楽園40  先代

「ケーキやクーヘンみたいにお菓子に入っているお酒の?」

ワインを始め世界各地の珍しいスイーツを口にしてきた麗子はすぐにわかった。サトウキビの蜜から造られるお酒のラム酒だ。

今でこそは、バーやお菓子にも使われるお酒だが発祥の地はカリブ海。

コロンブスやアメリゴなどの探検家たちが新大陸アメリカを発見した大航海時代、ラム酒は海賊たちのような船乗りたちの貴重な飲み物であり、壊血病などの病気を予防する薬だった。

「もしかして、貴重なラム酒を保管する保管庫かな?」

はるみが樽をコンコンと叩いた。すると“タップン、タップン”と返ってくる音に、博樹が落ちていた器を手に樽の蓋まで運んだ。拓斗とはるみが栓を開けると中から琥珀色の輝く美しいラム酒が…

「綺麗だな」

「本当だな」

「甘い匂いがするな」

まだ、二十歳前なのでお酒が呑めない少年たちはその甘い誘惑に負けそうになった。大航海時代の海賊たちはラム酒を真水代わりにして喉を潤していた。

時にはパンやビスケットに浸して簡単なスイーツにして長い航海の疲れを癒やしていた。

「だけど、十五世紀の大航海時代のものでしょう?六百年近く前のラム酒なんていたんでいない」

カトレアが樽や部屋の汚れ具合から長い間放置されていたと考えるが、麗子が、

「大丈夫よ。ラム酒に賞味期限は無いらしいから長期保存に持ってこいの代物よ。ここのも今も呑めるわ」

麗子たちは、せっかくなので船から運び出そうと樽を担ぎ出そうとした。博樹たちは、姉さん女房たちの大胆な考えと女傑な行動力にただ唖然としていた。

(はるみさん、すっごい)

(麗子さん、女帝だ)

(アンとメアリー、アルビダ様ら女海賊たちが憑依している)

なんだかんだと手伝う三人の少年は、女たちの腕っぷしに惚れ直している。

樽を十個ほど甲板に引き揚げた後は船を降りて国に戻ろうとするが、拓斗があるものを発見した。

「皆、ちょっと、来て!!すっごいものがあるよ」

手招きして、他の皆を奥の部屋に誘う。麗子や博樹たちは「また、面倒なものじゃないか」と呟くが、彼は重要なものを見つけた。

真っ暗な部屋だが、薄汚れた窓から少しの陽の光が差し込んで、かろうじて様子が伺える。部屋の中央にあったのは?

「骸骨?」

「その仏様たちが何かあるの?」

テーブルがあり、そこには身なりが立派な三体の骸骨がいた。

はるみとカトレアは、恐る恐る近づく。

拓斗は、三人が広げて見ている一冊の本かノートを拝借した。しかし、外国語で書かれているので詳しくは読めなかった。

「はるみさん、これって、英語?スペイン語?」

拓斗が彼女に渡すと、語学堪能な彼女は、

「ポルトガル語ね。留学中に習っていたから、古い言葉だけど、多少は読めるわ」

「はるちゃん、なんて、書いてあるの?」

「ちょっと待ってね…我々は」

〜ドレイクの艦隊から逃れて、十日以上経つ、東へ東へと進みセントヘレナを通り越した所、喜望峰沖で大嵐に遭遇して潮に流されて気が付けば、この島の浅瀬流れ着いた。しかし、それは何かに引き込まれるように我々は島に入った。

川を上がると沼のような場所に辿り着き、ここで海賊団を再建しようと考えた〜

拓斗は、ドレイクと聞いて興奮した。

「イギリスを発展させた海賊王、騎士の称号を持つ偉大なおとこだ」

「世界史で習うあの人か」

「勇ましいわね。この海賊たちは、ドレイク船長を相手に戦うなんて…」

はるみが続きを読んだ。

〜俺たちはここで海賊島のような根城にし、再び七つの海に繰り出し、イギリスと戦おうとした。俺様キャプテンタックのポルトガルから拝借した自慢の「タクファルト号」に、ケイトのガレオン船「ノンバードル号」にケンのオランダ船「ブルーツ号」は早速修理に入るが、島に〜

「だめだわ。ここから先は記録が汚れているわ。海賊たちに何があったのかはわからないわ」

航海日誌はページが汚れていて先の詳しい内容はわからなかった。ただ、三隻の海賊船はポルトガル、オランダ、スペインと大航海時代に一番幅を利かせていた三国からやってきた事、それぞれの船の船長はタック、ケイト、ケンと言うのだけ…彼らはかつて後に時代の覇者となるイギリスの大海賊フランシス=ドレイクと戦い敗れ、この楽園に漂着した。そして、何かがありここで息絶えたということだ。

「なんだか、ラム酒もいただくのも気が引けるわ。やはり、海賊さんたちの所に戻しましょう」

「そうだね」

「うん、墓泥棒にはなりたくないしな」

ラム酒を丁寧に元の棚に戻し、六人は崖の上にある花畑に行き、田端さんの時のように花輪を造り、それを三隻の海賊船と眠るキャプテンタック、ケイト、ケンの三人と仲間たちに捧げた。










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