楽園59   新生王国

拓斗は基地の上空にさしかかり、下を指差した。

「はるみさん、あそこだよ」

眼下に長方形に広がった広場みたいな場所があった。かまぼこ型のビニールハウスみたいな建物と古い平屋が一緒に立ち並び、壊れた飛行機の残骸が…間違いなくかつて麗子と見つけたあの場所だ。

「拓斗、しっかりつかまっていて」

「はい」

滑走路だった場所に、速度を落としながら降下し着陸する。風防を開けて外に出る二人、どうやら、ティラノサウルスたちはいないみたいだ。

早速、拓斗はランプに明かりを点けて司令室か兵舎だった建物に入り、麗子が見ていた日誌を鞄に入れた。はるみは辺りを警戒し、二人で奥の倉庫に何か道具や武器がないか調べた。

「はるみさん、何かある?」

「ないわ。ほとんど壊れた箱の木片しか。ここは、戦争が終わる前に破棄された基地なのかな?それとも、攻撃を受けて全滅したの?」

倉庫には乱雑に捨てられた箱の木片が床に散乱し、つい昨日、この場所が滅んだかのように見える。七十年以上前の出来事なのに…

壊れている零戦や紫電改も同じように直せる部品がないか考えたが、こちらは損傷が激しく手が付けられなかった。いや、使えるものはなかった。

どうやらスカンピンで帰らなければならないようだ。

その時、はるみがあるものを見つけた。

「拓斗、ちょっと、こっちに来て」

手を振って彼を呼ぶ。

「はるみさん、どうしたの?」

はるみのいる部屋に駆ける拓斗、そこで二人は驚愕するものを見つけた。

「拓斗たち、大丈夫かな?」

翔が時計を見て、空を見る。

時刻は午後七時、二人が飛び立ち二時間近く経過していた。

二人の身に何かあったのか、心配だ。

「翔くん、あなたまで倒れてしまうわ。二人が戻ってくるまで信じて待ちましょう。ね!!」

麗子が翔にバナナジュースを渡した。

「麗子さん、ありがとう」

四人は、はるみと拓斗が帰ってきた時のために食事の用意をしていた。きっと、緊張と恐怖で空腹になっているだろう。

博樹とカトレアも二人が帰ってくるのを待っていた。だが、四人の不安な思いはやがて和らぐことになる。日没とともに辺りが暗くなり、海は静かな色を迎えた。

すると、雲間から明るい輝きを魅せるものが現れた。

「フルムーンだ」

巨大な満月が海から出てくるかのように現れた。

「綺麗だな」

「拓斗とはるみさんは、もっと近くで見ているんだろうな」

「ああ」

四人は、二人が帰ってくるまでに王国の、新生王国の初夜を皆で祝いたかったが、事態が事態なので、温泉の周りに作った残骸を再利用して作った篝火を周りに灯した。

新生と言っても、まだ、未完なのでそこまで立派ではないがあと少しで完成だ。

拓斗たちが戻ったら、アイランド号でささやかながらお祝い会をする予定だ。麗子はもう一度明日作業する図面を確認している。畑の周囲に大きな堀を掘って恐竜たちから身を守る考えだ。それと、昼間見つけた野戦砲も荷揚げして設置してある。試射していないが油を指して、砲身を磨いておいた。

「攻撃こそ最大の防御とは言うが、たかが一門の砲しかないから、どこまで戦えるかわからないが…いざとなればアイランド号に逃げれる準備はしてある」

「ティラノサウルス、ギガノトサウルス、さらには、マンモスやサーベルタイガーが束になってきたらな」

アロサウルスの死骸は確認したが、他の二匹、さらには、氷壁に眠っていた恐竜や古代獣たちが現れたら…

大砲一門で何時間戦えるかわからない。ましてや、全員が兵役経験もない一般人だ。大砲も撃てるかどうか…

不安に駆られていた時、それは現実になってしまう。

「ギャアアア」

巨大な雄叫びが、地の底からやってきたかのような声が四人の耳を裂く。

「ティラノサウルスだ」

「ついに来たわね」

岩の上から、ティラノサウルスが眼下の新生王国と四人の獲物に狙いを定めてジャングルから出てきた。

「六億年ぶりのディナーにありつこうてか」

カトレアはその姿を見てら

「やだ。怖い」

翔に抱きつく。彼はカトレアを渡すまいと強く抱きしめた。

「みんな、落ち着いて、とりあえずは大砲で威嚇してみましょう。大丈夫よアイランド号に逃げられる準備はしてあるわ」

麗子の言葉に博樹と翔は、野戦砲に弾を込めた。麗子が安全装置を外し、カトレアが照準を担当した。

ちなみに、カトレアだが射撃ゲームが趣味なので、休日にはるみとサバイバルゲームなんかにも参加したことがある。

勢いよく突進してくるティラノサウルスの足下を狙った。

(怖いよ。パパ、ママ)

心の中で両親を呼ぶカトレア、翔が、

「カトレアさん、心配しないで俺らも一緒だよ」

彼女の不安を取り除こうとする彼とのアイコンタクトした時、カトレアは勇気を取り戻した。

「うん」

再度、狙いを定める。

(おね、ねえ…)

心の中に声が聞こえた。

(小さく深呼吸して、そしたら、的はいや敵の弱点はつけるから)

懐かしい声に彼女はその主に気付いた。

言われた通りにその動作をして、再度照準を定めて、砲の引き金を弾いた。

「ガアァー」

雄叫びを上げるティラノサウルスに向かって足下で爆発がした。

「ギャアア」と巨体が倒れる。

突然の出来事に驚いたのか、ティラノサウルスはそのままもと来た方へ逃亡した。太古の世界にはなかった攻撃にあったから恐怖を感じ、そのまま山の方へ勢いよく逃げてしまった。

「勝った。勝ったのね」

呆気に取られる四人は自分たちの勝利を確信し、万歳をした。

「万歳!!」

「やったわ。私達、勝ったのね」

「勝利したのよ」

「よかったな」

皆で勝利を喜んだ。

新生王国を守ったのだ。

(ありがとう…護くん)

カトレアが心の中で今は亡き彼にお礼を言う。

すると、南国に似つかしくない警察官が彼女と仲間に笑顔で敬礼して消えた。








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