風も良いが、久しぶりのおかで浴びる風も気持ち良い。

「綺麗だな」

「綺麗だね」

誰もがそんな思いを星空に馳せていた。何億光年からの光は海も陸も変わらないし、何より東の方から吹く風が気持ちよかった。

「あぁ、なんだか歌の世界にいるようだ」

翔がぽつりと呟く。

「それって、夜明け前に駆け出す歌よね。眠れない夜に好きな人の声を聞いて、ただ東に向かうって言う。あの歌ね。私も毎日仕事のストレス解消にカラオケで歌うわ」

カトレアが言うと、麗子は、

「私もカーステレオの音量をガンガンにして、首都高を走るわ」

博樹は、麗子が走る姿を少し想像していた。

それは、ハードボイルドな一匹狼な女怪盗やスパイが華麗なハンドルさばきで摩天楼のネオンの中を疾走しているように想像出来た。

大自然のプラネタリウムを観賞しながらの時間はただ幸せの空想時間だ。

拓斗は身体を起こして、二式大艇を眺めながら、何かを考えていた。

「拓、何をしているの?」

はるみが優しく声をかける。

「はるみさん、草原と一緒の綺麗な緑色だから、わからなかったよ。昔読んだ漫画を思い出していたんだ」

はるみが着ているのは、濃い緑色のタンクトップとデニムのハーフパンツ、ふくよかな胸や引き締まった肉体を強調していて、冒険映画に出てくる荒野のレディートレジャーハンターみたいなか服装だった。

「どんな漫画だったの?」

「二式大艇で戦う飛行機乗りたちの物語さ」

いつも強い絆に結ばれた搭乗員たちが敵潜水艦を沈めた後、雨の中、海中に光る花を見て、戦死した味方や敵が泣いているように見えた時、敵の襲撃に遭ったんだ。かろうじて、敵機を撃墜したけど、機体は墜落するとわかった時に、隊長が銃を構えて部下たちに脱出するように命令したと、

「隊長さんは、どうなったの?」

「皆を脱出させた後、機体と運命をともにしたよ。隊長は皆に帰りを待つ家族や友達がいるが、自分にはいないからこの機体と逝くと言って、海に…、皆は、隊長が死の淵に引き込まれないように頼みに行ってくれたと感謝して物語は終わったよ。漫画の中の話だけど、この機体にもそんな歴史があるのかなって思って」

「拓斗…」

彼の目から涙が零れているのに気付いた。

はるみは彼に寄り添う。

二人は、手を繋いで仲間たちのもとへ戻ろうと足を進める。夜風は優しくいつまで包んでくれた時、秒針が午前零時を差した。

すると、星空以上に明るい光が彼らの前に現れた。

それは、

「満月だ」

「綺麗」

まるで、昼間のように明るかった。

「闇夜を星たちの王様が照らしてくれているね」

「うん」

拓斗とはるみは、少しだけ飛行艇に、こっそりと乗り込む。
















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