楽園66 恋愛ハ百年
雨も上がり、風は穏やかになり、六人は砦の修繕をし、壊れたものを片付けて整備や新たな襲撃に備えて、そこにバラック小屋を建てることにした。
“ゴーン、ゴーン”
“カン、カッーン”
拓斗と翔が杭を打ち柵を建てる。博樹は新しく作る見張り台の材料を木を切って加工する。はるみと麗子はガラスをゆっくりとカトレアが組み立てた木組みにはめ込んでいく。
「よし、もう少しで完成だな」
「ああ」
「みんな、輝く窓が出来るわね。そしたら、毎日の景色が見られるわね」
「天上には、シーリングファンを付けたいわ。シャンデリアも」
「電気が無いから、手動だったり、ろうそくだけどね」
「映画みたいでいいじゃない」
古代獣たちをやっつけてから、彼らには平和が戻り、以前の日本軍の基地にあった兵舎や倉庫をモデルにしたが、設計図などがないので見よう真似ようで建設したが、なんとか形になった。
あとは、窓と出入り口を作れば完成だ。
ちなみに、この小屋はなんのために作ったのか、新しい居住区?倉庫?製作所?答えは中にあった…
「よし、みんなの娯楽場と酒保が完成した」
「わーい」
中には、木を削り作ったボウリング玉とピン、木の机を改良したビリヤードと卓球台、アイランド号にあった網を切り、土地を平らにして作ったフットサル場とテニスコート、ボールは余り布で綿を詰めて作った。
バラッケの中にはレーンを作り、ボーリング場を、さらには、他にも紙の札にイラストを書いて、トランプや花札を作った。
「花札なら、正月に家族や友達を集まって楽しんだな。ぷち町内会で」
「うちも、じっちゃんとおじさんたちが囲碁や将棋を指していたぜ。年がら年中、仕事サボってな」
博樹と拓斗が話すと、翔やはるみも
「小石を削って作った麻雀やチェス、木を細工した将棋と囲碁、麻雀の牌を見ているとバイト先の先輩たちが教えてくれたな」
「翔くんが麻雀するなんて以外ね」
「何か、極道映画のワンシーンみたいなイメージしかないもんな」
「先輩が休みの日は、雀荘通いするくらい麻雀が好きな人だったんだ。ゲームもしていたしな。俺自身も友達の家でアニメや漫画のキャラを麻雀みたいにしたおもちゃで遊んでいたから、多少の心得はあるぞ」
自慢気にドヤ顔で翔は言った。
「チェス、留学先の学生寮で友達や先生たちとよくしたわ。私は日本の将棋や百人一首をみんなに教えたわ」
はるみが内装も似ているから少しだけ懐かしくなっていた。
「百人一首、よく、書道教室に通っていたお友達たちと終わったらみんなで楽しんでいたわ」
麗子は中学時代に書道部に所属し、技術と精神の向上のため、書家の先生の教室に通っていたので、和歌も嗜んでいた先生が百人一首を持っていた。
「百人一首か、僕、玉の緒よの女帝様の句が好きだな」
拓斗が言うのは、式子(のりこ)内親王と言う女性天皇が遺した句だ。
彼女は歌人藤原定家の初恋の相手と言われ、彼女が彼に対する思いを綴った句と言われている。
「この恋を人に知られたら、私は消えてしまいたいって意味が込められているんじゃなかったかしら?」
麗子は百人一首は遊んだことがあるので、人物たちの歌を調べたりもした。
まだ、十九歳の藤原定家が十三歳年上の彼女から贈られた歌だ。
「式子内親王は早逝した…藤原定家は いなくなった彼女の大好きだった歌を続けたそうよ。宮中でしか生きることを許されない彼女の思いを夢が彼女の生きた証になるから…」
「好きな人との思い出は色褪せないようにしたいと彼から考えたんだろうな」
博樹は悲しげな顔をする妻に優しく寄り添った。
「この王国では、二人の夫婦の遺した宝を、大切にしよう。八百年前からの初恋を」
後日、百人一首の中からある式子内親王の歌とある男性の歌が額縁を作り飾った。
夕刻、六人でいつもの丘の上から西の空を赤い終わりを見ていた。サンセットビーチは長い一日を終わらせる印だ。
だが、式子内親王と定家を思うとどこか…
「来ぬ人を、まつほの浦」
拓斗が口ずさんだ。
「拓斗、それはどう言う意味なんだ?」
「まつほの浦?」
皆が尋ねると、
「夕暮れに海藻を焼いているように、私の身は待つ人を思うくらい恋焦がれているって意味、定家様は、式子様が亡くなった後、歌をやめよう。あとを追うをとするくらい悲しみに打ちひしがれた」
拓斗の言葉にまた、感傷に打ちひしがれそうになった。
「だけど、歌を百人一首だけは辞めなかった。なぜなら、式子様と自分を唯一この世界の片隅と彼女のいる世界を繋ぐものだからな」
その付け足しに皆は少しだけ安堵した。
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