楽園60 降り注ぐ困難
ティラノサウルスを追い払うことに成功したが、拓斗とはるみが帰ってこない。
気を抜くことは出来なかった。もしかしたら、まだ、どこかに敵がいるかもしれない。
王国を、二人が帰ってくる場所を守らねばと誰もが思っていた。
「さて、まだ、ここだと危険だから、脱出出来るように見張り台の近くにいましょう。そこだと」
麗子が言った時、向こうから大きな悲鳴のような声が聞こえた。
「ギャアギャアー」
さっきのティラノサウルスの声だ。
四人は警戒しながら茂みを除いて様子を伺う。
“ああ”と声を殺した。
そこでは、ティラノサウルスの首にギガノトサウルスが鋭い牙を立てて、血しぶきを噴出させていた。どうやら、砲撃されて撤退しているところを狙われたようだ。
「ガァァ」
「グギャアァァ!!」
その断末魔の叫びはこの世のものとは思えなかった。まるで、地獄で苦しむ亡者のうめき声のようだった。
四人は耳を閉じた。聞くに堪えない叫びだったからだ。
「怖い」
「いや」
「弱肉強食とはまさにこのことだな」
ティラノサウルスも負けじと自身より巨体のギガノトサウルスに応戦する。
彼らに取って白亜紀の世界で繰り広げていた戦いを今、日本ならば令和と呼ばれる世界でしている。
博物館の模型や遊園地のアトラクションでもない太古の世界の王者と皇帝の覇道と王道の激突だ。
「俺らも去ろう。また、攻撃されるかもしれない」
博樹が促すと足音をたてないように去った。
「拓斗とはるみさん、いつ帰ってくるんだろう?」
「はるちゃん」
夜空の向こうを眺めるが、二人の乗った機体は帰ってこない。
だが、感傷に浸る間もなく、さらに凶暴な脅威が四人に近づく。
「うわ」
博樹が大声を出した。
「博樹」
「博樹くん、どうしたの?」
あれを見てくれと指差す。すると、そこには新たな脅威が立ち塞がる。
「サー、サーベル」
「グルルル!!」
グルルと鋭い目付きと牙を四人に向ける氷河期のハンター、スミロドンが広く知られている別名サーベルタイガーがいた。
それもかなりの巨体だ。
「いやー」
「逃げましょう」
「食べられるわ」
だが、背後にも脅威があった。
「みんな、待った。こっちにも」
「嫌だ。狼」
ダイアウルフ、そお、サーベルタイガーと同じ古代世界の凶暴な肉食動物だ。
「ワンちゃんみたいな身体しているけど、怖い」
「狼の遠縁で、今の犬に近い生き物だって拓斗から聞いたことがあるが、完全に狼だ。飢えた目をしている」
前からはサーベルタイガー、後ろはダイアウルフとまさに前門の虎、後門の狼的な危機的状況だ。
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