楽園29  建国

温泉で癒やされた六人は船に戻り、修理を続けつつ、次の準備もした。

「まず、俺たちの暮らす新しい家を建てる。そして、あの温泉の近くに脱衣場や遊技場、トイレやマッサージが出来るベッドを作ろう」

「いいわね」

「屋根は椰子の葉を使った。南国風にしようぜ」

「花壇を作ってお花を育てたいわ」

「畑を耕して、作物を育てたいな」

「海や川で釣った魚や貝を入れる生簀もいいよな」

「病気や怪我をした時の救護室や薬草を保存する保管庫も作ろうぜ」

皆でたくさん案を出し合う。国造りと言うより、子供の時に友達と作った秘密基地のようだ。

夢は無限に広がる。

「そうだ。国なら国旗を作らないか?」

拓斗が発案したのは、国家ならシンボルとしての国旗作りを言い出した。

「いいわね。何にする?」

「フランスやドイツ、イタリアみたいな三色を合わせたのにする?」

「日の丸やバングラデシュ、パラオみたいな太陽や月を使うか?」

「アメリカやオーストラリアみたいな星を刻むのも、カナダのメイプルみたいな植物もいいわね」

皆が思い思いに案を出す。麗子は本職の会議ではありえないことだと思った。

「そんな立案など、ふざけている」

「葉月さん、少し賢くなりたまえ、この会社のいや、業界のルールや常識に反することをすれば、淘汰される。君も父上や母上が偉大な方ならわかるだろう」

「まったく、世間知らずの小娘が…」

実力主義の旧態依然の古い時代の上司や取締役たちが若手の意見を無視して、時に理不尽なやり方で潰される。麗子は意見を出しても聞き入れて貰えず、何度も自問自答した。

(私は誰なの?なんで、バカみたくこんな思いをしているのか?)

「麗子さん、まだ、体調が優れないの?休む?」

翔が麗子の表情を見て、声をかける。

「温泉に入って、少し湯あたりしたのかも、麗子さん、寝床用意するから横になって休んでいなよ」

博樹は、そう言うとシーツを敷いてくれる。

「博樹くん、翔くん」

「麗子、休んでいなよ。無理したら、大きな怪我や病気になるよ」

「そおだよ。片付けは私らがするから、リーダーとかじゃないんだから、気にせず休んで」

「果物まだ、残しているから、あ、お米あるからお粥作ろうか?」

カトレアもはるみも拓斗も心配して、麗子に休息することを進める。

「皆、ありがとう」

麗子はシーツに身を預ける。

他の皆はそれぞれの仕事は静かに終わらせる。

(なんか、いい感じね)

彼女はクスッと笑う。

王国もいいが、もし、元の社会に戻れたら、はるみや博樹たちと会社を起して仕事をしたいと少しだけ淡い思いを抱いた。




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