楽園28 新たな地で束の間の休息

麗子の体調も良くなり、六人は船の修理を始めた。

あっちこっち壊れていたが、そこまでひどくなかった。かろうじて直す事が出来そうだったので、森に入り木を切り、葉っぱや植物を加工して縄にしたりして、ゆっくりと作業に取り掛かる六人。

「よし、休息しようぜ」

「うん」

「疲れたな」

皆は道具を置いて、一時の間、心と身体を休める。先程まで大嵐に遭い、命からがらに帰還出来ただけでも幸運だが、誰も怪我したり、前のように行方不明になったりもせずにこうして一緒にいられる。それだけでも誰もが“良かった”って気持ちでいられる。

「うん、あれは何だろう?」

拓斗が、森の奥から何か煙のようなものが登っているのに気付いた。

「何かしら?」

「もしかして、麗子さんが感じた視線とか気配の主があそこにいるんじゃないのか?」

博樹が煙を見て思ったことを口にした。確かに、煙なら、人が住んでいるのかもしれない。もしかしたら、この楽園の何かがわかるかもしれない。

だが、カトレアがある不安を口にした。

「でも、食人族みたいな言葉が通じない野蛮な部族だったら?襲われて、そのまま…」

彼女の考えも一理ある。ここは、絶海の孤島だ。もし、本当に危険な部族だったら、攻撃される恐れもある。

「だけど、このまま、前に進めなかったら、何も出来ないわよ。カトレア、怖いのはわかるけど、私が守ってあげるわ」

「そうだよ。カトレアさん、俺たち男が三人もいるんだ」

「はるみさんや翔に比べたら弱いが、僕が囮になるよ。その隙に逃げるなり隠れるなりしてよ。小学生の時はかくれんぼと鬼ごっこじゃ負け無しだったんだよ」

拓斗が冗談交じりに言うと、皆は爆笑した。

そして、煙の見える方に進む六人。

船から歩いて十分の所だったので苦にはならなかった。

拓斗と博樹が先頭に、翔は後方をガードする形で進んだ。もちろん美女三人は真ん中に守られるように。

「皆、僕が斥候して行くから、皆木の後ろに隠れて、大丈夫なら右手を挙げる。危険なら左手を挙げるから身を出さないで」

「OK」

「頼むわ。拓斗」

拓斗はゆっくりと身を屈めて茂みに物音を立てないように進んだ。それはまるで、忍者さながらの動きだった。

「本物の忍者みたい」

誰もが思っている時、拓斗はかなりの緊張に支配されていた。もし、本物の怪物や野蛮な部族たちだったら、見つかり捕まったら、命は無いと思わなければならなかった。

(南無三)

神仏に祈る。

拓斗が覗き込んだ瞳にある光景が入り込んだ。

(拓斗)

拓斗は、右手を挙げた。

皆で彼の近くに寄ると、拓斗は身を立たせた。

「これは、凄い」

彼が指差す前には煙の正体が広がっていた。

「これは…」

「まさに、奇跡だわ」

そこには、湯気の湧いた自然に出来た温泉だった。

「秘湯だわ」

周りを確認した後…

「温泉だ」

「久しぶりの風呂だ」

「気持ちいいな」

拓斗に博樹、翔は浴び湯をして誰もいない森の温泉に飛び込んだ。

普通の温泉なら、マナー違反でしてはいけないが誰もいないので、ほぼ貸し切りだ。

やがて、

「お待たせ」

「南国の温泉なんて洒落ているわね」

「スパみたい」

はるみと麗子、カトレアがタオルを巻いて現れた。

拓斗たちは、湯けむりに美女たちが現れたことに、思春期男子ならあるあるなあれだった。

三人の少年たちは、ただでさえ熱い湯に浸かっているのに、全身が燃え上がりそうだった。

温泉に入る美女たち、太陽に日焼けした小麦色の肌に長いチョコレート色の髪のはるみ、白い雪のようなマシュマロ肌でウェーブのかかった栗色の髪を振る麗子、名前は南米産の華だが、大和撫子のような黒く艶のある長い髪と白く百合の華のような肌のカトレアと美女三人が湯に浸かると一瞬だけ、噴水のように湯がこみ上げる。

何よりも魅力的なのは、女神像のように…

(三人とも三桁超えで、でかい)

グラビアアイドルやモデルのようなスタイルに三人はすでにメロメロだった。

「あ、お風呂にバスタオル浸けたらマナー違反だったわね」

「あ、そうだったわ」

美女たちは、首元に手を当てるとタオルを解こうとする。

「はるみさん、麗子さん、ストップ」

「俺たち、まだ、心の準備が」

少年たちは目を両手で覆うと、

「おバカさん」

「裸見ようなんて、百年早いわよ。スケベ小僧ども」

「エッチことは、まだなの」

はるみと麗子、カトレアは青と白、ピンクのビキニを下に着込んでいたのだ。

「なんだよ」

「残念ね。スケベ小僧たち」

が、拓斗たちも下に海パンを穿いているので、おあいこだ。

皆で、また、大笑いする。

まるで、日本に帰って来たかのような気持ちで大笑いした。温泉、やはり、日本人ならば身近に感じる癒やしだからだ。

本当なら、白糸屋の温泉に浸かり、海や山を眺めている時であろう。だけど、楽園の鳥たちのさえずりを聞き、南国の珍しい華たちの甘い匂いと風を浴びながら入る温泉はまた違って癒やしを感じる。

「本当に楽園だな」

「ああ」

「家や会社、学校の悩みなんて皆忘れられるしね」

「うん」

「このまま、ここに、私たちの王国を造らない。これだけ住みやすい楽園なら、私たちだけの国に出来るわ」

「麗子さん、ナイスアイデア」

「いいね」

麗子がこの温泉を拠点に自分たちだけの国を建てたいと言い出した。誰も異議は無かった。

楽園を自分たちだけの誰にも侵されない王国に変えたい。

六人の願いは一緒だった。










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