楽園45  新たな脅威、新たな発見

”ざっぱん“

一面の群青の世界に博樹と翔、麗子は目を奪われた。その碧さはどこまでも続く異世界への入口のようだった。

(綺麗)

(幻想的だ)

そこに、拓斗、はるみ、カトレアも続いて潜って来た。

そお、海底の珊瑚礁を拓斗が漁中に見つけたので皆で覗きに来たのだ。

(これは、王国の新たな観光スポットだな)

(本当ね。でも、私たち以外いないけどね)

(たしかに)

海底から上がるとそこにも蒼が広がっていた。

「綺麗な世界だったね」

「うん」

一昨日はデストロイヤーと呼ばれる猛者の愛機が漂着し、色々と調べたが何も新たな発見はなかったが、拓斗と翔、カトレアが漁をしている時にたまたまこの空間を見つけて、皆を招待したのだ。そお、全てが透き通る「青海へ」

陸に上がる六人、太陽が頭上にあった。

「正午だな」

「ランチにしましょう」

今日のお昼は先程海で捕まえた海老と牡蠣やアワビで高級ホテルや料亭のような献立だ。

「豪勢」

「こんなの本来なら、何万円もないと食べられないぜ」

「早く食べようぜ」

「うん」

ビュッフェ形式にしているので、皆で魚や貝を椰子の葉の皿に盛る。そして、和気藹々と今日の作業や休憩にしたことや考えたことを話すのが日課と言うより楽しみだ。麗子たち女子三人はよく都内のホテルやレストランで開催されていた婚活パーティーを思い出していた。

豪勢なランチ、オシャレな料理もあれば甘い匂いのスイーツもあり、まさに男女の出会いの場であるのと同時に美味しいものが口に出来るのが最大の悦楽だ。麗子はブティックで買った流行りの服や靴を身に纏い参加した。

はるみやカトレアは、イベントやスポーツ婚などの多彩なジャンルの婚活パーティーに参加していた。運命の人はいなかったが、これはこれで楽しめた。

そお、家と職場しか往復しかしない砂を噛むような日々を少しだけ忘れさせてくれていた。

「皆さん、魚介類だけではなんなのでこないだ森で見つけたいちごにすももに野葡萄もありますよ」

拓斗と翔が森で見つけた野いちごや野葡萄、すももを食卓に並べる。

都会の華やかな休日の日々もよかったが、ここでは新鮮なものが自分たちの手で取ってこれる。それもまた誰にでも誇れる王国の財産だ。

幸せな時間、だが、六人はある見えない脅威に晒されるとは知る由もなかった。

草木も眠る深夜だった。

「う、う〜ん、寝苦しい、いや、痛い、身体が痛いよ」

眠っていたカトレアが身体に違和感を感じた。

身体を起こしてのたうち回るカトレア、皆もその声で起き上がる。

「カトレア」

「どうしたの?」

「カトレアさん」

博樹は、奥に置いてあった薬箱を持ってきた。

「カトレアさん、鎮痛剤の錠剤」

「俺、お湯を沸かしてくる」

「冷蔵庫から氷を取ってくる」

翔は鍋を持って、タンクに溜めている水をすくい上げて温める。

拓斗は冷たい空気に常時冷やされている洞窟(冷蔵庫)から氷を取ってきて、砕いて布袋に水と一緒に入れて冷やし袋を作る。はるみに渡してカトレアの脇に当ててもらう。

お湯が沸き、麗子とはるみは布マスクをして、「あつ」と手を熱湯消毒した。

「カトレア」

「カトレアさん」

体温計で熱を測ると三十八度近くあった。

「まさか、マラリアみたいな熱帯特有の病気じゃないわよね。感染の強いものなら私たちにも感染ったら…」

「え?」

「はるみ、博樹くんたちもすぐにマスクをして、感染したら私たちも立って居られなくなるわ」

拓斗たちは、事態の重さに見えない圧力をかけられ、金縛りにあったように動けなくなった。だが、麗子とはるみは、三人に大声で言う。

「何をしているの。一歩遅ければ全滅よ。早く」

「はい」

「わかりました」

拓斗たちもマスクをして、熱湯消毒した。

その後、麗子とはるみは夜通しカトレアの看病をした。身体の汗を拭いたり、氷袋の取り替えをした。

拓斗たちは、船外で翔は布の洗濯や修繕をし、博樹は麗子たちの夜食や飲み物を用意した。

拓斗は見張り番なので、見張り台に向かった。

(カトレアさん)

朝になった。

「麗子さん、はるみさん、様子はどう?」

「だいぶ落ち着いたところね」

カトレアは静かに寝ている。ほんの一時間前はかなりの痛みに彼女は襲われ、「うぅ、うぅ」「痛いよ。痛いよ。ママ、パパ」とカトレアは涙をこぼしながら言っていた。

麗子は必死に身体の汗を拭き、はるみは氷袋を交換するしか出来ず涙をこぼしていた。親友が目の前で苦しんでいるのに、変わってあげり、痛みや苦しみを分けてもらい一緒に苦しみたいと思っていた。

だが、それは翔も同じだった。

最愛の女性がこんなに苦しんでいるのに、自身が医学の心得があればと…

見張り交代になり、拓斗は戻ろうとした時、田端さんのお墓に立ち寄り、あることを始めた。

それは、お墓から少し離れた岩まで何度も往復し、お祈りした。

「軍神である田端さん、カトレアさんを助けて下さい。お願いします」

そお、昔からある願掛け「お百度参り」だ。

博樹が交代できてくれたので、一度戻ることにした。

「カトレアさんは?」

「だいぶ落ち着いたが、油断出来ないって所だ。とりあえずは、みかんとパイナップルの砂糖漬けや葡萄ジャースを用意しているよ」

「はちみつでもあればな」

「はちみつ?」

「前に本で読んだが、はちみつは甘い上に栄養価も高い上に、風邪の時にレモンティーかレモネードに入れると回復が早まる、あとは硬い牛肉なんかも柔らかくするって…」

「そうか」

拓斗と博樹は町のショッピングモールやコンビニ、スーパーや雑貨屋があってくれたらなと考えていた。楽園、何も縛るものがなく楽しく暮らせるが、病気や怪我をした時が一番不安だと、自身たちの暮らしていた町での生活が制約があってもいかに恵まれていたのか今になってひしひしと感じた。

その時だった。

「〜ブ〜ン〜」

拓斗は一匹の小さな蜜蜂が飛んで行くのを見つけた。こっそりと付いていくとそこには…

「あっ」

カトレアの容態は少しづつ回復しているが、まだ、全快とは言えない。寝汗も酷く、呼吸も少し辛そうだった。

はるみと麗子は、悲しい顔をして見守っていた。

「カトレア」

翔が二人に差し入れの魚のスープを運んで来た。

「麗子さん、はるみさん、少し休んで、二人も倒れちゃうよ。俺がカトレアさんを看るから」

「翔くん」

「ありがとう」

麗子は少し離れたベッドに腰を下ろす。

(カトレア、大丈夫かしら?)

このまま、もし、何かで悪化しても医師もいない。薬も自分たちが薬草で作ったが副作用がひどくなって、手術が必要になったらと考えると不安は大きくなるばかりだ。

(どうしたら…)と考える麗子の前に甘い匂いがした。

「あら、何かしら?」

「甘い匂い」

はるみも気付く。すると、拓斗が何か壺のようなものを持って現れた。

「お二方、看病お疲れ様です。これをどうぞ」

壺の中には、光輝く甘い匂いがする宝物があった。


























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